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月下の反逆者 ~王太子に逆らった青年と断罪された令嬢の逃避行~  作者: ぱる子


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第17話 王宮の謀略①

 王都へ来たからには、まず王宮の重鎮らに直接訴えるしかない――そう考えた俺たちは、朝早くから馬車を出して王宮の正門へ向かった。

 相変わらず街中では警戒の視線を浴びながらの移動だが、下手に隠れ歩きしていても進展はない。正攻法を試してみて、もし無理なら別のやり方を考えるしかないと思っていたのだ。


「……こうして堂々と王宮に来るのも、本当に久しぶりだね」


 馬車の窓から見える立派な門に、カトレアが苦々しい表情を浮かべる。夜会が開かれたあの豪奢な建物は遠目にも巨大で、見るだけで萎縮しそうだ。かつて彼女が晒し者にされた場所へ戻ってきたわけで、本人には相当なストレスだろう。


「ごめんな、つらい思い出の場所に連れてきちまって。でも、殿下から離れてるだけじゃ何も変わらないんだ。もし門前払いを食らっても、こちらとしては動いた実績になる」


「分かってるわ。……それに、逃げないって決めたのは私自身だもの。あなたのせいじゃない。さあ、行きましょう。王宮で偉い人に会うには、公的な手続きを踏むしかないでしょ?」


「ああ、そうだな。よし……行くか」


 馬車を降りると、目の前にそびえ立つ王宮の正門が息を呑むほど大きい。陽光に照らされた白亜の壁は華やかだが、その奥からは得体の知れない圧力が漂っているのがわかる。門番らしき衛兵たちが無言で目を光らせ、俺たちの出方をうかがっている。


「すみません、クレストン男爵家当主のアレン・クレストンと申します。本日は王宮の重鎮である○○卿にお会いしたく、正式に手続きしてきました。面会許可をいただけませんか?」


 形式ばった口調で衛兵に話しかけると、最初は「はあ?」といった感じで顔を見返される。数秒後にその表情が「こいつは例の噂の反逆者なのでは?」と察したように変化するのが見て取れる。嫌な予感が全身を駆け巡ったが、覚悟はしてきたことだ。


「クレストン男爵……まさか、あの“国賊”という噂の? 王太子殿下から報告を受けている。殿下に楯突いた者が、何の用で王宮に来たのか?」


「誤解があります。俺は国賊じゃありませんし、正当な手続きを踏んで面会を申し込んだんです。○○卿に伝えていただけませんか?」


「申し訳ありませんが、そのような面会は通せません。上から『反逆者を通すわけにはいかない』と厳命が出ておりますので」


「『上から厳命』? そりゃあ、殿下の差し金に決まってるわね。こんな露骨な門前払い、正攻法がまるで通じないなんて……!」


 横でカトレアが忌々しそうに呟く。衛兵はまるで彼女を無視するかのように、書類をちらっと確認して言い放った。


「○○卿はお忙しい。あなた方のような危険人物の面会は認められない、とのことです。お引き取りください」


「待ってください、私たちは危険人物なんかじゃ――!」


「いいえ、引き下がりなさい。ここにいても無駄ですよ。殿下の命令があれば、誰もあなたを通さないでしょう」


 衛兵たちの視線は冷たいというより、明らかに恐怖を反映しているようにも見える。彼らも王太子リシャールに従わなければ、自分たちが処分されるとわかっているのかもしれない。それでもこうして正面突破を図る俺たちの姿を、なんとも言えない嘲りと憐れみが混ざった目で見ている。


「ひどいわ。これじゃ最初から話すらさせてもらえない。あなたが言っていた通りかもね、完全にリシャールの命令で閉ざされてる」


「……でも、もうちょっと粘ってみるよ。後で取り次いでくれるかもしれないし……すみません、私たちは別に暴力的な行為をするつもりはないんです。ただ、誤解を解くために話をしたいだけで――」


「お引き取りくださいと言っている! 今度来ても同じですよ。殿下の許可なくここを通ることはできません」


 門番が声を張り上げ、他の衛兵たちも手をかざして近づいてくる。まるで俺が本当に犯罪者か何かであるかのような扱いだ。カトレアの眉が強張り、苦い表情を浮かべているのが横目でわかるが、下手に逆らえばこの場で拘束されてもおかしくない。ぐっと奥歯を噛みしめるしかなかった。


「……わかった。ここまで言われたら仕方ない。退きます。すみませんでした、突然押しかけて」


「ご理解いただけたなら結構。今後は勝手に近づかないようにお願いしますよ。でないと、私どもも職務を果たすだけですからね」


 まるで追い払うような態度の衛兵たちに軽く頭を下げながら、俺たちは後ずさりして門から離れた。その背後からクスクス笑いが聞こえるような気もするが、振り返っても無駄だろう。王太子が裏で糸を引いている以上、こちらの正当性を訴えても聞く耳を持たれない。


「……こんな簡単に門前払いされるなんて、想像以上に殿下が徹底してるわね」


「正攻法じゃ歯が立たないことがよくわかったよ。はあ……くそ、やっぱりあの人の権力は大きい」


「私がかつて婚約者だったなんて、今じゃ何の役にも立たない。むしろ妨げにしかなってないわ」


 カトレアは拳を握りしめ、下唇を噛んでいる。もし殿下がここまで強引な排除を指示しているなら、正面からの陳情は無意味だ。まさにリシャールの思う壺。悔しさで唇が震えたが、ここで暴れたり怒鳴ったりしても逆効果とわかっているから、何もできずに立ち尽くすしかない。


「仕方ない。無理やり突入でもしようものなら、すぐに捕まって牢屋行きだろうし……。別の方法を探すしかないな」


「ええ、そうね。ロイドの力や、エレナのコネクションもまだ活かせてないし。安直に突撃しても、殿下にとって格好の口実を与えるだけだわ」


「腹立たしい……けど、この王宮の威圧感と殿下の政治力を実感するね。門ですら通らせてもらえないとは」


「私が殿下の捨てられた存在ってことが、こんなにも大きな障壁になるなんて。わたしを助けようとするあなただって、国賊扱いされてるし……本当にどうすればいいの?」


 カトレアが自嘲気味に漏らす。俺も答えを出せず、王宮の堅牢な門を見上げるしかない。周囲ではちらほら野次馬が集まり、俺たちを遠巻きに眺める視線も感じる。大通りへ戻ると、きっとまた“あれが噂の反逆者と悪役令嬢か”なんて囁かれるだろう。


「ひとまず戻ろう。ここに居続けても危険なだけだし、下手したら取り巻きが暴力的な手段を使ってくるかもしれない」


「……そうね。わたしもここで長くウロウロするのは嫌。王宮の門を見るだけで、あの夜会の記憶が蘇って息が苦しいわ」


「ごめん。連れ出しておいて、こんな結末で」


「あなたが悪いわけじゃない。殿下が強引すぎるのよ。……帰りましょう」


 そう言って、二人でしゅんと肩を落としながら馬車のもとへ戻る。執事が心配げに待っていて、「どうでした?」と声をかけてくるが、表情を見れば結果はお察しなのだろう。俺は苦笑まじりに「何も進展なし」と伝え、馬車に乗り込む。


「はあ、結局門前払いか。こんなにも簡単に拒絶されるとは……強気で来たけど、王宮の敷居が高すぎる」


「これだけあからさまだと、逆に殿下の焦りかもしれないわね。わたしたちが本当に何か仕掛けるって思ってるからこそ、徹底的に排除しようとしてる」


「焦り、か。そうならいいけど……。よし、屋敷に戻ろう。ロイドの連絡を待ちつつ、別の貴族に働きかける方法を考えないとね」


「ええ、わたしもできる限り情報を集めるわ。ああ、でもなんか気が滅入る……」


「ごめんな。でも、もう諦めるつもりはないし、君もそうだろ?」


「もちろん。やらなきゃいけないのよ、あたしたちは。ここで門前払いされたくらいじゃ終われない」


 カトレアが小さく腕を組み、決意を握りしめるように頷く。その態度が救いだ。王太子の謀略がどれだけ強大でも、二人で戦う気持ちが揺らがない限りは、まだ希望を失わなくていい。客観的に見れば分の悪い勝負でも、ここで退けば一生後悔することになる。 


「帰ろう。落ち込んでても仕方ない。次の手を見つけるまで動き続けないと」


「うん、わたしもついていく。今度は殿下に好き放題はさせないわ」


「その意気だ。よし、帰って頭を冷やそう。絶対にこのままじゃ終わらないから」


 そう誓い合い、馬車の扉を閉める。道路沿いでこちらを見つめる人々の視線が、刺すように痛いのは変わらない。だが、俺たちは自分の目的を見失うわけにはいかない。

 まさに門前払いという結果で終わった王宮への直訴――それはリシャールの命令の大きさを再確認させる出来事だった。王都へ戻ってわずか一日なのに、もうこんな行き詰まりを実感する。けれど、俺とカトレアの決意が揺らぐことはない。殿下の幕引きの思惑に屈しないため、別の方法を探るしかない。

 こうして馬車は再び街中を走り出し、俺たちは退散を余儀なくされる。周囲の好奇や嘲笑を背に受けながらも、諦めの色は表さない。いつか必ず、この王宮の門を正々堂々と通り抜けてみせる――そんな意地が燃え上がっていた。

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