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少女の拒絶と正体、今日は野営だ

「ああ、よかった」


僕は横たわっている少女の手を取った。冷たい血の気が感じられない白い手を取ると僅かに首が動く。作り物めいた青い瞳に意識の光が灯り僕を見る。そして少女から出た言葉は僕にとっては辛いものだった。


「イ…ヤ…コナ…イ…デ」


拒絶の言葉だった。微かな力ではあるが僕の手を振り払おうとしている。何故拒絶されるのか分からないが僕は少なからず傷ついた。それでも今一番苦しいのはこの少女、嫌がる事はしたくない。僕は壊れ物を扱ううようにゆっくりと少女の手を地面に置いた。


「……アルジュナさん、この子の他に捕らえられてる人はいないの?」


僕は誤魔化すようにアルジュナさんに話を振った。


「……ムッ? ああ、そうじゃな、生きておる者はこの娘以外おらん。後は近くの村か町にでも報告して対処してもらった方がよかろう」


「うん……フィーナ姉、この子を背負ってもらっていい? 僕じゃ背負えないしこの子も嫌がるだろうから……」


思ったより落ち込んでいたがそれが分からない様に務めて言うと不意にフィーナ姉が僕の顔を一舐めし、優しく抱きしめた。僕の顔がフィーナ姉の胸に埋まり息が出来なくなる。慌てて顔を出し、呼吸を確保する。


「ワプッ!! フィーナ姉突然なにっ!?」


「落ち込んじゃ駄目だよ。コブリン二匹倒した事は未だに信じられないけど……カイル君がこの子を助けたのは事実なんだから。いい事したんだから……笑ってないとダメだよ」


石像(仮)からアルジュナさんが出てきて僕の顔に着地し、頭を撫でる。


「そうじゃぞ、弱きを助けるなんてやろうとしても出来んもんじゃ。そういう状況で体が動くかどうかでそ奴の真価が問われるというもの。お主は大した男じゃ、誇ってよいぞ」


(フィーナ姉もアルジュナさんもほめ過ぎだ……)


僕は困った様に頭を掻く。目の端から涙が零れそうになった。僕は自分からフィーナ姉の胸に顔を埋めて隠す。


「……ありがとう。それよりフィーナ姉、そろそろ離して。そしてあの子を背負ってあげて。アルジュナさんは出口までの道案内をお願いします」


「任されたよ、カイル君」


「ウム、任せよ」


フィーナ姉はガラクタの山の中から適当な布を見つけ、少女の胸と腰に纏わせ背負う。その時少女の長い金髪が掻き分けられ細長い尖った耳がぴょこりと顔を出した。それを見てフィーナ姉は少し驚いた顔をする。


「カイル君……この子、エルフだ」


「ヘッ? エルフ!?」


僕はいけないと思いつつも物珍し気に見てしまう。

エルフ―――

亜人種の一種で妖精種の血を引いている種族。長命であるが肉体的な耐久力が弱く病気や怪我で死ぬ事がある。手先が器用で身が軽い。エルフの耳は特殊な器官になっており、地水火風の四大精霊の声を聞き取り、また自分の声を精霊に届かせる事が出来、特殊な呪文を使用せずに魔法を行使する事が出来る特殊な種族。


ほとんどのエルフが保守的、排他的で人里に出てくる事はないが、長命な分刺激に飢えており、あえて人里に降りてくるエルフもいる。この子もそうやって人里に降りてきたエルフでそこを襲われ捕まったのだろう。


「珍しいのは分かるがそういう話は後じゃ、早く行くぞ」


僕とフィーナ姉はアルジュナさんに即され部屋を出る。道が分かれば走破するのは簡単でものの十分で出口に出る事が出来た。

久々に見た太陽は沈みつつあり、周囲は赤く染まっていた。僕たちが狩りの為にこの森に入ったのが午前中の事。それからコブリンに捕まり五、六時間は経っているようである。


「もうすぐ夜じゃ。そんな中を歩き回るのは危険じゃな……ワシらがクマ公と戦った場所まで行くぞ。今日はそこで休んで明日移動じゃ」


僕もフィーナ姉も反対しなかった。森の中を三十分ほど歩くと戦闘の跡が生々しく残る小川に到着した。木々は倒れ地面は何かで抉れたような穴が開いおり、川の流れが一部変わってしまっている。


「……フィーナ姉、アルジュナさん……」


呆れ顔で見る僕に対し二人は誤魔化すように笑う。


「二人とも、どんな戦い方したんですか? こんな地形変わってるじゃないですか!?」


「イヤー、あのクマ公、中々手ごわかったもんでついな……」


「私はちゃんと手加減したんだけど、アルジュナ様が大人げなく……」


「お主が言うか!? あの地面の大穴開けたのお主じゃろう!!」


「ワワッ、アルジュナ様、言っちゃだめです! カイル君の私を見る目が変わっちゃいますから……」


フィーナ姉がチラリと僕を見る。僕はジト目でフィーナ姉を見つつ、


「……フィーナ姉、もう遅いよ」


「そんな!?」


フィーナ姉は膝を突こうとするがエルフの少女を落としそうになったため踏ん張り、落下を阻止する。


「寸劇はそこまでじゃ。早く寝床を作らんと日が暮れてしまうぞ」


「誰のせいですか、誰の!?」


「アー、聞こえん、聞こえん」


アルジュナさんは聞く耳持たぬと大声を上げ、空間を撫でる。アルジュナさんが撫でた空間に真っ黒な穴が開く。そこに手を突っ込み、そこから人数分の毛布や食料、食器、各調理器具を取り出す。


「凄いですね、アルジュナさんの異空間は?」


「そうじゃろ、そうじゃろ」


アルジュナさんは自慢げに頷いた。


アルジュナさんは魔法により任意の異空間を作っており、自分の意志で物を収納、取り出しが出来る。この中では時間が止まっており生ものを何年放置していても腐る事はないらしい。二人が倒した六本足の熊もこの中に収納されているが、血抜きが済んでおらず食べれないらしい。


「ワシとフィーナで色々準備しておくからお主はその娘を見とれ」


「僕も手伝いますよ」


「いいよ、カイル君。疲れてるだろうから休んでて」


フィーナ姉に手伝いをヤンワリ断られてしまう。


(二人の言葉に甘えさせてもらおうか……)


今日一日に色々ありすぎて僕はとても疲れている。少し休もうとも思ったがその前にエルフの少女の寝床を作っておこうと思う。僕は地面に毛布を引き、その上に少女を乗せ、もう一枚の毛布をかぶせる。簡単寝床の完成だった。地面に直に引いている為、寝心地はよくないだろうけど勘弁してもらおう。少女の寝顔を見ながら僕は漠然と思った。


(どうして、僕は拒絶されたんだろう……)


直接口に出して聞いてみたいと思ったけど、また拒絶されたらと思うと口を開く事が出来なかった。

















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