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19 私はそんなに醜いですか?

 花嫁修行は順調に進んだ。


 結婚したらユーグはフェリクス公爵になる。そのために、お義母様は私を社交の場に連れ歩いた。


 公爵夫人の役割は家内の金銭と使用人の監督と管理。そして、社交の場での会話。人脈作り。


 時には外国の方ともお話することがあったが、私は幼い頃から賢さを褒められたのをバネに、かなり高水準な教育を施されてきたらしい。お義母様が驚きながらも褒めてくれた。


 時々はユーグと2人で過ごす時間もあった。婚約者だし、私は彼と過ごす時間に安心感と愛しさを抱いている。ほっと落ち着けるのは、やはりユーグの前だけだ。


 そんなユーグに見た目を褒められると、私はどう返していいか分からなくなる。お母様から言われ続けた可愛くないという言葉に縛られているなどと言ったら、ユーグは実家に乗り込みかねない。


 これは私の問題だ。私が解決して、それからユーグに話そう。


 だから、花嫁修行は充分と判断され、結婚の日取りが決まった日、私は1日伯爵家に帰る許しをもらった。


 結婚の報告をするためだ。


 改めて両家で具体的な話はするだろうが、まずは私から報告したいとお願いすると、快く承諾された。


 お義父様もお義母様も、ユーグも本当にいい人たちだ。私はここで、新たに家庭を作るのだと思うと、胸にこみ上げるものがある。


 だから、その前に、私は私の問題……勇気を出してお母様に聞かなければいけない。


 一晩だけなので軽い身支度を済ませたところに、ユーグが訪ねてきた。


 ソファに並んで座ると、彼は私の手を取る。


「シェリル。君が何か、問題を……守ろうとしているのは知っている。私たちは夫婦になる。君はその問題を、私に話してくれる気はある?」


 言葉に詰まった。知っていて、私に優しく、私を守ってくれていたのかと。秘密を抱えた私を待ってくれていたと。


 私が勇気を出した結果、どんな答えがお母様から返ってきたとしても、私はユーグに全てを話そう。


「もちろんよ、ユーグ。もう少しだけ待っていて。必ず、私はあなたに全てを打ち明けるわ」


 涙ぐんだ私の言葉に、ユーグは額に唇を落とす。そのまま胸元に抱き寄せられた。温かい。私を守ってくれる腕がここにある。


 そして、翌日。私はミュゼル伯爵家に帰ってきた。数ヶ月は経ったろうか。屋敷は変わりなく、少し懐かしい。


「シェリル。おかえり」


「おかえりなさい、お姉様」


 お母様とジュールに迎えられ、私は笑顔で家に入った。


 まずはお互いの近況報告を済ませ、父が一緒に朝食や晩餐をとるようになったり、お母様と社交の場に出て行くようになったと聞いて驚いた。私も、公爵家での花嫁修行について話した。


 そして晩餐。本当に父がいる。4人揃っての晩餐は、初めてじゃないだろうか。


 先んじて手紙は送っていたが、あらためて、私は結婚の報告をした。父がまた涙ぐみ、ジュールも、お母様も泣きそうな顔で、おめでとう、と言ってくれる。


 楽しい晩餐だった。父はまだ無口だったが、時折微笑むようになって、私は安心した。この家はもう、大丈夫だ。


 そして夜、寝る前。お母様の部屋をたずねた。


「どうしたの? シェリル」


「お母様、私……お母様にずっと聞かなければならない事があったのです」


 私の尋常じゃない様子に、お母様は同じベッドに座るように促して、向き合った。


 19歳で4歳の娘の継母になるとはどんな気分だったろう。私に同じことができるかと言われたら、とてもじゃないができない。


 父にあれだけ無関心を貫かれていながら、ジュールと私に愛情を注いでくれたお母様。


 禁句かもしれない。それでも私は……これを聞かずには、先に進めない。


「私は……そんなに、醜いですか?」


 心の中で何度も問いかけた。お母様、お母様、私はそんなに可愛くないですか。


「シェリル、あなたは本当に美しいわ。ごめんなさい。ずっと、……あなたを苦しめてしまった。私のことは許さないで。ずっと責めてくれていい。信用しなくていい。だけど、初めて出会ったその時から、あなたは天使のように……今は女神のように美しい」


 お母様の答え。理由までは聞けなかった、だけど、それ以上はいらなかった。


 私はお母様に抱きつくと、子供のように声を上げて泣いた。


 まだ、心の呪縛が完全に解けた訳ではない。


 最初に黒に赤のアクセントの入った美しい人が、あの美しい人が、私を可愛いと、美しいと言った。


 泣いて泣いて、お母様はその間ずっと、私の可愛いシェリーと、背を撫でてくれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分が、可愛いと言われて天狗になってしまった過去でもあったのかしら…
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