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第三十二話:リミバァのスープをみんなで飲んだら泣いちゃった件

みなさん、こんにちは。

この物語は、ちょっと騒がしい女の子、ちょっと不器用な魔法少女、そして頼れるけど疲れやすい少年の、小さな日常と冒険の記録です。


「魔法ができない」ことも、「失敗する」ことも、全部を抱えながら生きていく彼らの姿を、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


ページの合間で、笑ったり、ちょっと泣いたり、温かい気持ちになってもらえたら、この物語の小さな魔法は成功です。


読んでいただける方は、ブックマークや高評価をいただけると、作者として本当に励みになります。

どうぞよろしくお願いします。


「完璧な計算に基づく平穏」というものは、得てして一人の女の絶叫によって崩壊するようにできている。


「ももっち! 白雪ちゃん! セレナちゃん! おはよおおおぉぉ!!」


昨日までの重病人が嘘のような、カリンの絶叫がフェアリーキープの空気を震わせた。


「……おいおいお嬢さん。昨日まで幽霊みたいな顔してぐったりしてたのはどこのどいつだ? その顔はどこへ捨ててきたんだよ」


桃太郎が耳を指でほじりながらツッコむ。

その視線は、一瞬たりとも逸らさずにカリンの顔色を測っていた。


昨日、彼女が倒れた瞬間に止まりかけた自分の心臓を、今の彼女の怒号が強引に叩き起こしている。


彼にとって、この街で「ももっち」と呼ぶことを許しているのは、後にも先にもこの騒がしい女だけだった。


「カリン、元気になったのだ。おじいちゃんが、強い奴は毒キノコ以外なら何を食っても寝れば治るって言ってたのだ」


「毒キノコは死ぬだろ! あと白雪、お前カリンに変なもん食わせたのか!?」


そこへ「アネゴー! お帰りー!」と、いつもの三人組が駆け寄ってくる。


再会を喜ぶ彼らの横で、カリンはさらに、集まっていた孤児たちの間へグイグイと割り込み、持ち前のバイタリティで縁談をまとめていく。


その光景を、セレナは自分の「未熟な手」を見つめて、立ち尽くしたまま見送っていた。


「私……魔法、うまく使えないから。魔法で水を出そうとしても、一滴も出ない日があって……。ここにいたら、みんなの邪魔になっちゃう……」


消え入りそうな声。そんな絶望を、桃太郎がカバンから取り出した火打石の鋭い火花が切り裂いた。


「私……魔法、うまく使えないから。

水を呼ぶ魔法も、うまくいかない日があって……。ここにいたら、みんなの邪魔になっちゃう……」


消え入りそうな声。


その空気を切り裂いたのは、桃太郎が手に持っていた小さな火打石で生まれた火花だった。


ぱちん、と乾いた音。

小さな火花が散る。


「魔法がうまくいかない? ……そんなの当たり前だろ」


桃太郎は肩をすくめた。


「気分で出たり出なかったりするもん、当てにする方が変なんだよ」


落ちた火種を、枯れ葉に移す。

小さな炎が、ゆっくり育つ。


「ほら。火はこうやって起こせる。

魔法なんかなくても、生きていけるんだよ」


セレナは、黙ってその火を見つめていた。


桃太郎は少しだけ視線を逸らしてから言う。


「……おばあちゃん、いいかな。

この子、しばらく俺たちと一緒にいても」


「……桃太郎がそう言うなら、私も全力でサバイバル術を仕込むのだ」


白雪が人差し指の先に、ぷつんと小さな火を灯してみせた。

ロウソクより頼りない、ほんの「ちょい使い」の魔法。


だが、彼女はそれを消すと、桃太郎が散らした火種を枯れ葉で見事に育ててみせた。


「魔法は、最後にちょっと背中を押すだけでいいのだ。

それ以外は全部、知恵と体力が解決するのだ。

セレナも、体力をつけて道具を使えばいいのだ」



その夜、リミバァの家。


台所からいい匂いが流れてきた。

リミバァが大鍋を抱えて食卓に置く。


「ほら、食べな。今日は野菜のスープだよ」


湯気の立つ器を前に、セレナは少し戸惑いながらスプーンを持つ。


「……あったかい……」


ひと口飲んだ瞬間、目が少し潤む。


「うまいな」

桃太郎がぽつりと言う。


「体が温まるのだ」

白雪は嬉しそうにスープを飲んだ。


「……私、こうやってみんなで食べるの……あんまりなくて……」


セレナの声が少し震える。


「泣くほどかよ」

桃太郎は苦笑しながらスープをすすった。


だがその顔は、どこか柔らかかった。


食卓には、静かな笑い声が混ざった。



食事のあと。


布団が敷かれる。


「……おい。なんで白雪、お前は当然のように俺の布団の中に潜り込んでいるんだ」


「何を言ってるのだ。夜は体温を分け合って眠るのが一番合理的だっておじいちゃんが言ってたのだ」


「ほら、桃太郎も来るのだ。セレナも寒がってるのだ」


「あの……私、夜になると魔法が出なくて、指先が冷たくて……」


セレナに見つめられ、桃太郎は頭を抱えた。


「……ああ、わかったよ! 真ん中にいろ、セレナ! 俺は端だ!」


三人は布団の中で川の字に並んだ。


しかし。


「ちょっと狭いのだ」

「お前が押すからだろ」

「ご、ごめんなさい……!」


布団の中で、もぞもぞと動き回る。


「だから押すなって!」

「桃太郎が大きいのだ!」

「私、動かない方が……?」


いつの間にか、布団の中は小さな騒ぎになっていた。


その時。


「いつまで家の中で馬鹿騒ぎしてるんだい」


湯のみを置きながら、リミバァが一同を睨み据えた。


「そんな元気があるなら」


にやりと笑う。


「歴史資料館でも行って来な」


「なんで俺たちが社会見学なんだよ!」


「いいじゃない! 面白そう!」


「昔の武器見れるのだ?」


「……行ってみたいです。魔法が苦手でも生きていけるヒント、あるかもしれないから……」


桃太郎は天井を見上げてため息をついた。


(俺の隠居生活……どこ行った)


布団の中ではまだ白雪がもぞもぞ動き、セレナが小さく笑っている。

その様子を見ながら、桃太郎は目を閉じた。


どうやら――

静かな生活という計算式は、最初から成立していなかったらしい。


――翌日、四人はグリモワールド最大の ルーン・アーカイブ歴史資料館 へ向かうことになる。

資料館の重厚な石扉の奥には、リミバァが司書長を務める ルーンメモリア と繋がる膨大な知識の海が広がっていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

彼らの一日一日、小さな騒ぎや小さな幸せを、少しでも感じてもらえたでしょうか。


この物語は、誰かの温かい笑顔や、小さな勇気が、世界を少しだけ楽しく変えていくことを信じて書きました。


もしこの物語が少しでも楽しかったら、ぜひブックマークや高評価をお願いします。

皆さんの応援が、次の物語を紡ぐ力になります。


これからも、彼らの小さな冒険を一緒に見守ってもらえたら嬉しいです。

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