2-10
翌日、茉唯の父親の祐輔と母親の亜希子が宗和の家を訪れた。春休みが終わる茉唯を迎えに来たのだ。祐輔は宗和の孫にあたる。
「迎えに来たよ、茉唯」
祐輔が言うと茉唯は複雑な表情をした。
「どうしたの?」
亜希子が心配そうに言う。茉唯は無言でヒルダの方を見る。
「あの子は?」
祐輔が宗和に訊く。
「茉唯の友達だ。しばらく預かっている」
「預かっている?」
祐輔には宗和の言葉の意味が理解できない。友達が出来たとしても不思議はないが、宗和が預かる理由がわからない。
「どこの子なのかわからんが帰りたがらんのでな」
祐輔と亜希子は顔を見合わせた。家出少女を泊めているということなのか。
「警察には?」
「最初は探していたな。海で救助されたがここまで逃げてきたようだ」
宗和の言葉で祐輔はヒルダに視線を移す。ヒルダは表情を変えずに祐輔たちを見ていた。
「海って……まさか自殺?」
亜希子が不安そうに祐輔を見る。小学校低学年くらいにしか見えないが、考えられないことではない。
「今の様子を見る限りはそんなふうに見えない。海難事故かもしれないな。波に攫われたか、岸壁から落ちたか。船も考えられる」
「そうね……でも、親御さん探してるんじゃないかしら?」
「普通はな」
「普通は?」
亜希子は聞き返した。聞き間違いかと思ったからだ。
「捨てられた可能性も考えられなくはない」
「そうだけど……」
亜希子は顔を顰めてヒルダを見る。海に投げ込まれたとは考えたくない。
「捨てられたのでなければ行方不明届が出てるんじゃないか」
「そうよね……出てるんですか?」
亜希子は宗和に訊く。
「昨日巡査に聞いた話では該当者はいないらしい。自分で帰ったのではないかと言っていたよ」
「ここにいるのに?」
ここにいることを警察が知っていると祐輔は思っていた。
「いや、巡査はあの子がここにいることを知らんよ」
宗和の言葉に、再び祐輔と亜希子は顔を見合わせた。
「警察に言わないとまずくない?」
祐輔は困惑した表情だ。
「あの子が茉唯と一緒にいたいようだからな」
宗和は平然と言ったが、理由になっていないのではと祐輔は思った。
祐輔と亜希子は黙り込んでしまった。
沈黙を破ったのは茉唯だった。
「……お父さん、あの子を連れてっちゃダメかな?」
「――」
祐輔は絶句した。行方不明の少女を家に連れて行きたいと言うのか。
「茉唯、そんなことできるわけないでしょう。……ねえ?」
祐輔が黙っているので、代わりに亜希子が答えてから祐輔に視線を移した。
「そうだな。だけど……」
「だけど……何?」
亜希子が追求する。
「ここに置いておくのも……」
祐輔ははっきりしない。
「警察に届ければいいでしょう」
「ダメだよ!」
反発したのは茉唯だ。
「逃げてきたんだよ。可哀想だよ。だからひいおじいちゃんだって」
茉唯は宗和を見る。
「ああ。あの子がいたいだけいればいい」
宗和は茉唯に優しく言う。
「茉唯、ひいおじいちゃんと話をするから、あの子のところにいてあげなさい」
祐輔に言われて茉唯はヒルダのそばに戻った。




