18 完璧な女性なのに(※ユーグ視点)
フェリクス公爵家にシェリルが来て一週間が経つ。
さすがに私の部屋と彼女の部屋は離れていたが、嫁入り前に手を出すほど私はシェリルに夢中だと思われているのだろうか。
実際、夢中なことは否めない。シェリルはまとっている空気からして、他の誰とも違う。これは私の欲目だろうけれど……彼女が立って歩いている、それだけで人目を引く。
所作が美しい。服飾のセンスがいい。会話も社交的で、余計なことは言わずさり気なく相手を褒める。それでいて、自分を下げる真似もしない。物覚えが早く、他国語も堪能だ。失礼だが、伯爵家の令嬢とは思えない。
これもひとえに、小さな頃から婚約を申し込んだからかもしれない。彼女の義母は、この未来であればいい、と思いながら彼女を育てたのだろう。
一緒にいて安心できる温かい女性でありながら、同時に公爵家の嫁として恥ずかしい所もない。
母上が褒めちぎっていた程だ。母上は現国王陛下の従姉妹であり、父上は母上の降嫁と共に公爵となった。
もちろん、私とシェリルは恋人同士であり婚約者である。一緒に過ごす時間もとっているが、その時間は本当に楽しい。
結婚と同時に私は家を継ぐ。フェリクス公爵としてやるべき事、覚えるべき事はまだまだあるが、そんな忙しない時間を忘れて心を休ませてくれる。
彼女に欠点があるとすれば、私に見た目を褒められた時に、少しだけ悲しそうに微笑む所だろうか。
欠点ともいえない欠点。社交の場ではそんな事が無いようだから、私に心を許してくれているからかもしれない。
嬉しいと同時に、何故だろうと疑問に思う。
話してほしいと強く願う。踏み込んでしまってはいけない気もするし、そう思わせるのは彼女の微笑みゆえだ。
シェリルの微笑みは悲しげでありながら、その問題から己を守る盾。だから私は知らないフリをしている。
踏み込んでしまえば解決できる事なのかもしれないが、彼女はその問題に対して非常にデリケートな扱いをしている。
大事な物を守るようであり、自分で決着をつけるべき事だと決めているようであり、全てが済むまではどうか、と嘆願するような、アイスブルーの瞳。
「ユーグの言葉に私はとても救われます」
いつも、そう言って何かを私から守っているようだった。
彼女の大事な物、それは……家族だろうか。
父上と文面でやりとりしていた彼女の義母の手紙はいつも彼女を守るように優しかった。公爵家の申し出をやんわりと、しかし毅然とした態度で、子供の心は変わるかもしれません、と保留にし続けた。そのかわり、私が強請れば父上はシェリルの好みを聞き、彼女の義母は答えられる範疇で答えてくれていた。
政略結婚として無理に手を出すこともできたが、父上も私も、そして母上もそれはしなかった。家格が違うのだ。できなくは無いが、私の一途さはそんな事をしなくとも変わらないと思われていたのだろう。
実際変わらなかった。野暮ったい化粧を施されてもしっかりと人前で恥ずかしくない振る舞いをする小さなレディ。
成長して誰もが目を惹かれる美しくなったレディ。
シェリルは私にとって完璧な女性だ。彼女以外を望むことは、これまで一度もなかった。中々、自分でもどうかと思うが……私はずっと彼女が好きだ。
愛してる、シェリル。いつか君の守っている物を、私に聞かせて欲しい。
それまでは、君の秘密ごと私が君を守る。そして、その後も。




