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終末日記  作者:
10/20

緑の惑星

2052年。

「それ」は、空から降ってきた。



最初に発見されたのは、

アフリカ北部の砂漠地帯だった。


黒い粒子。


雪のように降り積もっていた。


だが冷たくない。

熱くもない。


ただ、

異様に光を吸う。



分析した研究者たちは困惑する。


地球上の物質ではなかった。


元素組成が合わない。


もっと正確に言えば、

“周期表のルールに従っていない”。



世界は少し盛り上がった。


「宇宙由来物質か?」

「エイリアン?」

「新素材革命?」


SNSではしゃがれた。



だが、

異変はすぐ始まる。


黒い粒子に触れた植物が、

異常成長した。


一晩で数十メートル。


森が爆発的に増殖する。



最初、人類は喜んだ。


砂漠緑化。

食料問題解決。

CO₂削減。


夢の物質に見えた。



2053年。


動物にも影響が出始める。


巨大化。


虫。

魚。

鳥。


だが単純なサイズ変化ではなかった。


生態系の“制限”が消えていた。



ある昆虫学者が言う。


「地球の生物は、

地球環境に合わせて小さくなっているだけだ」


「もし制約が外れたら――」



海で異常が起きる。


深海生物が浮上し始める。


数百メートル級の影。


軍は隠蔽した。


パニックになるから。



2054年。


世界中で、

巨大植物による都市侵食が始まる。


ビルを貫く根。

高速道路を覆う蔦。


除草剤が効かない。


燃やしても、

灰から再生する。



人類は気づく。


これは侵略ではない。


もっと根本的な現象だ。



“地球環境が変わり始めている”。



大気組成が変化する。


酸素濃度上昇。


湿度増加。


巨大生物に適した環境へ。



2056年。


初の「超大型生物災害」。


南米。


移動する山脈のような存在。


最初は地震だと思われた。


違った。


巨大生物だった。



映像は世界を凍らせる。


森そのものが歩いていた。


木々の集合体。

数千種類の生物が共生した、

一つの超巨大生命体。



兵器は効かなかった。


ミサイルで吹き飛ばしても、

周囲の植物が再結合する。


まるで、

惑星そのものが自己修復しているようだった。



2058年。


科学者たちは、

最悪の事実を知る。


黒い粒子は、

DNAを書き換えていない。


もっと深い。


“進化の制限”を解除している。



地球生命は本来、

もっと巨大で、

もっと異形で、

もっと暴力的になれる。


だが環境制約で抑え込まれていた。


そのロックが外れ始めていた。



2061年。


海洋消失。


正確には、

“海が生き物に変わった”。



赤潮のような巨大生命膜が、

海面を覆う。


船が飲み込まれる。


海は、

液体の生態系へ変貌する。



2063年。


空も変わる。


巨大飛行生物。


翼長数キロ。


鳥ではない。


昆虫でもない。


既存分類不能。



人類は地下都市建設を急ぐ。


だが遅かった。


植物は地下へ侵食する。


根がコンクリートを割り、

都市を貫通する。



2065年。


地球上で、

“人類だけが不自然”になる。


他の生命は、

新環境に適応し進化していく。


人間だけが、

脆弱な旧時代の生物のままだった。



2070年。


最後の大都市陥落。


東京。


衛星映像には、

緑色の巨大な塊に飲まれる都市が映っていた。


高層ビルが、

樹木の幹みたいに見える。



2074年。


人類絶滅危惧種指定。


皮肉ではない。


生物学的に。



そして研究者たちは、

最後に一つの仮説を残す。


あの黒い粒子は、

隕石でも兵器でもなかった。



“テラフォーミング”。



誰かが、

地球を「本来の環境」に戻していた。


人類が住みやすい惑星へ変えていたのではない。


逆だった。



人類が、

ずっと仮の環境に住まわされていただけだった。



2081年。


宇宙から撮影された地球。


そこにはもう、

人類文明の光はほとんど見えない。



ただ。


脈動する巨大な緑だけが、

惑星全体を覆っていた。

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