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第四十二話[桃太郎班]:500年かけてダンジョンを掘ったら、宝がカブのタネだった件

この作品は、だいたいの人が「ちゃんとしたダンジョン探索もの」だと思って読み始めるはずです。


違います。


掘った人間が一番おかしいタイプの話です。


あと、出てくる“宝”はだいたい宝じゃありません。

マギ・オババの「実家」は、もはや森の一部だった。かつて屋根があった場所には大樹が根を張り、崩れた石壁は厚い苔が飲み込んでいる

。四百年の歳月は、人の営みを跡形もなく土へと還していた。


「……ひどい有様なのだ。これじゃ、ただの廃墟なのだ」


 白雪が悲しげに呟くが、オババは意に介した様子もなく、裏山の斜面へと歩を進める。


「家なんてどうでもいいのさ。問題は……裏山のあっちだよ」


 マギ・オババの視線の先。のどかな風景を切り裂くように、山肌に「異様な穴」が口を開けていた。


 そこには、一人の男がいた。


ボロボロの作業着をまとい、岩を削りすぎて短くなったツルハシを杖代わりに、男は足元の「畑」からカブを引き抜く。泥を井戸水で洗い、そのまま豪快にかじりついた。


「……おい、スルニィ。あんた、まだやってるのかい」


 オババの声に、男がゆっくりと顔を上げた。


「おぉ、マギか。……何年ぶりだ? 三百年か、四百年か。墓に入ったとばかり思ってたぞ」


 スルニィと呼ばれた男は、カブを咀嚼しながら平然と言い放った。


「あんたに言われたくないよ! 五百年前から一歩も進んでないじゃないか!」


「失礼な。進んださ。……ようやく『宝』の入り口を見つけたのは、ずいぶん前だ」


 桃太郎は一瞬、自分の耳を疑った。


(五百年……? さっきから会話のスケールがおかしいだろ。それにその『宝』ってなんだよ)


「ついて来な。お前さんたちの度肝を抜いてやる」


 導かれた洞窟の入り口。そこは、スルニィが五百年かけて掘り進めた執念の迷宮だった。


 そこからの行軍は、果てしなかった。道は執拗に、そして深く下へと続いている。

壁面にはノミで叩いた跡が無数に重なり、それが延々と、狂気を感じさせるほど長く続いていた。


「……おい、まだ歩くのかよ」


 歩き始めて一時間は経つ。桃太郎の感覚では、もう山の反対側に突き抜けていてもおかしくない距離だ。

 その時だった。


 ――ドクン。


 鞘の中で、愛剣が重く脈打った。地底の奥深くに眠る「巨大な何か」の鼓動に、無理やり同期させられているような、深く静かな振動。


(……何かがいる。この先に、間違いなく)


 桃太郎が剣の柄を握りしめた瞬間、不意に視界が開けた。そこは、世界の底のような静寂が支配する空間だった。


「……着いたぞ。俺の生涯の、最高傑作だ」


 スルニィが掲げた松明が、闇の中に白く滑らかな石材で作られた巨大な「扉」を浮かび上がらせる。

表面には、青白い光を放つ複雑怪奇な魔法陣が刻まれ、生き物のように脈打っている。


「……扉?」


 白雪が息を呑む。


 そして、その扉のすぐ横には、使い込まれた藁の寝床と、地層のように積み上がった「カブの皮」の山があった。


「……なんで開けないんだよ。五百年も掘って、目の前にこれがあるんだろ。なんでここで自給自足してんだよ!」


 桃太郎の問いに、スルニィは平然と答えた。


「俺は魔法が使えない。だからここで待ってたのさ。使える奴が来るのをな」


 桃太郎は重い溜息をつき、扉の術式を注視した。


「……計算はできてる。封印の解除式も、俺のアルカナ数理魔法なら導き出せる。だが、杖に魔法石を嵌めて演算を垂らし込めなきゃ、発動すらさせられない」


「魔法石? そんなもんが要るのか」


「……ああ。それさえあれば、今すぐにでも始められるが」


「なら、そこら中に転がってるぞ。ほら、あそこのゴミの山だ」


 スルニィが照らしたのは巨大な「残土」の山だった。桃太郎が泥を払うと、中から最高級の魔法石が現れた。


「ツルハシが傷むからな。邪魔な石は全部あそこに捨ててある」


 桃太郎は黙ったまま、極上の原石を一つ拾い上げ、杖の先端へと嵌め込んだ。


「……いいぜ。燃料なら、腐るほどある。あんたの五百年、無駄にはしねぇよ」


 その時、スルニィが静かに口を開いた。


「……マギ。開けて、くれないか」


 オババは鋭い声で釘を刺す。


「アタシの専門は重力魔法だ。こんな緻密な封印術式を解くなんてのは門外漢だよ。下手に重力をかければ、封印が暴走して山ごと消し飛びかねないさね。開けるのは、この子だよ」


 スルニィは頷き、足元の畑からカブを引き抜いた。


「……この扉の先には、最高にうまいカブのタネがある。村じゃな、人が死ぬ。冬を越せずに、子供からな。俺は剣も槍も使えん。だが、土はいじれる。せめて、うまいもんを食わせてやりたかった。……これなら、俺が生きる価値になる」


 スルニィは、カブを差し出した。


「お前たちも食うか! どうだ!」


 一口かじって、桃太郎は言った。


「……まずい」


 白雪も頷く。


「まずいのだ」


 スルニィは少し黙り、「……そうか」と自分でもかじった。


「……やっぱり、まずいな」


「……本当になのだ」


 スルニィはカブをかじりながら、ぽつりと言った。


「子供ってのは、正直なもんだ。うまいもん食えば、笑う」


 一拍。


「それでいい。俺は、それを宝って呼んでる」


 カツン。


 また、土をいじる音が響く。


 桃太郎は、その不器用な祈りのような音を聞きながら、静かに杖を構えた。


「……上等だ。あんたの『宝』……俺が引きずり出してやるよ」


 瞳が青く沈む。杖に嵌まった魔法石へ、彼の冷徹な演算がドロリと「垂らし込められて」いく。


 五百年分の静寂が――今、轟音と共に動き出す。

ここまで読んでくれた方へ。


500年も掘ってるやつがまともなわけないだろ、という感想は正しいです。


でも一番まともじゃないのは、止めなかった周囲です。


次回、「カブがまずい理由、科学的に解明される」予定です。

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