第三十八話(後編):共鳴と休息、そして不穏な予兆だった件
みなさん、今回も冒険の舞台へようこそ。
赤黒く脈打つ蔓、剣と光の共鳴、そして緊迫した戦い……。書いている私自身も、手に汗握りながらこの場面を描きました。
でも、そんな緊張の合間にも、温泉でほっとひと息つく瞬間があってほしい。白雪たちの疲れを描くことで、読者のみなさんも少しだけ肩の力を抜いて読んでもらえたら嬉しいです。
どうぞ、戦いの緊張と安らぎのコントラストを楽しんでください。
赤黒く脈動する蔓と、まるで呼応するかのように。
だが次の瞬間、光はそれを拒絶するように震え、周囲の蔓をかすかに弾き返した。
――ビリッ。
「……なんだ、これは……?」
白雪の声は震える。
だが、手首から伝わる光は不思議と温かく、力を与えてくる。
桃太郎の蒼い剣もまた、それに呼応するように脈打った。
――ドクン、ドクン。
「剣まで……共鳴してる……?」
空気が変わる。まるで、この場にある“何か”が引き寄せられているかのように。
上空で、マギ・オババが目を細めた。
「……なるほどね。白雪の石盤を、狙ってたのか」
その言葉が落ちた瞬間、地面を這う蔓が、一斉に白雪の方へと向きを変えた。
ざわり、と明らかに“反応”したのだ。
桃太郎の背筋を、冷たいものが走る。
(……やっぱりだ。この村自体が――)
刺さる視線は、さっきよりもはっきりと、白雪の持つ“何か”を狙っていた。
闇の奥で、何かが嗤った気がした。
桃太郎は剣を握ったまま、大きく息を吐いた。
まだ地面は脈打ち、蔓は完全には止まっていない。
だが、ほんの一瞬――戦いの“間”が生まれていた。
「……はぁ……」
張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
その時。白雪がぽつりと呟いた。
「……温泉、入りたいなぁ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げる桃太郎。
「いやだって……泥だらけだし、なんかベタベタするし……怖いし……」
震えながらも、白雪はそう言って小さく笑った。
その一言で、張り詰めていた緊張がほんの少しだけほどける。
だが。
上空のマギ・オババが、ため息混じりに言った。
「生きて帰れたら、いくらでも入れるさ。――だから今は、死ぬ気で動きな」
直後。ズンッ――!
再び、地面が大きく脈打った。
だが、さっきまでとは、何かが違う。
「……なんだ……?」
桃太郎が眉をひそめる。蔓は動いているが、どこか“鈍い”。
「……迷ってる……?」
白雪がぽつりと呟く。
上空で、マギ・オババが低い声を漏らした。
「……いや。あやつ、今――“見失った”ね」
その言葉の直後。闇の奥から、わずかに空気が歪んだ。
――。
その日の夜。
白雪とマギ・オババは、山奥の小さな温泉に身を沈めていた。
湯気が立ち上る中、泥まみれの体がゆっくりと温まっていく。
「ああ……生き返るのだ……」
白雪がふぅ、と息を吐き、肩まで湯に浸かって目を細める。
「ふふ、戦う者にとってのご褒美だね」
オババは湯に手を浸し、湯気越しに白雪を見やった。
「ねぇ、マギ・オババ……あの村の人たちは、無事だったのだろうか。血の匂いもしたし、心配なのだ」
白雪が少しだけ眉を下げて尋ねる。
「安心しな。あの蔓の毒は、獲物を生かしたまま深く眠らせるためのもんさ。元凶がいなくなれば、そのうち目を覚ます。明日の朝には、村じゅうで大あくびが見られるだろうさ」
オババは湯面を小さく叩き、にやりと笑った。
「そうなのだな。……少し安心したのだ」
白雪は安堵したように、再び湯の中に体を沈めた。
「……でも、セレナたちは今頃どうしてるのかしら」
「生きてれば必ず合流できるさ」
オババの言葉に、白雪は手首でかすかに熱を持つお守りに視線を落とす。
「……分かったのだ」
その瞬間、遠くでまだ、赤黒い蔓の影がわずかに蠢く気配があった。
――。
見張りを命じられた桃太郎は、剣を握ったまま独り立ち、ぼそりと呟く。
「嗚呼……もう、隠居生活は夢のまた夢なのか……」
その声は夜の森にかすかに響き、しかし誰にも届かない。
戦いは、まだ終わらない。
一方、カリンたち――自称勇者御一行様――は雪深い森の中で杖の材料を探し求め、新たな冒険の一歩を踏み出していた。
「戦いは、まだ終わらない――いや、本当の地獄は、これからだ。」
さて、今回も白雪たちは無事に温泉でひと息つけました。
でも、桃太郎の独り言が示す通り、戦いはまだ終わらないのです。
書きながら、私自身も「隠居生活はまだまだ先だな」と思わず苦笑い。読者のみなさんには、彼らの奮闘や小さな休息を通して、少しでも物語の世界を身近に感じてもらえたら幸いです。
次回も、笑いあり、緊張あり、少しばかりの恐怖ありで進んでいきます。どうぞお楽しみに。




