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俺のスマホはこんにゃく  作者: ななほしとろろ
chapter1 出会い
14/79

13

 時刻は午後四時半を回った。


 小清水の犯人捜しを手伝うことにした空と川谷。

 空は貸出カードを入れてある引き出しを開きながら小清水に訊く。


「春君の借りようとしていた本の名前はなに?」


 小清水は三つのタイトル名を告げる。


 犯人捜しは難しくはない。貸し出しカードを見れば一発で学年、クラス、名前が分かるからだ。


 空がカードを探していると、受付裏の事務室からで出てきた司書教諭が声をかけた。


「はい。お疲れ様です。図書委員はもう帰っても大丈夫ですよ」


 白髪によって灰色に見える髪。パーマをブローで伸ばしたショートヘア。眼鏡からは金色のチェーンが垂れる。白のブラウスに灰色のポンチョを羽織っている。

 彼女は(はやし)久美子(くみこ)。司書教諭でありここ図書室のボス。

 表情は優しい。

 

 三人はなんとも言えない表情になる。

 あと少しで犯人が分かるというのにここは帰らざるを得ない雰囲気である。


 空と川谷が林と慣れ親しむ交流があったのならば、林に頼んで貸出カードを探せたかもしれない。

 しかし、二人は林と今日初めて会ったばかりである。さらに、初めて図書委員として働いた。

 空と川谷は上には逆らわず穏便にいくタイプである。


「はい。分かりました。お先に失礼します」


 空は引き出しを戻し林司書に頭を下げた。そして、図書室から出ていく。川谷も同じく続く。

 小清水はやり切れない表情で二人を追いかける。


****


 次の日。昼休み。


 小清水は購買でパンを買うために頑張っている。

 空と川谷は少し離れた場所からそれを見守る。

 学校の一階。生徒玄関前にある購買は戦場である。


 肩で風を切る三年。それを待つ二年。さらにそれを待つ一年。


 その光景はまさにサバンナそのもの。

 三年というライオンたちが獲物に集まり、その残り物を影で待つハイエナの一二年。


 ハイエナは残り物を奪うイメージだが実は違う。彼らは王者ライオンよりも狩りがうまい。

 むしろライオンの方がハイエナから横取するほどだ。

 本当のハイエナは強い。

 ただ、ここにいる一二年はイメージ通りのハイエナ。ただただ王者が帰還するのを待っている。


 しかしこの後、空と川谷は本当のハイエナを目撃することとなる。


 ハイエナ小清水。


 小清水は中学で鍛えた瞬発力をいかし、三年の群れに突入していく。

 狙いは一日限定五個の毛ガニパン。

 北海道産の毛ガニをふんだんに使用した硬めのホワイトクリーム。これをパン生地に包み香ばしく揚げ、仕上げにピリッと辛いスパイスをまぶしてある。

 口にした者はあまりの美味でもがき苦しむという。


 小清水の前に一人の三年男子が立ちはだかる。

 彼はいかにも秀才そうな細縁眼鏡をかけている。高く上げた手の中指で眼鏡をクイっと直す。


「一年君。君は私には勝てない。なぜなら。それはこの僕が三年生だからさ。フッ。上級生に手を出すこ――」

「うるせぇ!」


 小清水は構わずに体重の乗ったタックルをかます。


「――ぐはぁ!」


 このとき、三年生の二人が声を上げる。


「おい。細縁のマモルがやられたぞ!」

「まあいい。奴は四天王の中でも最弱!」


 小清水は進むが、また一人の三年男子が立ちはだかる。


「俺っちはマモルみたいにはいかないゼ!」


 その三年は右目に眼帯をし、左手には包帯が肘まで巻かれている。

 その異様さに小清水は身構える。


「俺っちの本当の姿をこの下僕どもの前でさらすことになるとはネ。(うず)く。疼くゼ! ――目覚めよ! 俺っちの右手に宿りし邪悪な――」

「うるせぇ!」


 小清水は構わずに体重の乗ったタックルをかます。


「――ぐはぁ!」


「おい! 邪手のマエダがやられたぞ!」

「あいつは前フリが長い」


 小清水は進む。

 ここで売店のおばちゃんコールが入る。毛ガニパン残り一つ。と。


 次に立ちはだかったのは三年生の女子が二人。

 小清水は思わぬ女子の登場に一瞬ひるむ。


「「アタイたちはさっきまでの雑魚とは違うよ!」」


 その二人はシンクロして声を発した。

 片方はメリケンをつけ、もう片方はヨーヨーを回している。


 小清水が片方の拳を避ける、しかし、避けたさきにはヨーヨーが飛んでくる。

 

「ぐっ――」


 小清水は腕にヨーヨーを受ける。


「「ハハハ! アタイたちがいる限りここは通させないよ!」」


「クソッ! せめてサッカーボールがあれば……」


 そんな小清水の願いが届いたのか。どこからともなくボールが転がってきた。

 ボールは小清水の前で止まる。助走をつけて蹴るには絶好の位置。


「くらえぇー! 小清水ぅシュートォーー!」

 

 太い大腿四頭筋。鍛えられた体幹。そこから鞭のようにしなる足から打ち放たれたボールは、三年女子二人にツーコンボでヒットする。


「「――ぐはぁ!」」


「おいナンバー2のスケバンズまでやられたぞ!」

「ついに私の出番か。久しぶりに骨のある一年があわられたようだな」


 購買前は四天王ナンバー1と小清水のバトルを見るため、ギャラリーが輪のように集まっている。


 そんな中、物陰で見守っていた空と川谷は見た。

 ギャラリーを無視し、真っすぐと購買に向かう一人の女子生徒を。

 ギャラリーの生徒は誰も気づいていない。 


「私は四天王ナンバー1。剛力(ごうりき)(はじめ)だ。またの名を不屈の剛力!」


 二メートル近い身長。クマのような体格。ブレザー校なのになぜか学ランに学帽。

 制服のボタンは全開。そこから見える腹に巻いたサラシ。靴は下駄。


 小清水はこの威圧に一歩下がる。

 しかし、まだ戦う意思はあるのか右手にはサッカーボールを持ったままである。


 誰もが息を飲んだ。一触即発のしびれるような間。


 この静かな空間で第一声を上げたのは――。


「はーい! 今日の毛ガニパンは完売だよー! メロンパンはまだまだあるよー!」


 購買のおばちゃんであった。



 空と川谷は知っている。

 一人の女子生徒、湊亜樹がスーッと購買に向かい毛ガニパンを買っていたことを。

 湊がサッカーボールを転がした人であることも。


 湊亜樹はのちに三年生の間で『静寂の魔女(サイレンスウィッチ)』と、通り名を付けられることとなる。



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