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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter3 エゾムラサキ
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 クニツルが桃木になにかをして丸一日が経った。

 依然クニツルは無反応。


 昼休みになり、空は購買に向かうため廊下に出た。

 すると、少し先から椿沢が向かってくる。


 空は桃木のことも気になっていたので、手を上げて歩み寄った。


「椿沢さん。桃木先輩は?」

「そのことでここに来ました。あとこれを渡しに」


 椿沢は手に包みを持っていた。

 チェック柄の布で包まれた物。


「これは?」

「お弁当です。……嫌でしたか?」


「俺に?」

「空さん以外に誰がいるというのですか」


 空は照れながらも弁当を受け取る。


「桃木杏を病院に連れていきました。お医者さんが言うには、外傷などもないし、一過性のものではないかと……。症状は一日ほどでよくなると言っていました」

「そうですか」


 空はクニツルのせいでこうなっているのを知っている。医者に診せたところでどうにもならないということも。


「学校にはきてるんですか?」

「ええ。とても嫌がっていましたけれど、同行してくれた茶木英里子が金子南はゲームの達人だって教えるとすんなりでした」


「そうですか」

「学校では茶木英里子と金子南がいるから一応安心だとは思います。わたしの家に泊まるのも問題はないですし。しばらく様子を見ましょう」


 空の背後から小清水が近寄ってくる。

 そして、がっしりと肩を組んだ。


「おーおー熱いねー。学校でも仲よくしてると妬いちゃうねー」

「春君か。驚かせるなよ」


 これを見た椿沢の表情が変わる。

 頬を赤らめてまどろんだような瞳。両手で口を押えている。


「お前の持ってるそれなに? パッと見弁当っぽいけど…………あ。察したわ」

「…………」


「お前ばっかりずるいぞ! 一口おかずをよこせ」

「――あ!」


 小清水は空から弁当を取り上げた。

 包んでいる布をはずし、弁当を開ける。そして、卵焼きをひとつ指でつまんだ。


 卵焼きが小清水の口に運ばれ、上下の歯がそれを噛もうとするその瞬間。


 消火器の底が顔面にクリーンヒットした。


「――あだぁっ!?」


 ガコンと重い金属音を鳴らしながら消火器は転がる。

 小清水は顔を手で押さえながら転がる。

 卵焼きも柔らかい音を立てて転がる。


 空は慌てて消火器の飛んできた方向を見る。


「――つば、きざわさん!?」


 美しいフォロースルーを維持した椿沢がそこにはいた。


「そのお弁当は空さんに作ったものです。空さん以外が口にするのは許しません!!」


 小清水が顔を押さえたまま立ち上がる。


「――おま、俺を殺す気かー!? 口で言えば分かんだろー。消火器投げるとか……下手したら死ぬぞ!?」

「まだ生きていたようですね。殺す気で投げましたから。……というのは冗談です」


 椿沢は踵をかえしてその場を後にした。


 椿沢が見えなくなると小清水が空に尋ねる。


「お前ほんとにあんな女がいいのかよ?」

「…………春君には(・・・・)分からないよ」


 空は下を向いて言った。


「へーいへーい。どうせ俺には分からんよ」



 帰りのホームルームが終わり、放課後。


 川谷は足早に教室を出ていった。


 小清水が湊に話しかけようと横を向いたとき、怖気づいたように驚く。

 視線は湊の後ろ、教室の入口。


「――げ!! 暴力女!! 俺は弁当つまみ食いなんてしてないからな!」


 椿沢である。

 教室に残っている生徒はどよめく。生徒会副会長が教室にきたのだ。生徒たちはその矛先を見極めようとする。自分たちは悪いことなどしていないはずだ。と。


 そんな生徒たちにかまいもせず、椿沢は真っすぐ空の元へ。


「空さん帰りましょうか?」

「え?」


 教室がさっきとは違うどよめきになる。


「空さん携帯繋がらないですから。……それとも、こういうのは嫌でしたか?」

「いえ。そ、そんなことはないです。と、とりあえず教室を出ましょうか。はは……」


 空は椿沢の手を引いて生徒玄関まで走った。


「椿沢さん。それより桃木先輩は?」

「今日は金子南の家にいくそうです。金子南の家は豪邸だそうで、部屋も余っているらしいですよ」


 空は色々と気になる所もあったが飲み込んだ。


「それより空さん。今日もお邪魔していいですか? わたしも空さんの手料理食べてみたいです」


 椿沢は胸の前で手を合わせながら言った。

 空は少し考えた後返事をする。


「いいですよ。食材がないのでピッピ―マートに寄ってもいいですか?」

「もちろんです」


****


 足早に学校を後にした川谷。スマホ片手に道を行く。

 向かっているのはピッピ―マート。

 

 スマホはメールの受信画面が開かれている。

 差出人の欄には『おばあちゃん』と表示されている。

 本文には食材を買ってきてほしい旨と、欲しい食材が書かれている。


 川谷は早歩きになる。

 夕食時には混んでくる(・・・・・)からだ。早く食材を買わなければいけない。


 ピッピーマートに着き食材を選んだ。

 会計を済ませ店を出ようとしたとき。


 川谷はボッチパワーを発動した。


 川谷の目の前を二人の高校生が通る。二人はボッチパワーを発動している川谷に気づかない。

 丸眼鏡の男子生徒が隣の女子生徒に話しかけている。


「俺って口が和食なんですけどいいですか? この前椿沢さんが作ったのは洋食だったので」

「和食も好きですよ。でも、和食って作るの難しくないですか?」


 二人は楽しそうに話しながら店の奥へと進んでいった。


 川谷はそれを確認すると足早に店を出る。



 買い物袋を提げた川谷が着いた場所は、木造の古い定食屋。

 引き戸に手をかけて開けようとするが、うまく開かない。

 川谷はこの扉を開けるのが苦手であった。


 すると店の中から声がした。


「花菜ちゃんかい? ちょっと持ち上げるようにして開けてごらん」


 川谷は言われたとおりにすると、スムーズに開いた。中に入る。

 

「おばあちゃん。この扉直した方がいいよ」

「そのうち直すっておじいちゃんが言ってるんだけどねぇ。もう5年は経つねぇ」


 川谷は買ってきた食材をカウンターテーブルに置いた。


「まだ混んできてないみたいだね。まにあってよかった」

「ありがとうねぇ。おじいちゃん食材あるって言うから買い出しいかなかったの。そしたら食材ないの。ボケてきてるのかねぇ」


 川谷は袋から食材を出しておじいちゃんに渡していく。

 おばあちゃんはテーブルを拭きながら川谷に話かける。


「花菜ちゃん。北海道の空気にはもう慣れてきたかい?」

「うん」


「札幌っていっても向こうと比べたら田舎だろうさぁ。東京に帰りたくなったりしないかい?」

「私は札幌好きだよ」


「そうかいそうかい」

「ねーおばあちゃん。今日はここでご飯食べていってもいい?」


「もちろんいいよぉ。でも、いいのかい?」


 川谷は下を向き、油揚げを持ったまま止まる。


「……うん。今日は(・・・)大丈夫。きっとここには来ないから」



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