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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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 6月13日。昼休みA組の教室。


 この日は珍しく竹田が教室にいる。川谷も。

 この珍しい日を逃しまいと小清水は動き出す。


「はいはい六班メンバー集合。花菜ちゃんも今日はここで飯食ってねー」


 立ち上がろうとしていた川谷だが、小清水の一声で止められる。

 仕方なさそうに席に座りなおす。


 各々昼食を広げ小清水の方を見る。


「明日はなんの日だと思う?」


 優等生の竹田が手を上げる。その際に辞典ヘアーが鳥のようにふわりと羽ばたく。


「明日は札幌まつりですね」

「正解!」


 空はこの雰囲気を察して顔をしかめた。

 小清水はニヤリとしながら続ける。


「みんなで行こうぜ!」

「いくいく! 今年は部活もやってないから存分に楽しめそうね!」


 湊は大きな乳房を弾ませながら賛成した。

 しかし浮かない顔をする三人。空、川谷、竹田である。


「辞典君、彼女も誘っていいからさ! 六人で行こうぜ? 俺らに彼女紹介しろ」


 この小清水の発言で、竹田はほっとするように手を胸に当てて賛成した。


 残るは二人。


 小清水の考えでは、一番手ごわい二人。

 ――海山は椿沢のことを考えているな。花菜ちゃんは最近俺らになにかを隠している。もしくは、距離を取っている。

 花菜ちゃんがそうしている理由はなんだ? 海山とケンカか? 海山の家に行けなくなったと言っている会話は俺も聞いていた。そのときなにかあったのか? 本当に親に怒られたせいなのか?

 亜樹にさりげなく探りを入れてもらったけど聞き出せていない。

 海山と花菜ちゃん。あんなに仲が良かったのに……。この問題は放っておいていいのか? 否だ。俺と亜樹だって一瞬そうなりかけた。それを保とうと行動してくれたのは誰だ?

 この二人じゃないか。それに俺は椿沢が嫌いだ。海山の家でふとしたときにみせた不気味な口。目。あの野郎はなにか企んでいるに違いない。

 海山には悪いが分からせるしかない。


 湊は小清水とグルである。

 小清水から相談を受けていたのだ。祭りに行きたいという相談ではなく。祭りというイベントを使って二人を仲直りさせようという相談。


 湊は川谷に優しく話しかける。


「花菜ちゃん。みんなで行こ? 絶対楽しいよ!」


 川谷は一瞬空を見る。目は合っていない。そしてすぐに反らす。眉を下げて悩む。

 

「…………わかった。私もいく」


 小清水は湊にウインクをした。


 残る強敵は空のみ。


 空に視線が集まる。


「みんなごめん」


 空は頭を下げた。


「俺は椿沢さんと行く約束をしちゃたから……」


 川谷は立ち上がり教室を出ていった。


 小清水は頭を抱えて小さくつぶやいた。最悪だ。と。


****


 空はピッピ―マートで買い物を済ませ帰宅する。

 食材を冷蔵庫に入れて自室に入る。


 すると、机の上に花の植えられた小さな鉢が置いてあった。


 茎からへら状の葉が生えており、枝分かれした茎の先はいくつもの花。

 五つの花弁で薄花色(うすはないろ)の小さな花。

 

 空は花に詳しくない。知っている花といえば、ヒマワリやチューリップ、アサガオにラベンダーくらいである。

 この花は空の知らない花。


「陸か。変ないたずらしやがって」


 空は鉢を窓際に移動させ、部屋着に着替えた。


 リビングに向かうと陸がテレビゲームをしていた。


「あ、空ニィおかえり」

「ただいま」

 

 空はキッチンで手を洗いながら陸に注意する。


「陸。いたずらはたいがいにしろよ?」

「げ!?」


 ビクリとした陸はコントローラーを小さく放った。


「空ニィ気づくの早くない?」

「いや。あれは気づかない方がおかしいだろ」


「バレないと思ったんだけどなぁ」



 その日の夜中。

 空はまたあの悪夢を見ていた。


 しかし夢の中で空は異変に気づく。

 場所が荒野ではなく花畑なのだ。そしてこの花畑の場所を空は知っていた。

 幼いころ家族旅行で行った富良野(ふらの)のラベンダー畑である。

 ゆるい傾斜にみっしりと植えられているラベンダー。


 そんなメルヘンな場所を逃げる空。

 追ってきているのはSAN値をもっていかれる豚の女性。


 展開は同じ。逃げるも逃げるもドジを踏んで追いつかれ、赤黒い唾液が頬に垂れる。


「うわぁぁぁぁ!」


 空は飛び起きる。

 背中は汗で湿っている。


 しばらく放心したあと、異変に気づく。

 匂いである。


 夢から覚めたはずなのにラベンダーの香りが鼻を刺激し続けているのだ。


 空は異変を探すため部屋の明かりを点けた。

 するとベッドの陰から白いモヤが煙のように出ていることに気がつく。


 警戒しながら陰を覗くと、小さな機械が置いてあった。その機械からモヤが出ている。ラベンダーの香りも。

 手に取り調べていると、部屋の扉が開かれた。


「どうだった? 叫んだの聞こえたから失敗だったとは思うけどさぁ」

 

 陸の声である。

 陸は中に入ってくる。


「これはなんだ?」

「アロマ加湿器。ラベンダーのアロマ入れてあるんだけどさ」


「なんで置いた?」


 バレていたと思っている陸は首をかしげた。

 

「アロマは安眠効果があるの! 調べたの! 失敗だったみたいだけどね」

「そうか…………ありがとう」


 空は思った。あの鉢はフェイクだったのかと。


「もう遅いから寝よう。明日は祭りだしな」

「うん」


 陸は出ていった。


 空は加湿器を適当に置き、再度布団にもぐった。



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