↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹ダンジョンで囮にされた僕、風精霊と同化して銀髪美少女へ 〜学園では落ちこぼれDクラスなのに、配信者を救いまくっていたらネットの神になっていた件〜  作者: あかぱん
ノワール解放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/102

翠光の残影

ノアが掲げた手から、翡翠の魔力が静かに紡ぎ出された。

それは奇跡の光などではない。世界樹の理に基づいた、絶対的な大気の掌握だった。


「や、やめろ……! 私の……復讐を邪魔するなァッ!!」


狂乱した御子柴が短剣を握り直し、床を蹴ろうとする。

だが、その瞬間――地下空洞を満たしていた気圧が、異常な密度で急激に跳ね上がった。


ゴォッ……!


空洞のあらゆる気流が、ノアの掌の動き一つで背後の【瘴気核】へと収束していく。

風の精霊としての絶対権能による、「大気の完全遮断」――超高圧の真空隔壁の展開だった。


「な……息が……魔素が、吸えん……!?」


御子柴が胸を掻きむしり、その場に崩れ落ちる。

瘴気核が紫煙を噴き上げ暴走し続けるには、周囲の大気中に漂う魔素との循環・連鎖反応が不可欠だった。

ノアはその周囲の空間から空気も魔素も完全に削ぎ落とし、絶対の「真空の繭」で核を隔離したのだ。


燃料となる外気を絶たれた瘴気核は、急速に連鎖反応を失っていく。

ドクン、ドクンと脈打っていた黒い脈動が急激に減速し、内包していたエネルギーが逃げ場を失って自壊。パキパキと音を立てて冷え固まり、やがてただの沈黙した鉱石の塊となって床に転がった。


「ぐ、あ……ぁ……ッ!」


核との魔力リンクを強制切断された反動が、御子柴の肉体を直撃した。

無尽蔵に引き出していた力が一瞬で枯渇し、極度の魔力欠乏と神経への負荷によって、男は床に倒れ伏し、激しい痙攣ののちに意識を失った。


吹き荒れていた熱風が止み、地下空洞に静寂が戻る。

神秘の力ではなく、大気の循環を極限まで知り尽くした者による、あまりにも精密で絶対的な魔導の制圧。


その光景を、氷華は息を呑んで見つめていた。


吹き抜ける澄んだ気流が、氷華の濡れた頬を優しく撫でていく。

どこかで知っている。

この、大気の震えそのものを手足のように操る、完璧な風の制御。


かつて――死を覚悟した絶望の底で、自分を救い上げてくれたあの背中。

翠色の光を纏い、荒れ狂う瘴気を一筋の風で平伏させていた、あの圧倒的な存在。


あの時、自分たちを救った神話の風。

そして、目の前で静かに佇むノアの姿。


氷華の脳裏で、ふたつの存在が完全に重なり合った。


「……翠光……様……」


氷華の唇から、震えるような囁きが零れ落ちた。

ずっと追い求め、感謝を伝えたいと願い続けていた救世主(ヒーロー)。

その正体が、目の前でエプロンドレスの裾を揺らし、佇んでいる少女――ノアだった。


「ノアさん……あなたが……『翠光の仮面』だったのですね……」


その言葉に、クラリスも、クローディアも、鳴神先生も息を呑んだ。

薄々感じていた予感が、決定的な真実となって胸に落ちる。


背後の光翼がふわりと光の粒子となって消え、ノアはゆっくりと床に着地した。

その瞳には、先ほどの神託のような峻厳さはもうない。

ノアは傷だらけの仲間たちの姿を見渡し、胸を押さえて唇を震わせた。


「みんな……っ、怪我は……? 僕のせいで、こんな……っ」


駆け寄ろうとするノアの足元も、多属性の魔力を無理やり通した反動でおぼつかない。

氷華たちの腕や服には、先ほど暴走させられた風で切り裂かれた生々しい傷がある。結界の逆流による激痛に耐え、血を吐く思いで檻を壊してくれたのだ。


「謝らないでください、ノアさん……!」

氷華は自らの痛みを堪え、駆け寄ってノアの手を包み込んだ。

「無茶をしたのは私たち自身の意志です。今も、今までも……あなたが私たちを救ってくれたことに、変わりはありません」


「でも……」

「いいから黙ってな」

クローディアが肩で息をしながら、大剣の柄に寄りかかって不敵に笑う。

「アタシらが好きで突っ込んだんだ。お前が気にするこっちゃねえよ」


鳴神先生も静かに歩み寄り、気絶した御子柴を確実に拘束用の魔導手錠で縛り上げながら、ノアへと視線を向けた。

「よく耐えたな、ノア。お前が無事で何よりだ」


仲間の温かい言葉に、ノアは涙を拭った。

重苦しい緊張がようやく解けかけた――その時だった。


ズズズズズズズッ……!!


頭上から、空洞全体を激しく揺るがす轟音と地響きが降ってきた。

コンクリートの粉塵がパラパラと落ちてくる。


「っ……何事ですの!?」

クラリスが天井を見上げる。


ピッ、とマリンの端末が耳障りな警告音をけたたましく鳴り響かせた。


「みんな、大変……! 地上が……!」

マリンの青ざめた声が響く。


「地下の瘴気核は止まったけど……地上で陽動に使われてた【半モンスターの青年】が、暴走を止められてない! 学園の防衛隊とギルドの迎撃部隊が完全に包囲して……『危険魔獣の即時殲滅』の指令が出ちゃったよ……!!」


「なんですって……!?」

氷華が目を見張る。


「ノワールが……!?」

ノアの顔から血の気が引いた。

御子柴に利用され、操られ、今まさに地上で命を奪われようとしている黒き獣。


「僕、行かなきゃ……」

ノアは仲間たちの疲弊しきった姿を見て、咄嗟に後ずさった。

「みんなはここで休んでいて。これ以上、みんなを巻き込めない……!」


足に力を込め、一人で駆け出そうとするノア。

だが――その肩を、鳴神先生の手がトンと力強く引き止めた。


「待ちなさい、ノア」


「先生……! でも、みんなもうボロボロで――」


「バカ言んじゃないよ」

遮ったのはクローディアだった。彼女は大剣を構え直し、痛む体に活を入れるように乱暴に息を吐く。

「誰が一人で行かせるか。ここまで付き合っといて、最後の最後で仲間外れにすんな」


「そうですわ」

クラリスも煤けたローブを払い、杖を握り直す。

「わたくしたちの大切なお友達を……一人で行かせるわけにはいきませんわ」


氷華もまた、レイピアを手にノアの隣へと並び立った。

「一人で背負わないでください、ノアさん。私たちは、もう二度とあなたを一人にはさせません」


「みんな……」

ノアの翡翠の瞳が潤む。


鳴神先生が刀を腰に差し、旧資材区へと続く搬送リフトの非常レバーに手をかけた。


「御子柴の身柄は後続の部隊に引き渡す。行くぞお前たち――地上(うえ)へ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。