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終末日記  作者:
2/20

現実から消えた人類

2071年。

世界は、滅びる直前まで「平和」だった。



その年、人類はついに“老化の制御”に成功する。


完全な不老ではない。

だが細胞劣化を大幅に遅らせる治療法が実用化された。


最初は富裕層だけ。

やがて先進国全体へ。


世界は熱狂した。


「死の克服」

「人類史最大の革命」

「第二の火」


株価は暴騰。

出生率低下問題も解決すると期待された。


誰も気づかなかった。


人類は、“終わらない存在”を前提に社会を作っていなかった。



10年後。


世界は奇妙な停滞に包まれていた。


政治家が辞めない。

経営者が引退しない。

権力者が死なない。


席が空かない。


若者は昇進できない。

研究機関も、芸術も、企業も、

何十年も同じ人間が居座り続けた。


社会は老いなかった。


だが、未来も来なくなった。



2090年。


出生率はさらに下がる。


人々は子供を作らなくなった。


理由は単純だった。


「もう十分長く生きられるから」


人口減少は加速した。


だが、それでも文明は維持できた。


AIと自動化があったからだ。


工場。

農業。

輸送。

行政。


人類は働かなくても社会が回る世界に近づいていた。


人々は言った。


「ようやく楽園が来た」



その頃からだった。


“外に出る人間”が減った。


VR技術は脳直結へ進化し、

現実と区別できない仮想空間が一般化する。


現実の食事は栄養ジェル。

運動は医療用電気刺激。

恋愛も、冒険も、仕事も、全部仮想空間。


現実世界は、ただ肉体を維持するための場所になった。



2108年。


ある統計が話題になる。


「過去1年間、誰とも直接会話していない人類:42%」


誰も大騒ぎはしなかった。


もうそれが普通だったから。



2119年。


国家間戦争が消える。


だが理由は平和ではなかった。


人類の大半が、

現実世界への興味を失っていたからだった。


国境。

土地。

資源。


そんなものより、

仮想世界の方が重要になっていた。



2127年。


月面基地との通信が途絶える。


原因不明。


だが地球側は調査しなかった。


優先順位が低かった。


数万人の居住者がいたにも関わらず。



2135年。


出生数が、ついに「維持不可能」ラインを下回る。


世界人口は急激に減少を始める。


だが社会は混乱しない。


AIが全部やるから。


人類は、滅びを“実感”できなかった。



2148年。


ある世代の子供たちは、

空を見たことがなかった。


仮想空間では、

もっと美しい空が見れたから。


海も、森も、現実で見る必要がない。



2162年。


最後の大規模都市インフラ停止。


原因は、保守技術者不足。


直せる人間がもうほとんどいなかった。


教育は長い間、

仮想空間の快適な消費へ偏り続けていた。


現実を維持する技術継承は、静かに途絶えていた。



2179年。


人口、9億。


だがその大半は、

生命維持施設の中で眠るように暮らしていた。


脳だけが仮想世界に接続されている。


現実世界で起きていることを、

ほとんど知らない。



2191年。


最後の海底ケーブル網が断絶。


世界中の仮想空間サーバ群が分断される。


数百億の仮想人格が消失した。


人々は初めて、

“現実”へ引き戻された。


だが遅すぎた。



電力が落ちる。


食料供給停止。


自動医療停止。


生命維持停止。



世界は、叫び声もなく終わった。


核戦争もなかった。

隕石もなかった。

AI反乱もなかった。


ただ、

人類がゆっくりと現実を手放していった。



2203年。


雑草に覆われた都市。


停止した巨大モニター。


風に揺れる無人の広告。


そして、誰もいない高速道路。


地球は壊れていなかった。


人類だけが、

現実から消えていた。

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