さすらいのヨマ
その頃、放浪者である若者ヨマは広野を馬で進んでいた。齢二十四歳でカルエより七つほど年上だった。彼は剣の修行のために各地を放浪しているさすらい人だった。歪剣使いのヨマと聞けば知っている者も各地にいて、彼をよく知っている者は彼を恐れもした。
彼はあと数年、各地を放浪して義父の元に帰る予定だった。その頃には結婚も許されるから、相手を決めないといけない。旅の間によきパートナーを得られるかとおもっていたが、なかなかいいと思う相手がいなかった。別に焦ってはいなく、まだまだこれからだと彼は考えていた。旅で恋人を得られずとも、そういった機会など他にもあるだろう。
街道を進んでいると、右方に見える林の近くに一人の少女がいるのを発見した。みすぼらしい身なりの貧相そうな少女だ。
彼女は一体あんなところで何をしているのだろう。ヨマは気になった。戦の気配が漂うアルカニスから絶望が支配するマートまで、ずっと何もない広野を進んできた。少し人恋しかったのかもしれない。彼は少女の元に向かった。
カルエはヨマが近づいてくることに気付くのに遅れ、危うく悲鳴をあげそうになった。見ると、なかなか立派な馬に乗ってはいるがみすぼらしい格好をした若者だった。
「こんなところで何をしているのだ」
男は汚らしい身なりだが、よくみると美青年だということに気づき、カルエは思わず顔を赤らめた。美丈夫には慣れていなかった。
「脚を痛めてしまって……」しどろもどろに彼女は答えた。
「そんな破れた靴では無理だろう。私の後ろに乗るといい。近くに村があるのだろう? 送っていくよ」
そういった後に若者が狼狽したような顔をしたのでカルエは疑問を抱いた。
「いや、何も下心で申しているわけではないのだ。困った人間を見ると見捨てられない性分なんだ」
真面目な性格なのだろうかとカルエは思った。
村に戻るわけにはいかない。かといってこの足では進むことも叶わない。
「村には戻りません」
「戻らない?」
カルエは事情を話した。彼女の話を真面目な顔で若者は聞いてくれた。
「そうか……ならば、これも何かの縁。私もその一角ネズミとやらを探す旅に同行したい。さあ、馬に乗って。こいつは人が二人乗ったところでびくともしないから」
カルエは馬に乗せてもらい、若者の腰に手を回した。なんとなく気恥ずかしく、カルエはまたも顔を赤らめた。
「乗り心地は大丈夫かい? 私の名前はカンサルのヨマ。今は武者修行として各地を放浪している。君の名前は?」
「カルエです。白花村のカルエ」
「カルエか。いい名前だ」
年上だがそう離れていない異性にそういわれ、今度はカルエが狼狽えた。
馬はゆっくりだが力強い足取りで進んでいく。男の背中は筋骨逞しく、カルエは安堵感を覚えた。




