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探し物はなんですか? side浅葱



 問いかけた俺に、ぽそぽそっとか細い返事が返ってくる。


「あの……、教室に行こうとしてたんだけど……足がすくんで……」

「教室? 何年何組?」


 首を横にかしげてゆっくり問い返すと、彼女は視線を大きく揺らしながらも答えてくれて、俺はにこりと笑う。


「えっと……三年、二組……」

「二組ってことは隣のクラスじゃん」


 あんま見かけたことないから下の学年かと思ったけど、同じ学年でクラスも隣だというから少し驚く。だけど、隣なら一緒にクラスまで行けばいいかな~とかお気楽なことを考えてて、ふっと視線を彼女に向けたら、大きな瞳からぽろぽろ涙がこぼれているから大慌て。


「えっ、わっ……、ごめん、俺なにか気に障ること言ったかな!?」


 俺のせいで泣かせたんだと思ったら、動揺して自分でもなに言ってんだか分からなくなる。慌てて謝ると、彼女は一瞬目を見開いて、それからくすりと笑みを漏らした。


「あっ……、笑ったりしてごめんなさい……」


 まだ涙のたまった瞳を細めて笑うその表情に俺はつい見とれてしまう。

 初めて声をかけた時の心もとなさそうな怯えた姿。

 迷子の子猫みたいだって思ったけど、本当に、彼女はなにか大事なものをなくしてしまって、それを手探りで探しているような頼りなげに感じた。

 笑った切ない表情に、守ってあげたいという衝動が胸の奥からぐんぐん膨らんでくる。


「いいよ、別に」


 俺は苦笑して彼女にそう言う。別に怒ってないし、泣いているよりも笑っている方がいいと思ったから言ったのだが、次の瞬間、またしてもぽろっと涙をこぼした彼女を、どうしようもなく抱きしめたくなってしまった。

 って、うわぁ――――!?

 なに考えてんだ、俺っ!

 俺は頭をわしゃわしゃかきむしることで自分の思考を無理やりかき消して、反射的に彼女の手を掴んでた。

 瞬間、彼女の肩がビクンっと大きく跳ねたから、また怯えさせてしまったかと慌てて彼女の腕を離した。


「あっ、ごめん……」


 謝った俺を、彼女はゆっくりとその真意を探るように濡れた黒目で見つけてくるから、ドキドキとうるさく心臓が鳴り始めて戸惑う。


「えっと……俺は」


 そこまで言って、まだ自分の名前も言ってないし、彼女の名前も知らないことに気づく。


「三年一組、桃原 浅葱(ももはら あさぎ)っていうんだ」

露雪 杏奈(つゆき あんな)です……」

「ツユキ?」

「露に雪って書いて露雪って読むの」

「珍しい苗字だな。でも、綺麗な響きだな」


 本当にそう思って言ったのだが、なぜか彼女はふふっと小さな笑みを漏らす。

 その笑顔が胸にしみて、ドキドキと心臓の音がうるさい。

 俺は立ち上がりながら今度は彼女の前にそっと手を差し出す。彼女は俺の手のひらと顔に交互に視線を向けて、コクンと首をかしげた。


「あの、桃原君……?」

「みんな浅葱って呼ぶから、浅葱でいいよ。俺も杏奈って呼んでいい?」


 その問いかけに小さく頷いた杏奈は、遠慮がちに伸ばした手を俺の手のひらを重ねた。

 握りしめると、すっぽりと包みこめるほど小さな手はひんやりとしてたけど、なんだかそれが心地よかった。

 俺は繋いだ手をゆっくりと引っ張って杏奈を立ち上げらせる。


「いつまでもここにいたら寒いだろ? 教室行こうぜ」


 なにげなく言った俺の言葉に、杏奈の肩が小さく震えるのに俺は気づいた。

 俺は杏奈と手を繋いだままゆっくりと歩き出す。杏奈は俺の一歩後ろをついてくる。

 駐輪場から昇降口に向かって歩きながら、俺は空を振り仰ぐ。


「今日はすっげーいい天気だよなぁ~」


 そう言って、振り返った俺は杏奈に笑いかける。

 杏奈はそんな俺を見て、一瞬戸惑うように大きな黒い瞳を揺らし、微笑を浮かべた。

 昇降口で靴を履きかえる時はさすがに手を離したが、上履きに履き替えた杏奈の手をさりげなく握り、俺は廊下を進み、教室に向かう階段を上がる。

 うちの学校は一階に一年の教室、二階に二年の教室、三階に三年の教室がある。だけど俺は、三階についても、さらに上へと向かう階段に足を進めた。

 四階にはあまり使われていない特別教室があり、そのさらに上の屋上まで階段を登り、俺は屋上に続く重い扉を押し開けた。

 開けた瞬間、頬を刺すような冷たい風が室内に吹き込んできて体が押されたけど、外に出て扉を閉めてしまえばそんなに風が強いということはなかった。上を向けば、透き通るような青空がどこまでも広がっていた。

 ゆっくりと天頂をめざす冬の太陽が屋上のコンクリートをひだまりで包んでいた。

 適当に歩き、フェンスのそばに腰かけて杏奈にも隣に座るように視線で促す。


「俺のとっておき」


 そう言って笑うと、ずっと俯いて後ろをついて来ていた杏奈が俺の顔を仰ぎ見た。

 その瞳は複雑に揺れ、やり切れないような今にも泣きそうな顔をしているから、どうにか笑ってほしくて俺は必死に話題を探した。


「俺さ、水泳部なんだけど――」


 そう話し始め、クリスマス会を計画中だということを面白おかしく話す。もちろん、瑠花と柳の名前は伏せてだけど。

 階段を登るごとに、だんだんと杏奈の足取りが重くなってきたことにも、握りしめた手が小さく震えていることにも気づいてしまった。

 植木の側で蹲っていた杏奈はなんと言っていた――?


“教室に行こうとしてたんだけど……足がすくんで……”


 隣のクラスなのにあまり顔を見かけないと思った。杏奈は、もしかして――

 とにかく杏奈の気分がまぎれるようにと、俺は杏奈とは直接関係ないような話をひたすら話し続けた。




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