70
住宅街、海山家の近所にある公園。
小学生たちが遊ぶ中、真剣な表情をしながら踊っている三人の女子高校生がいた。
三人とも動きやすい格好をしている。
スマホに繋がれた小型スピーカーからは曲が流れている。
流れている曲は、道産子アイドル『たら3P』のミリオンヒットを記録した曲。曲名は『兄さキッス』である。
アップテンポなポップな曲調でありながら、歌詞は兄への禁断の想いを綴った妹目線の儚い気持ち。
金髪ツインテールの一人が、踊りを止めて曲を止めた。
「だめだめ! さっきからここがズレるわ! もう一回」
「わたくしは完璧だと思いますけれど、ズレているのはあなたたちではなくて?」
金髪ゆるふわウェーブの一人が反論した。
にらみ合う金髪二人。
「二人ともケンカはダメだよ。もっかい合わせてみようよぉ」
仲裁するように背の小さいちんちくりん頭の彼女が間に入った。
曲が再生されて三人はまた踊り始める。
三人のダンスはズレている。しかし、個々に見たときそれぞれにしっかりとした個性があり、ダンスも下手ではない。
曲のサビに入る手前でツインテールが再度曲を止める。
そして、ゆるふわの方を指さす。
「もぉ! あんたね。ここのジャンプした後揺れるのやめてくれる? 着地でピタッとしないとカッコ悪いじゃん!」
「仕方がありませんわ。揺れてしまうのですもの。それとも揺れるものがないから妬んでらして?」
「んなぁにぉ!! やんのか令嬢風情!!」
一触即発の二人。
ちんちくりんはまた止めに入る。
「ケンカはダメってば!」
ツインテールの矛先はちんちくりんに向く。
「あんたも着地で揺れてんの! このロリ巨乳が!」
「むぅー! あたしはロリじゃない! ロリじゃない! 高校生になったしお姉さんなの!!」
ちんちくりんは背が小さいのを馬鹿にされると怒るのだ。さらに『ロリ』は禁句である。
まとまりのない三人のダンスは日が暮れるまで続けられた。
****
豊平川の河川敷。
中央区と白石区を繋ぐ橋の下で踊っている女子高校生がいた。
すぐ横にはテニスコートや小さめの野球場があり、人は多い。
彼女は人目が気になって踊りに集中できない。恥ずかしいのだ。
彼女は自宅で練習することも考えた。しかし、自宅はボロい木造アパートの二階。歩くだけでも音が下に響く家で踊ることなどできなかった。
「恥ずかしがってたらダメだ。うん。頑張らなきゃ」
彼女は小さく独り言を言って踊りに集中する。
踊りは正確さがある。しっかりと音にハマり、動きも鋭い。
彼女のダンスは日が暮れるまで続けられた。
****
狸小路。時刻は夜の12時を回り、日付も変わっている。
この時間の狸小路は、昼間とは雰囲気がガラッと変わる。
昼間は大勢の観光客や地元の学生など、様々な人が様々な目的のために行きかう。
しかし、夜中は店のシャッターは閉められ、開いているのは数店舗の飲み屋程度。
それでも人は沢山いる。
路上に座り込み弾き語りをする者。
酔っぱらって寝転がっている者。
二次会を求めて集るサラリーマンたち。
ライブハウスの前に集るバンドマンや客。
そして、ガラス張りの表面の店舗の前に一人の女子高校生がいた。
その店は暗く、営業はしていない。
彼女の目的は、このガラスの表面である。
鏡程ではないが、姿が反射して映るためダンスの練習にはもってこいなのだ。
他のガラス面がある店舗にも、彼女のようにそれを求めてきている人が何人もいる。
彼女は音楽プレーヤーを小型スピーカーに繋ぎ、ダンスを始めた。
通行人に見せるためではなく、自分の練習のためだ。
彼女のダンスは熟練されていた。
いつの間にか彼女の周りにはちらほらと人が集まり始める。
スマホを持ち動画を取っている者。
立ち止って見ているカップル。
曲に合わせて陽気に手を叩くおじさん。
彼女の荷物の上に投げ銭してく者。
彼女には人を惹きつけるなにかがあった。
練習の曲が有名だからではない。
彼女が可愛いからではない。
練習に取り組んでいる姿勢。真剣でありながらも絶やさな笑顔。熱。
そして彼女のオーラ。それらが人を集めたのだ。
曲が終わると拍手が起きた。
彼女は気にせずもう一度同じ曲を流してダンスを始める。
日付的には今日。
ルナールプロダクションで面接がある。新プロジェクトの面接。
彼女は東京で地下アイドルをしていた。同じルナールプロダクションの東京支部所属。
もう合格は確定している。
それでも練習せずにはいられなかった。頑張り屋という彼女の性格がそうさせている。
新しくついたマネージャーにはこう言われていた。
面接に立ち会ってほしい。君と新たに組むユニットのメンバーになる可能性があるから。と。
新マネージャーには別名があった。ルナールプロダクション内での別名。『白紙の丈』。
オーデションの際に面接官がつけるチェックシート。このシートを白紙で提出するのだ。
しかし、白紙ではないこともある。チェックが入った参加者は全て売れっ子となっており、そこからついた名である。
ルナールプロダクションに関わっている者なら知らない人はいない。
そんな白紙の丈が新マネージャーなのだ。
彼女は不安があった。もしかすると自分は外されてしまうのではないか。と。
合格が決まっていても、なにが起こるか分からない世界。
彼女の練習は夜中の2時まで続けられた。




