50.出現した魔物
「お!クリスティーナ!久しぶりだなぁ····ぁぁぁあああ?!」
二週間近く仕事を休んでいた私は、領地から戻り翌朝朝練をも向かわず早めに王城へ向かった。
朝一番に来ていたニコラウス様に挨拶代わりに、お土産の魔石を差し出したところ絶叫された。
「ちゃんと魔法封じのクリスタル箱に入ってるから大丈夫ですよぉ」
大袈裟に騒ぐニコラウス様に落ち着くように促す。
「そういうことじゃない!これ、まだ肉片ついてるぞ!血まみれじゃないか!せめて洗って落とせよ!」
神経質なニコラウス様と話をしていると、ドアがガチャリと開いた。
「······あれ?クリスティーナ?!」
私を見るなり小走りで駆け寄る長身美形は、春の訪れのようにオーラに花が咲いていた。
「どうしたの?週末までお休みだと思ってたけど······まさか俺に会いたくなっちゃったの?」
フフっと乙女みたいに恥じらうギルベルト様は、私が口を開く前にぎゅうっと抱き締めてきた。
「違います」
私はギルベルト様用にもってきた魔石の入ったクリスタル箱を手渡した。
「うっ······ず、随分生々しい魔石だね」
「私が採った魔石です。お土産です、ギルベルト様」
「それで、早く休み繰り上げてまで出勤したのは、魔石の鮮度を保つためだけか?今度は何をやらかした?」
ニコラウス様が私に問う。
「100年ぶりに化物が出現しました、ニコラウス様」
ニヤリと私は笑った。
私が話をしようとすると、騎士団本部から緊急報告書が上がってきた。
「うん、もしかしてこれの話?」
ギルベルト様が心配そうに聞く。
「戦闘部隊から上がってきたのであればそうです。その話です」
「それにしても字が汚な······文体ひどいな、この報告書······どこのバカだ、これ書いたの」
ニコラウス様が眉間に皺を寄せる。
「ああ、うちのバカです。ニコラウス様。すみません。それうちの長兄のダニエル兄さんが書いたんです」
記録水晶の印刷があったため、騎士団本部からあげてもらう必要があり、兄さんが報告を行った。
「絶対マトモな報告書作れないと思ってたので、私実は自分で報告書作り直してきてます。これ、どうぞ」
と言って私は報告書を手渡した。
「ざっと経過書いてますが、うちの領地にある森で出現しました。過去の文献を確認したところ、100年前に同様の魔物が確認されています」
「ウンゲテューム?」
「図鑑だとそう書いてますね。ただあまりにも目撃情報が古くて少ない。もはや伝説の怪獣扱いです」
「確かに、見たことないな」
「私が見たのは恐らく幼体です。大きくなったら人里も襲うでしょうね」
「ところでクリスティーナ」
真剣な眼差しでギルベルト様が私に聞いた。
「この記録水晶の写真、魔物の隣で血だらけで満面の笑みを浮かべ可愛いクマの頭巾を被った少女、君に見えるんだが」
「間違いなく私ですね」
「な······なんで血まみれなの?」
「私の誕生日なので、みんなでお祝いの魔物狩りしてました」
「た······誕生日?!」
ガタッとギルベルト様が席をたつ。
「なんで俺に言わないの?!誕生日なんて大事なこと····俺がお祝いしたかったのに!!」
「酷いよ!」と言って机に伏せてしまったギルベルト様を放っておき、ニコラウス様と話を続けた。
「報告の通り、剣がまるで通じませんでした。皮膚の寸前で全部跳ね返されます」
「やっかいだな」
「図鑑上だと、この生物『威圧』を使うらしいんです。威圧を使う魔物達って、威圧を互いにしあって負けると呆気なくやられるでしょう?」
「まぁ、一種の睨み合いだからな。獣と一緒で目線を逸らしたほうが負ける」
「だから、ウンゲテュームより強い威圧が出来れば、剣や銃が使えるかもしれないと思ってるんです」
「どっかから、威圧が使える魔物を連れていくって言うのか?これだけ大きな化物に威圧できる魔物なんてそうそういないぞ?」
「いるじゃないですか。王家由来の魔力で、魔物も女性も簡単に威圧できる人」
「·····ああ······そうきたか」
私とニコラウス様は、机に伏していじけるギルベルト様を見た。




