フィーナ姉怖いよ……初めての町デビュー
台所で朝食の準備をしているフィーナ姉とエルヴィラさんに朝の挨拶をした。
「オハヨウ、フィーナ姉、エルヴィラさん」
「オハヨウ、カイル君」
具材を刻む手を止め僕に挨拶をするフィーナ姉。いつも通りの優しい笑顔を僕に向けてくれた。
テーブルにお皿を並べる手を止めこちらに挨拶をするエルヴィラさん。
「オハヨウゴザイマス、ゴシュジンサマ」
エルヴィラさんは抑揚のない喋り方をしていた。表情も無表情で焦点が合っていない。動きもカクカクしている。
「どうしたの、エルヴィラさん!? メイド服着てるからってそこまで役に入る事ないんだよ!!」
今、エルヴィラさんはフィーナ姉の作ったメイド服を身に纏っている。フィーナ姉は裁縫が得意で自分で服を作成する。フィーナ姉はメイド服一択なのだが僕には色々な服を作ってくれる。
僕は様子のおかしいエルヴィラさんの肩を掴み揺さぶるがエルヴィラさんはハハハと抑揚のない笑い声をあげる。
「ヤクダナンテトンデモアリマセン。ワタシハホネノズイマデゴジュジンサマノメイドデス」
どう見てもおかしい。
「フィーナ姉……エルヴィラさんに何したの?」
「何って……まあ、色々と……」
恥ずかしそうに両手の人差し指を合わせてコネコネするフィーナ姉。
(そんなことやっても可愛くない、一日にして人の人格を皓まで変えるだなんて……怖いよフィーナ姉)
「ここまでする事はないと思います。フィーナさん」
僕は恐怖から敬語になる。敬称も”姉”から”さん”に変わっていた。それに顔色を変えるフィーナ姉。
「な、何で敬語になってるかな? さんつけかな? いつも通りお話ししようよ……カイル君!」
近寄るフィーナ姉、下がる僕。
「何で逃げるのかな!?」
「怖いから……」
フィーナ姉の姿が消える。獣人の脚力により一瞬で僕の背後に回り僕に抱き着いた。
「ゴメンナサイ、カイル君!! お願いだがら嫌わないで!!」
耳元でワンワン泣くフィーナ姉に溜め息を付きながら頭を撫でる。
「謝るなら僕じゃなくてエルヴィラさんでしょ……人格歪むまで何やったのか知らないけど責任もっても元に戻してあげないとダメだよ」
「ウーン、それは難しいかも……」
「フィーナ姉!!」
「はい、頑張ります!!」
フィーナ姉が僕から離れ背筋を立てると左手を額に当て敬礼する。何がフィーナ姉をそこまで駆り立てエルヴィラさんをかえてしまったのか僕には全く分からなかった。
朝食を食べ終えると、僕とフィーナ姉はこの離れからから十分ほど歩いた所にある村から出ている乗合馬車の停留所に向かう。そこから出ている馬車で一時間ほど走った所にある街アルフィオレに向かうのが目的だった。そこにある冒険者ギルドにコブリンの巣について報告する為である。
フィーナ姉とアルジュナさんの活躍でコブリンを全滅させる事は出来たがコブリンの繁殖力は人の比ではない。別の場所に巣を作ってまた繁殖して数を増やしていれば脅威になる、近辺の村も被害にあう。そうなる前に徹底的に調査をする必要があり、それを請け負うのが冒険者ギルドである。
乗合馬車の停留所に向かう僕の数歩後ろをフィーナ姉がトボトボと歩いている。耳としっぱがものの見事に垂れ下がっている。顔を俯むかせ背を丸めて歩く姿はこちらが気の毒に思えてくるほどだ。僕に敬語、さん付けされた上、朝食の間無言だった事がフィーナ姉には余程堪えたらしい。僕は溜め息をついて頭をボリボリ掻く。
「フィーナ”姉”」
僕の言葉に耳と尻尾ピンと立つ。顔を上げ僕を見る。
「……もう怒ってないから、そんな落ち込まないで」
フィーナ姉がプルプル震えている。ヤバいと思ったがすでに遅し、フィーナ姉にタックルされた。倒れた僕に抱き着き、僕の顔をペロペロ舐める。
「フィーネ姉! こんな道端で止めて! ステイ! ステイ!」
僕はフィーナ姉に命令するが感激するフィーナ姉には全く効かなかった。僕の顔はフィーネ姉の唾液でベチョベチョになった。
「もう、フィーナ姉! 道端で人の顔舐めるの禁止!!」
何とかフィーナ姉を宥めすかし、涎だらけの顔を拭きながら僕。
「こんなことカイル君にしかしないし、人前じゃなかったら……いいの?」
「言い訳ないでしょ、人にジロジロ見られて恥ずかしいたら……」
僕はブツブツ言うが、フィーナ姉は気にしていない。いつもの空気になったという事が嬉しいらしい。尻尾がユラユラ揺れている。
「……エルヴィラさん、大丈夫かな?」
僕の言葉にフィーナ姉がびくりと体を揺らす。
「……アルジュナ様を信じよう」
僕とフィーナ姉は乾いた笑みを浮かべる。
アルジュナさんとエルヴィラさんは留守番である。言い方は悪いがフィーナ姉に洗脳されたエルヴィラさんを外に出すわけにはいかなかった。今日一日アルジュナさんがついて洗脳を解くために色々試すという事だがあまり危ない事をやらないでほしい。そこを特に念を押して言ったら「ワシを何だと思っている!!」と髪の毛を引っ張られたのはご愛敬だ。
そんなこんなで乗合馬車の停留所に着いた。停留所にはすでに数台の馬車が停車しており、乗務員が声を上げている。
「アルフィオレ行きの馬車が間もなく発車します。お乗りになられる方はお急ぎください!」
「フィーナ姉、あれみたいだね。早く行こう」
僕は無意識にフィーナ姉の手を取った。フィーナ姉は何とも言えないという顔になる。尻尾がピンと立ったかと思ったら風が起こるぐらい激しく揺れている。これは……マズいかも。
「フィーナ姉、人前だから……舐めちゃだめだよ。そんな事したら手を離すからね」
「ウン、ウン」
舐めたい衝動を必死に抑えながら僕に手を引かれるフィーナ姉。
(僕の顔からはそんなにいい味が出ているのかな)
そんな事を考えながら馬車に乗る僕とフィーナ姉。馬車には既に五、六人乗っていた。中にはフィーナ姉の知り合いがいる見たいで挨拶を交わしている。僕はほとんど表にない為、僕の事を知ってる人はいない。だから知り合いの一人に「その子は誰だい?」と聞かれた時、フィーネ姉が頬を染め「私のご主人様です」と爆弾発現をしてくれたお陰でアルフィオレに着くまでの一時間、根掘り葉掘りと質問攻め、拷問に等しい時間を過ごした。
一時間後、僕はフラフラした足取りで馬車を降りた。あれだけお喋り好きだと数日のうちに村中に僕の噂が広まるかもしれない。
「カイル君……ゴメンね」
フィーナ姉がすまなそうに手を合わせた。
「そうだよ……全く」
僕はジト目でフィーナ姉を見るがすぐに怒りを忘れてしまった。それぐらいの光景が目の前に広がっていた。大きめな乗合馬車の停留所から降りる、または乗る人やエルフ、ドワーフにフィーナ姉見たな獣人。どこからこんなに集まったのかというあらゆる人種の山。こんなに人が集まったのは見た事がない、僕は興奮で目を輝かせた。
「フィーナ姉……」
鼻息荒くなる僕を宥めるように頭を撫でるフィーナ姉。子ども扱いされているのだがそんなことは気にならないくらい僕は興奮していた。




