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一角ネズミ  作者: 晴彦
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廃村

 エク谷を越えたころにはカルエは疲れ果てていた。それでも少しだけ休んで食糧を食べて再び歩き始めた。 谷から先は穏やかな平地が続いていた。二人とも難所の一つを越えたので比較的陽気だった。互いに故郷のことを話して会話に花を咲かせた。しかしカルエが元気になるのはほんの少しのことで、またすぐに暗く、焦った様子に戻ってしまう。彼女はヨマを優しい、素敵な男性だと思い始めていたが今はそれよりも母親のことが第一だった。ヨマもそれを察したのだろう。あまり状況から程遠い、浮ついた会話は避けるようにしていた。

「エク谷だけじゃない。次なる関門はニベリン跡地。もともと村だった場所だが、今は誰も存在しない。そしてわかるだろうがこういった場所には霊や魔が住み着くものだ。不幸で亡くなった人の恨みの念の残滓が空気中に残るという話は半信半疑だが、負の力がその場に残るというのはあるのかもしれない。ニベリンは元々妖精が住むといわれるほど美しく長閑な場所だった。今は影が支配している」

「影、ですか?」

 ヨマは頷き、そしてそのまま黙ってしまった。

「詳しいんですね」

「元々私の家系は聖剣を用いて魔物退治生業にしてきた。父の代から純粋に剣の道を極めることにシフトしていったが、妖魔退治は祖父と一緒に何度かやっていた」

 ニベリン跡地なんて、そんな恐ろしいところが村から一日もいかないところにある。カルエはそのことに衝撃を受けた。自分は十五年間も何をしてきたのだろう。村から少し行っただけで別世界がまっている。この世界はカルエが思っていたよりも狭く、しかし恐ろしいところなのかもしれない。


 暗闇が迫ってきていたので二人は木陰に腰をおろした。夜風が寒く、二人の薄い着物ではとても耐えられそうになかった。

ヨマが赤い玉を取り出し、なにか呟くとたちまちのうちに保護結界が張られ、二人は寒さを気にしなくなった。

「ここで野宿し、明日は朝から一気に中央山までいこう」

ヨマのいうことにカルエは異論がなかった。

 そして二人はそこで夜を明かし、それから早朝に起きると簡単な朝食を済ませ、歩を進めた。空気は肌寒かった。カルエはペンダントを握った。気休め以上に温かくなったのに驚いた。

 寒村を越える頃に辺りは湿地帯に変わり、空も曇ってきた。それから少し歩くとニベリン跡地についた。

 ニベリン跡地はつい足を竦めてしまうほど不気味な場所なのだがカルエにはそこで躊躇して立ち止まる時間の余裕はなかった。

 村の内部を歩く。朽ちた木々や、煤けた家々。木造や煉瓦作り、鉄筋作りなど様々な家々は荒れに荒れ、その家々が再び人が住む場所になるようには思えない。

 カルエは全身を震わせながら進んだ。気温は村に入った途端に低くなり、悪寒がした。首飾りを手に取り念じると、少しは暖かくなる。

「すごい負の力を感じる。負の力といっても様々な種類があるんだが、ここにあるのは強い憎悪だ。怨念が渦巻いてる。悪霊が漂っているよ。気をつけて心を平常に保っていて」

 ヨマの言葉にカルエは頷くだけだった。

 悪霊が中空を漂っていた。まるで黒い靄が形となって飛び回っているように見える。彼らは二人の周りを飛び交い、カルエは自分達を監視しているようだと感じた。実際には彼らに何かを思考するような知能はなく、いるだけで周囲に瘴気を漂わせる不快な存在である。

 他にいたのはゴーシャガだった。灰色の、人型をした二足歩行の生き物だ。知能は低くこういった荒れ地によく生息する。腕が伸び縮み、鋭い爪で相手に切り傷を負わせる。爪は鋭いがさして俊敏さはなく、この妖魔を相手にするよりも大型の獣を相手にするほうが厄介かもしれない。

 ゴーシャガは攻撃的だが臆病でもある。何匹かカルエたちの周囲にいるのだが、二人の人間を相手にするのを躊躇っているようにみえた。

 カルエはヨマの背後に隠れているわけだが、ヨマは平然と進んでいく。まるで怖いとは思っていないようだとカルエは思った。

 怪物は姿を消した。それからニベリンから出るまで、特に問題なく進むことができた。


 しばらく長閑な平野を進み、二人は食事をとった。天気もよくなっていた。ヨマから魔物退治の話を聞いた。カルエには新鮮な話だった。そんなに妖魔達と戦って生還を果たしているヨマはきっと強いのだろう。まだその剣が抜かれたことはないが、あんな化け物がいる廃村を堂々と通過したのだ。大した胆力な持ち主であるのは間違いなかった。そう褒めるも、ヨマは首を横に振った。

「ニベリン跡地の道の一部を通過しただけだ。素通りしたともいえる。あそこで本当に怖いのは村の中央にある祭壇周りだ。私は近くそこへいってみるつもりだ。穢れが強すぎるから、仲間を引き連れる必要があるかもしれない」

 カルエはふと思った疑問を口にした。「思ったんだけど、さっきの村って迂回することもできたんじゃ……?」

「そうもいかないんだ。村を中心として村の外にも邪教徒達の怨念が周囲に渦巻いている。村の外も危険なのがこの地の厄介な所だ。それに遅延もするし」

 カルエにはわからないが、ヨマの顔つきから察するに、今通った廃村はよほど厄介な場所なのかもしれない。考えると不気味なのでカルエはこの地のことを考えないことにした。


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