第四十八話(中編③):白雪の未来視が通用しなくなった件
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、白雪たち防衛組の「限界」と、桃太郎が辿り着いた“答え”の回です。
未来視が通じなくなる恐怖。
学習するダンジョン。
そして、仲間が削り出した「たった数秒」の価値。
白雪はこの章で、未来を見る戦いから、“今を斬る”戦いへ踏み込みました。
未来視という強力な力を持ちながら、それでも最後に頼るのは経験と覚悟――という構図は、かなり書きたかった部分です。
また、リミアやマギ・オババが間に合うシーンは、「大人組がちゃんと強い」を描きたくて入れています。
若い世代だけでは届かない局面を、経験で繋ぐ感じですね。
そして最後。
桃太郎が感情ではなく「計算」を加速させる描写。
この作品、実はずっと
「感情で動く英雄」と
「理屈で世界を解体する主人公」
の対比を根底に置いています。
仲間たちの“命懸け”を見て熱くなるのではなく、
『その一秒で数式が完成する』
という桃太郎の在り方が、彼らしい部分かもしれません。
次回、ついに深部の正体へ。
よろしくお願いします。
桃太郎とセレナが奥へ消えた通路では、白雪とカリンの防衛線が限界へ近づいていた。
通路の肉壁が、呼吸するように脈打つ。
その鼓動に合わせるように、黒い表面がわずかに波打った。
ずるり、と。
次の瞬間、その波から押し出されるように、無数の蔓が槍の形を取って突き出された。
「右三歩、次しゃがむのだ!」
白雪の声が鋭く飛ぶ。
カリンは反射で体を滑らせるように移動した。
頭上を黒い棘がかすめて通り過ぎる。
空気が裂ける音が遅れて追いつく。
「前方一秒後、開く!」
白雪の剣が閃いた。
狙ったのは蔓ではない。
その根元――“再生が始まる一点”。
一瞬だけ、肉壁の流れが途切れる。
「今なのだ!!」
カリンが最後から二番目の魔法石を叩き込む。
轟音。
灼熱の閃光が通路を貫いた。
肉壁が焼け、崩れ、押し返される。
だが――
「……っ!」
白雪の瞳がわずかに揺れた。
焼き払われたはずの空間の奥で、何かが“待っていた”。
崩れた場所を埋めるように、さらに深層から肉がせり上がってくる。
しかも今度は、白雪の一手先よりも早い。
「学習してるのだ……」
カリンの声が小さく漏れる。
白雪は答えない。
答えられない。
未来視が、わずかに“ずれる”。
さっきまで確かに見えていた一秒先が、濁り始めていた。
「白雪……!」
カリンの声に、白雪はようやく息を吐いた。
短く、鋭く。
「……変わったのだ」
剣を握る指に力がこもる。
「ここからは、未来じゃないのだ」
一歩踏み込む。
見えるはずの未来を見ず、ただ“今ある裂け目”だけを追うように。
「カリン、合わせるのだ」
「……うん!」
カリンが残りの魔法石を握りしめる。
白雪が動く。
未来視ではなく、直感に近い速度で肉壁の“綻び”へ踏み込む。
剣が走る。
そこへ、カリンの砲撃が重なる。
轟音。
今度は確かに、深く裂けた。
だがその裂け目の奥で、また別の“口”が開き始めていた。
白雪の視界が、歪んだ。
未来が見えない。
いや――見えているが、もう“遅い”。
心臓へ。
そこへ一直線に伸びる黒い蔓。
避ける時間はない。
白雪の体はもう限界だった。
未来視を使い続けた脳が焼けるように痛む。
(……間に合わないのだ)
その瞬間だった。
「――ったく、派手にやらかしてくれるねぇ」
空気が裂ける。
次の瞬間、蔓の進行方向に“幾何学的な層”が何重にも重なって出現した。
多重魔法防壁。
リミアの声が冷たく響く。
「一拍だけ耐えなさい」
ドンッ!!
蔓が防壁に突き刺さる。
一層目が破壊される。
二層目が軋む。
三層目でようやく速度が落ちる。
「白雪!!今だよ!!」
さらに後方から、マギ・オババの笑い声が混じる。
「カカッ、若いのが無茶しすぎなんだよ!」
白雪は動いた。
動いたというより、“押し出された”。
防壁のわずかな隙間に、カリンごと転がるように位置がずれる。
その直後。
心臓のあった場所を、黒い蔓が貫いた。
――遅れていたら終わっていた。
カリンの喉が引きつる。
「……今の、完全に……」
「詰んでたのだ」
白雪の声はかすれている。
立っているのがやっとだった。
だが――
防壁の外側で、リミアの声が低くなる。
「安心しないで。止めただけ。消してない」
バキ、と防壁にひびが入る。
蔓はまだ生きている。
押し返しているだけだ。
時間は、ほんの数秒。
「……カリン」
白雪が小さく言う。
「次で、終わらせるのだ」
カリンは魔法石の袋を握る。
残り、わずか。
もう“撃ち直し”はできない量。
「うん……一発で決める」
その言葉の直後、防壁が完全に崩れ始めた。
蔓が再び動く。
今度は“防御を学習した形”で。
その時、奥の扉の向こうで――桃太郎が、わずかに顔を上げた。
脳内の数式が、背後で爆ぜた魔力の残滓を拾い上げる。
(――この波形、白雪か。それに、リミバァたちも……)
自身の背後で仲間たちが命を懸けている。
その事実に、感情ではなく「計算」が加速する。
「……計算は終わった」
既にその深部へと足を踏み入れていた桃太郎が、わずかに顔を上げた。
背後から響く、少女たちの魂を削るような魔力の咆哮。
それが壁を震わせ、桃太郎の脳内にある数式を赤黒く加速させる。
(……この魔力、この波形)
背後で仲間が稼ぎ出した、血の滲むような一秒。
その「一瞬」が、彼の中で最後のピースを埋めた。
桃太郎は、眼前に座す「敵」を凝視したまま、静かに杖を突き立てる。
「――やはり、お前だったか」
確信。
白雪たちが最後の一撃へ踏み込んだその瞬間。
桃太郎の足元から、すべてを侵食する漆黒の算式が解き放たれた。
白雪、だいぶ無茶してます。
というか今回、防衛組がずっと命懸けでした。
未来視って便利そうに見えるんですが、
「未来が見える=脳が処理し続ける」
なので、長時間戦闘だと普通に消耗がヤバいんですよね。
しかも相手が“学習する肉壁”。
見えていた未来がズレ始める瞬間は、
書いていてかなりホラーでした。
あと個人的に好きなのが、
「ここからは、未来じゃないのだ」
の部分。
白雪の戦闘スタイルそのものが切り替わる瞬間なので、
ここはかなり気合い入れて書いてます。
リミアの多重防壁も、
単純な強さというより
「一拍だけ耐えなさい」
っていう大人の実務感ある台詞にしたかったんですよね。
完全勝利じゃなく、
“数秒を作る”。
この作品、わりとそこが重要です。
そして最後の桃太郎。
みんなが命を削ってるのに、
本人は静かに数式を完成させてる。
でも、仲間の犠牲を軽く見てるわけではなく、
「その一秒を絶対に無駄にしない」方向へ思考が極振りされてるんですよね。
なので彼の覚悟って、
熱血ではなく“演算”なんです。
さて、次回はかなり核心へ入ります。
「――やはり、お前だったか」
この相手が誰なのか。
そして、桃太郎が解き放った“漆黒の算式”とは何なのか。
楽しんでもらえたら嬉しいです。




