精霊と再契約、フィーナ姉のパワーアップ!! これで僕は……。
「では気を取り直して……エル・クラボに命じる。人の姿を取り、こちらの問いに明確に答えよ」
エル・クラボはキーと一鳴きすると己の体から発した黒煙に包まれ一時姿が見えなくなる。黒煙が晴れるとエル・クラボの頭部に変化があった。逆三角形の頭が人の物に代わっていたが僕はどうしてそうなったのか疑問を呈する。
「何で?」
そう呟くのはしょうがないと思う。何故ならエル・クラボの顔は僕の顔になっていたのだから。
「何故、その顔に変化したのじゃ?」
「この顔ならそう簡単に私を消失させるような事は出来まい」
エル・クラボは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「ワッ、声までカイルさんに変化しています」
僕の隣りでエルヴィラさんが何やら感心していた。
「その程度の事で動揺すると思われとるとは舐められたもんじゃのう……跪け!」
アルジュナさんの命令にエル・クラボはまた地面に叩きつけられる。先程より拘束の力が強いようで苦痛に呻いている。僕の顔で僕の声で苦しんでいる様は自分がやられているようで心が痛む。
「あのう、アルジュナさん。それぐらいで……」
「やめる訳なかろう。ワシはこやつの勝ち誇った笑みが気にくわん。泣きっ面に変えてやらねばな」
アルジュナさんの残虐非道な笑みに僕は引いてしまう。
「コラッ! そこで引き下がるな、この顔の持ち主よ、頑張らぬか!」
「いや、僕に頑張れって言われても……」
(精霊に懇願されてしまったよ。でも僕にはアルジュナさんを止める事は出来ないよ……)
「寸劇はやめい……ワシは言っとろう。問いに答えよと。下らん事をしなけれ痛い目を見ずにすんだのに……これは小細工を弄した結果じゃぞ」
エル・クラボは悔しそうに呻いている。
「私に聞きたい事とは何だ? 早く言え。そしてこの拘束を解け!!」
「まだ、そんな態度が取れるのか?」
エル・クラボはアルジュナさんに抵抗する意志が残っていおり、アルジュナさんはそれが気に入らないようだ。
「エル・クラボに命じる……」
「アルジュナさん、ちょっと待って!! これじゃ話がいつまでたっても進まないよ。アルジュナさんはアイツに何を聞きたいの!?」
僕はアルジュナさんに問う事で話を切り替えた。話が進まない事もあるけど自分と同じ顔をしている奴が痛めつけられるのは見ていて辛い。
「ついつい熱くなってしまったわい……聞きたいことは二つじゃ。まず、エル・クラボ。お主死にたいか?」
「死にたくない! 当たり前だろう……馬鹿か?」
「ほう……」
アルジュナさんの額に青筋が立つ。
「まあまあ、それでもう一つ聞きたいことは?」
「死にたくないというのならその為の手段を提示してやろう……お主、フィーナと再契約をするつもりはないか?」
「再契約だと……?」
「アルジュナさん、どういう事ですか?」
「お主を召喚した魔法使いとの契約を破棄しフィーナと契約し直せ。フィーナを服従させるのではなくフィーナを守護するという具合にな」
「そんな事出来るか。私にも精霊としてのプライドがある。一度交わした契約を破棄など」
「そんな事が言える立場か……こちらはお主がどうなろうと別に構わんのだぞ。証明として腕一本いくぞ!……エル・クラボに命じる! 右腕よ、爆ぜろ!」
アルジュナさんの命令でエル・クラボの右腕が内側から爆発した。エル・クラボの悲鳴が響き渡る。僕は思わず耳を塞いだ。だって声が僕なんだもの……。
「消滅か再契約するかどちらを選択してもこっちは痛くも痒くもないんじゃぞ」
エル・クラボに選択の余地はなかった。苦渋の表情で絞り出すように声を出す。
「……分かった……再契約する」
「もうちょっと抵抗せぬか、面白くない」
アルジュナさんは残念そうに言う。もっと抵抗してもらいたかったようだ。
(アルジュナさん腹黒すぎだよ)
「さて、では再契約を交わすとしようか。アルジュナの名にかけて誓え、フィーナ・レイクスを縛る契約を破棄し新たに守護する事をワシに誓え」
エル・クラボが王に傅く騎士が如く膝をついた。
「私、エル・クラボはフィーナ・レイクス様を縛る契約を破棄し、守護する事をアルジュナ様に誓います」
フィーナ姉とアルジュナさんの二人称が様になっている。抵抗する意志は完全に折れてしまったようだ。
「ここに契約はなった。この契約を違えた時、お主に完全な消失が訪れると知れ」
「承知!!」
エル・クラボが王に傅く騎士が如く膝をついた。その途端、エル・クラボの体に変化が起こった。エル・クラボの体が騎士が如く漆黒の全身鎧に覆われたのだ。腰には長剣を帯びている。服従ではなく守護をするという心の表れが見た目に影響したのだろう。
「……ほう、これは面白い変化じゃ。お主どのようにしてフィーナを守護するつもりじゃ、それをワシに見せて見よ」
「承知しました。まずはフィーナさまを起こしましょう……御免!!」
エル・クラボはフィーナ姉の首筋に触る。そこから黒い紫電が走る。
「ヒャアア!!」
その衝撃にフィーナ姉は妙な悲鳴を上げる。
「ナニ、ナニ!?」
フィーナ姉は目の前に浮かんでいる小さい全身鎧の騎士を凝視する。
「あなたは……誰?」
「私はエル・クラボ。アナタを苦しめていた精霊です。アルジュナ様と再契約を交わす事により、あなたを守護する精霊となりました」
「守護をするって」
「それを証明する為に失礼とは思いましたが、フィーナさま起こさせてもらいました」
「それはいいとしてどうしてカイル君の声になってるの」
「それはまあ……自分の保身の為でしょうか……嫌ならば声を変えますが?」
「ううん、それでいいよ。ところで私を守護するってどうやってするの?」
「唱えてみてもらえますか、アルムと」
「ええと……アルム」
フィーナ姉がエル・クラボの言うう通りの単語を唱えるとエル・クラボが真っ黒な黒煙となってフィーナ姉を包んだのだ。
「フィーナ姉、大丈夫!?」
僕が光の柱の外から叫ぶとフィーナ姉の返事があった。
「そんな心配そうな声出さなくても大丈夫だよ、カイル君」
「そうじゃなくて心配何だよ、フィーナ姉」
「心配してくれるんだ、お姉ちゃん嬉しいなあ」
そんな事を喋っているとフィーナ姉を包んでいる黒煙に変化があった。黒煙が薄れて……いや違う。フィーナ姉の両腕、両足、胸部に黒煙が凝縮されたのだ。凝縮された黒煙は黒い手甲、脚甲、胸当に変化したのだった。
「なるほどのう、己の体を分解、再構成して防具としたのか。フィーナは獣人、身体能力が高く武器などなくても十分強いからの……文字通り体を守護するという事か。ウム、見事じゃ」
「ありがとうございます」
アルジュナさんの言葉にエル・クラボが素直に謝辞を述べる。
これで僕の不安はすべて解消された。エルヴィラさんは精霊使いの能力を取り戻し、自分の身を守れるようになった。フィーナ姉を苦しめていたエル・クラボは守護する存在に生まれ変わった。これで僕がこれから何をしようと人質にとられることは無くなった。自分の身は自分で守れる。次の新月の夜僕は行動を起こす事を決めた。




