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第9話

小一時間もすると、私は大森林を抜けて街道へと出た。そのままプラナスへ向けて街道を全力疾走する。するすると周囲の景色が後ろに流れていくとあっという間に田園地帯へと入り、プラナスの東門へ到着した。

門の直前で急ブレーキをかけると、私は息を整えながら冒険者ギルドカードを警備兵に見せた。怪訝そうな表情になった警備兵を、真剣な表情で見つめると何かを察したのかそのまま街の中に入るように指をさした。私はそれにうなずくと、冒険者ギルドへ街の東通りをするすると人ごみを避けるように駆けだした。

冒険者ギルドに到着すると、そのままの勢いで駆け込む。それに、中にいた冒険者やギルドの職員が驚いたように私を見たが、それに構わず息を整えながら受付カウンターへ向かった。


「トーカちゃん、大丈夫?いったい何があったの?」

「ティアナさん、急な用事。これ、森林警備隊の隊長さんからギルドマスター宛ての手紙。早く渡してあげて」


受付にいたティアナさんに私は森林警備隊の隊長さんから渡された手紙をわたすと、カウンターに手をついて息をゆっくり整えた。ギルドマスターに手紙を私に行ったティアナさんの代わりに、別の受付のお姉さんがカウンターに入ると、私はウエストポーチから駐屯地に到着した日にサインをもらった書類を出し、カウンターの上に置いた。そして、アイテムボックスから袋ごとに分けたワイルドボアの牙二十一組、オークの鼻六十個、フォレストウルフの犬歯四十組をカウンターの上に置き、冒険者ギルドカードを提示した。


「受けた依頼は終わった。これを確かめて」

「はい、ただいま!トーカさん、ずいぶんお疲れのようですが大丈夫ですか?」

「完全に徹夜仕事で、そのままここまで急いで帰って来たから。少し休ませてもらう」

「はい。では、確認が終わりましたらお呼びいたしますね」

「ん、ありがと」


私はそう言うと、冒険者ギルドの一階にある冒険者たちがよく利用している、待合室のあいている椅子に腰かけた。そのまま深くゆっくりと深呼吸をしていると、いくらか落ち着いてきたようである。まだ気が昂っているのか眠気と空腹感は感じないが、しばらくすればそれも襲ってくるだろう。そう思った私は、確認が終わるまでここで待たせてもらうことにした。


私の事を揺らすその感覚に、私はゆっくりと顔を上げた。目の前には、優しい笑顔を浮かべたティアナさんが立っていた。完全徹夜というのは、若いこの体でも堪えたのだろう。私はすっかり寝入っていたようであった。


「トーカちゃん、ずいぶん疲れたのね。もう少し頑張ってほしいんだけど、大丈夫かな?ギルドマスターが直接話を伺いたいとおっしゃっていたんだけど」

「ん……。わかった……」


私は寝ぼけまなこを擦りながら、ぼーっとした頭で答えると、ティアナさんについてギルドマスターの部屋に向かった。

ギルドマスターの部屋に入ると、先日と同じくにこにこと笑顔を浮かべたギルドマスターがソファーに座っていた。ギルドマスターに促されて、私も対面のソファーに座るとギルドマスターは机の上に1枚の手紙を出して口を開いた。


「トーカ君、森林警備隊隊長殿からの文書は読ませてもらった。オークジェネラル討伐とオークの集落壊滅の件、よくやってくれたと言わざるを得ない。あのまま何もしなかったら、おそらく王種の出現と大発生の引き金になっていただろう。それと、ゴブリンの数の異変、こちらでも金級の冒険者以上に緊急依頼として討伐および調査隊を出すことにした。過去の文献と照らし合わせた結果、このままゴブリンの数が増え続ければ、ゴブリンの王種出現を引き金とする魔物の大量発生と大暴走を引き起こすことになる。その際はプラナスの冒険者すべてがこれに対して当たることになるだろう。まあ、そのようなことにならないとよいのだがね。それと、もう一つ。君の冒険者としての腕、銀級の冒険者としては非常に惜しい。オークの群れとオークジェネラルを単独で討伐できるその能力、そして、今回君の受けた依頼の結果を合わせて今日付けで君を金級に昇格させることにした。試験は言うまでもなくする必要はないだろう。オークジェネラルを単独で、しかも無傷で討伐できるのに試験は必要ないからね。何か異存は?」

「別に。世界を回るのに冒険者ランクはあるだけあった方がいい。でも勘違いしないで。誰かに縛り付けられる気は毛頭ないから」

「これは手厳しいね。だが正直な話、プラナス周辺はあまり脅威度の高い魔物はいなくてね。それ故に、この街に常駐している冒険者は金級から鉄級の冒険者しかいないのさ。あとは冒険者ギルドの相談役として元白金級冒険者数名がいるだけでね。このような状況だ。有能な冒険者に、街に常駐してもらうのもギルドマスターの務めだと理解してもらえるとありがたいのだがね?」


ギルドマスターが街の利益を第一に考えて冒険者の囲い込みに当たっていることに、もともと誰かにがんじがらめに縛られるのが嫌いな私は難色を示すと、ギルドマスターはプラナスの冒険者の現状を包み隠さず話した。それに、私はため息をつくと口を開いた。


「仕方ない。今しばらくはギルドマスターの掌の上で踊ってあげる。この街も気に入っているし」

「そう言ってくれるとありがたいね。では、話はこれで終わりだ。疲れただろう。しばらくゆっくりと休んでくれ。何かあったら冒険者ギルドより君に直接連絡が行くから、そのつもりでいてほしい」

「ん」

「それでは、このたびの依頼完了報酬とオークジェネラルおよびオークの群れを壊滅させたことによる特別報酬、新しい冒険者ギルドカードは用意させておく。ティアナ君、トーカ君を下まで送っていってくれ」

「はい。トーカちゃん、行きましょう?」

「ん」


私は立ち上がると、ティアナさんの後について部屋を後にした。あとに残されたギルドマスターは苦笑しながら机の上に広げられた手紙を眺めた。


「オークジェネラルの首を一撃で両断するその腕、金級とは言わず聖銀級相当の腕はありそうだね。だがあの子猫ちゃんを飼いならすのは相当苦労しそうだ。子猫と思って手を出したら、実はヘルパンサーだったということかな。だが、今しばらくはこの街にいてもらわないと困る。プラナスの明日のためにもね」

そう言って、現冒険者ギルドプラナス支部ギルドマスター、元神鉄級冒険者”蒼天の魔導士”アレク・ブルージュはため息をついた。


受付に戻った私は、カウンターで新しくなったギルドカードと、依頼とオークジェネラル討伐、オークの集落壊滅のボーナスが上乗せされた報酬を受け取った。革袋の中を見ると、百万フラウが入っていた。おそらくは、それだけ私がやったことがプラナスのためになると評価されたのだろう。日本円に換算すると一千万円である。ギルドマスターがそれだけ奮発したのがわかって、その裏にある真意を私は察すると、心の中でため息をついた。

それを黙って受け取った私は、二日ぶりになる小鳥の宿木に歩いて行った。

小鳥の宿木に着くと、カウンター前のラウンジを掃除していたマリィさんに声をかけられた。


「トーカちゃん!今までどこに行ってたんだい?心配したよ」

「冒険者ギルドの依頼で、大森林中層まで行っていた。ちょっとそこでトラブルがあって、帰ってくるのが今日になってしまった。心配かけた」

すまなそうに私が言うと、マリィさんは首を横に振った。

「いや、いいんだよ。泊りがけになってしまうのは冒険者の依頼ではよくあることだからね」

「ん。マリィさん、追加の宿代払っていい?また十泊したい」

「うん、いいよ。そうだ、朝と晩の食事代はいらないよ。だから、十泊で五千フラウだね」

「え?でも」

「トーカちゃんからは、最高級ワイルドボアの肉をたくさんもらっているしね。実をいうと、あれだけでも、買うと一個の塊が一万五千フラウはするのさ」

「そう。じゃあお言葉に甘える」

「はい。確かに受け取ったよ。部屋は同じ場所で荷物もそのままだからね」

「ありがと」


私がウエストポーチの中の財布から銀貨五枚を取り出して渡すと、マリィさんは優しく微笑んだ。


「さあ、お風呂に入っておいで。今ならお風呂屋さんもすいていると思うよ」

「ん。そうさせてもらう。あ、そうだ。マリィさん、夕ご飯になったら起こしてくれると嬉しい。昨夜は私寝ていないから」

「ああ。ミリィに起しに行かせるよう伝えておくよ」

「ありがと、マリィさん」


私はそう言いながら、マリィさんから鍵を受け取って自分の部屋へと戻った。まずはお風呂に行って汗と汚れを流そう。そう思うと、ようやく日常に戻ってきたような気がした。

お風呂に入ってきて部屋に戻ってきた私は、下着姿に新しく買った薄手のブラウスを着ただけの姿になり、そのままベッドにもぐりこんだ。心安らぐベッドの羽根布団と枕の匂いに目を閉じた私が深い眠りに落ちるのにそう時間はかからなかった。


夕日が部屋に差し込む中、さすがに疲労が出たのか私はベッドの上で熟睡していた。

そんな私の安らかな寝息しか聞こえない部屋に、1人の少女が音を立てずに入ってきた。そのまま私が眠るベッドのそばまで来ると、少女は私の体をゆさゆさと揺らす。


「トーカ、お母さんがご飯だって。早く起きてー」

「ん……。ミリィ……?」

「そうだよ。さあ、起きちゃって」

「わかった……」


そう言うと、私はむくりと体を起こす。そして、大きく伸びをすると大きな欠伸をした。


「あら、その寝間着可愛いね」

「そう?リオルイ服飾店で買ったものだけど」

「あー、あそこで買ったのね。あそこは機能的で可愛い服が多いっていう評判なんだよ?店長さんはまともな人だけど、デザイナーさんがちょっとね」

「デザイナーさんってルイさんのこと?」

「うん。そうよ。って、トーカなぜ名前を知ってるの?」

「下着を買いに行ったときに隅々までサイズを測られた」

「あー……。下着は仕方ないよね……。合わないサイズだと擦れるし痛くなっちゃうしね」

「そういうものなの?」

「そういうものなの。合わない物着けて動くと擦れて痛くなっちゃうんだよ?」

「そうなんだ」

「そ。あ、そうだ!噂で聞いたんだけど、今度リオルイ服飾店で新しい服を発表するんだって!どんな服なのかな?可愛い服だといいんだけどなー。あ、完成披露会があるらしいから、トーカも行こうよ!」


そう言ったミリィは、まるで夢見る乙女のような表情になった。宿屋の娘とはいえ、やはり彼女も年頃の乙女である。十三歳で成人を迎えるこの世界とはいえ、そこはやはり年齢相応の感性をしていた。可愛い物ときれいな物と甘い物に目がないのは女性の常である。

だが、完成披露会というのは何なのだろうか。私はルイさんの言葉を思い出して嫌な予感がした。


「まあ、それはともかく。トーカ、ご飯だから着替えて下に降りてきてね。さすがにその格好だと飢えた野獣に襲われちゃうわよ?」

「ミリィ……」

「あははっ、まあ冗談だけどね!トーカ、なるべく早く降りてきてね」

「ん」

笑いながらミリィは部屋を出ていくのを見送ると、私はアイテムボックスを開いて、インベントリ欄を出した。インベントリ欄から直接物を取り出せることに気が付いた私は、人の目がないときはこの機能を使うことにしていた。なぜかというと、直感的に操作できてこの方がいろいろと楽だからである。少女生活も五日を過ぎたが、中身は長いこと科学文明の発達した世界で生きてきたおっさんである。タブレットやスマホといった文明の利器も使いこなしてきた自分には、やはりこの方が使いやすかったのである。

インベントリ欄に、見覚えのないアイテムを見つけた私はそのアイコンを長押しした。こうすると、そのアイテムについての簡単な説明を見ることができるのである。


「異界神のギフト」


そこには、ただそれだけ書いてあった。おそらくは神様の贈り物であろう。そう判断した私は取り出してみることにした。

インベントリ欄から取り出したそれは、三辺の長さが約六十セル位の箱型をしていた。ちなみに、一セルが地球で言う一センチに相当する。その箱の上に、トランクについていたのと同じ封筒が貼り付けてあった。私はその封筒を引きはがすと、中に入っていた手紙を読んだ。

『お元気ですか?トーカさんは順調に英雄の道を歩んでいるようで感激しています!これからも、活躍を期待していますよ。今日は、女の子に必需品の洗濯機を送っておきましたので使ってください!女の子は清潔なのが一番ですしね』

「今回は感謝してあげる。汚れた服とか防具をどうしようか悩んでいたから」


そう呟きながら、私は箱もとい洗濯機に意識を集中させた。


神の洗濯機

異界神がトーカ・モチヅキのために神力を用いて作成した洗濯機。中に汚れ物を入れてふたを閉めると、女神の加護と神力により完全修復とともに、どんな頑固な汚れも落とし殺菌消毒と乾燥まで行う。中に入れた衣服や防具は約二時間で新品と同じ状態になる。この箱に込められた異界神の加護と神力は永続。トーカ・モチヅキにしか扱うことはできない。


私はその箱を持ち上げて部屋の片隅に設置すると、ふたを開けて中に汚れた服と下着やタオル類、リボンとヘアゴム、防具一式を入れてふたを閉めた。すると、中央にはめられている透明な宝玉が淡く赤い光を放ち始めた。おそらく、この状態が洗濯中の状態なのであろう。そう思った私は、ブラウスを脱ぐと薄緑色の下着姿になり、紺色のディアンドルと白のニーソックスを取り出してそれを着始めた。


服を着替えた私が食堂に行くと、まだ人はまばらであるがちらほらと食事をとっている人の姿が見えた。私が空いているテーブルにつくと、給仕をしていたミリィが声をかけてきた。


「あ、トーカきたきた!今料理持ってくるね」

「ありがと、ミリィ」


ミリィが去ると、私は欠伸をした。お風呂に入ったせいか、眠気が再び襲ってきた。明日は南の草原で飛空艇を出さなくてはいけない。アイテムボックスの中にはまだワイルドボアとオーク、そしてオークジェネラルが入っているが、これをすべて解体してもらうとお金がいくらかかるかわからないので、今度から自分で解体することにしたのだ。解体の仕方も、生産施設のチェックを行った時に頭の中に浮かびあがってきていたので、おそらくは大丈夫だろう。


「はーい、トーカ。今日はお父さん特製のパンとサラダ、ワイルドボアのワイン煮だよ。お父さん自信の一品だから、味わって食べてね」

「ん。おいしそう。サンドイッチとアップルジュースしか食べていなかったから、おなかぺこぺこ」

「おかわりはあるから、いつでも声をかけてね!あ、何かお酒飲む?」

「ん、じゃあエールをお願い」

「わかったわ。じゃあ今持ってくるね!」


そう言いながら、ミリィは私の前に料理を並べた。私の前に、ふかふかの白パンとドレッシングがかけられた大盛りのサラダ、そしてメインディッシュであるワイルドボアのワイン煮を置くと、厨房に入っていった。私はそれを見送ると、まずはサラダを食べ始めた。

しばらくすると、ミリィが木のジョッキに入ったエールを持ってやってきた。それに気が付いた私は、ミリィからエールを受け取ると一口それを飲んだ。エール独特の果実の風味が口の中に広がるが、生ぬるいためあまりおいしいものではなかった。


「ねえ、ミリィ」

「うん?なに、トーカ」

「このエール、冷やしたらもっとおいしくなるかもしれない」

「エールってそのまま飲むものだけど……。トーカの故郷では違ったの?」

「ん。私の故郷ではお酒を井戸や泉の水で冷やして飲んだり、冬は逆にお湯につけてぬるめにして飲んでた。エールも冷やしたらおいしくなると思う」

「そっか。だけど冷蔵用の魔導具って高いんだよね。このくらいの大きさでも十万フラウはするから、簡単には買えないのよね。食材の冷蔵用の魔導具も、お父さんとお母さんが冒険者時代に稼いだお金で買ったって言っていたし」


そう言って、ミリィは両手で宙に三十セルくらいの大きさの四角を描いた。私はそれを聞いて、この世界にはエール――つまりビールである――を冷やして飲むという習慣はないことに気が付いた。やはり、日本酒以外のお酒は冷たい方が食事にもあっておいしいのである。ウィスキーしかりブランデーしかりワインしかり、そのほとんどが現代日本では冷たくして飲むものだからである。

私は、頭の中で冷蔵用の魔導具をどう作るか思案を巡らせた。私は生産スキルとして鍛冶と木工、裁縫、製薬、料理を取っていたが、ルーンや宝飾のスキルはとっていなかったため、魔導具の心臓部分となる魔石の加工ができない状況であった。保冷と断熱処理を施した外側の箱部分は鍛冶スキルと木工スキルで作れるが、肝心の心臓部分が作れないのでは本末転倒である。


「ねえミリィ、冷蔵庫の中の魔石部分って、魔導具屋で取り扱ってる?」

「あー……、ちょっとわかんないや。お父さんに聞いてくるね」

「ん」


ミリィが厨房に戻ると、私はエールをちびちびと舐めながら料理を食べ進めていた。

テーブルの上の料理がすっかりなくなり、ジョッキの中に生ぬるいエールが半分ほど残ったころに、ミリィが戻ってきた。


「あ、トーカ。お父さんが、魔石部分は西通りの魔導具店で取り扱っているって言っていたよ。一個が一万フラウはするってさ」

「ん。ありがとミリィ。明日行ってみる」

「って、トーカ。それだけのお金持っているの?」

「ん。昨日と今日にかけて、徹夜でやった依頼でギルドマスターからボーナス貰ったから。買えるだけのお金はある」

「ふわぁ……、トーカってすごいんだねぇ……」

「それほどもない」


私は某黄金の鉄の塊であるところの謙虚なナイトのようにドヤ顔で言った。私のジョブは、謙虚な黄金の鉄の塊の謙虚なナイトに『汚い』と呼ばれる、ニンジャの上位職ニンジャマスターなのであるが。ちなみに現実世界では、謙虚な黄金の鉄の塊のナイトが活躍しているゲームはホラアクと別のゲームだったため、そのゲームで言われるようにニンジャが盾を兼ねることはできなかった。ニンジャ系列のジョブは、ホラアクではあくまでソロ向けでゲーマー仕様の近接火力職だったのである。


「ちなみに、今日付けで金級になった」

「はあああああああああ?トーカ、本当の本当に金級になったの?ついこの間銀級昇進おめでとう会をしたばっかりだよ?」

「これが証拠」


私は詰め寄るミリィの顔の前に金色に輝く冒険者ギルドカードを見せた。そこの私の名前と性別、年齢が書いてある下にははっきりと金級と書かれていた。

それを見たミリィは唖然とした表情になった。そして、次の瞬間すごい勢いで厨房に駆け込んだ。


「ちょっとお父さんっ!お母さんっ!トーカが!トーカがあ!」

「ミリィうるさい……」


バタバタと食堂の中を駆け抜けて厨房に入っていくミリィを見て、私は半眼になってぼやいた。

少しすると、ミリィがマリィさんとベッカーさんを連れて戻ってきた。


「トーカちゃん、ミリィから金級になったって聞いたけど、本当かい?」

「ん。これが証拠」


そう言って、私はマリィさんとベッカーさんに冒険者ギルドカードを見せた。それを見た2人は、あぜんとした表情になった。


「本当に金級って書いてあるよ……。嘘じゃないんだね?」

「ああ。マリィ、本当に金級って書いてあるぞ。それに、この金色に輝く冒険者ギルドカードは本物だ。」

「だから言ったでしょ、お父さん、お母さん!」

「あんた……、これは小鳥の宿木始まって以来の快挙だよ……。私は、ここに来てから一週間で鉄級から金級になった子は見たことないよ」

「そうだな……。うん、そうだ」


そう言って三人は顔を見合わせると、同時にうなずいた。


「おい、あんたらよく聞きな!小鳥の宿木に冒険者ギルド期待の新星が現れたよ!!それがこのトーカちゃんだ!この子は、小鳥の宿木に来てから一週間で鉄級から金級に上がった!ついこの間銀級おめでとう会をしたのは覚えていると思うけど、それからすぐに金級になったんだよ!この宿に泊まっているこの中にはパーティーを組んでいる子たちも多いはずだね?1人で頑張っている子に負けたくはないだろう?あんたらも負けずに気張りな!」

食堂の中にマリィさんの大きな声が響き渡る。それを黙って聞いていた宿泊客の中から声が上がった。


「そうだ!俺たちはパーティーを組んでいるのに、負けていられないぞ!!」

「”氷の戦姫”がこんなに近くにいるなんて、気が付かなかったけど、私たちも負けていられないわよね!」

「ああ。彼女は一人だけど、僕たちは五人だからね。力を合わせればきっと……!」

「すごいですお嬢様!私を下僕と呼んでください!」

「おい何抜け駆けしてんだ!先に踏んでもらうのは俺の方だぞ!」

「いや、一番最初に罵ってもらうのは俺だね!銀級の年上冒険者が年下の猫耳少女に罵られる……なんてご褒美じゃないか!」


気合を入れる冒険者たちに交じって、何か不穏当な声も聞かれた私は深く深くため息をついた。


「おう、その意気だみんな!明日から無理をしないで頑張れよ。絶対に生きて帰る。これが冒険者の鉄則だからな。それを忘れるなよ?」

「トーカ人気者だね!それに二つ名がついているなんてすごいね」

「それはギルドマスターや、他の冒険者達が言い始めたこと。第一”氷の戦姫”って大げさすぎる」

「いいんじゃないの?二つ名持ちの冒険者って、そう多くはないんだよ?最低でも白金級になって、活躍しないともらえないんだってお父さん言ってた」

「そうなの?」

「うん。現役冒険者時代のお父さんが”鷹目”、お母さんが”銀の殲滅者”だったかなぁ……」

「いやだよ、ミリィ。そんな昔の事持ち出して」

「もう現役を退いてからもう十年は経つからな。あの頃みたいに体は動かないさ」

「でもお父さんもお母さんもまだ若いんだし。ここで私の妹か弟を作ってくれると嬉しいと娘は思うんだけどなー」

「もうこの子ったら……恥ずかしいよ」

「そうだぞミリィ。親をからかうものじゃあない」


ミリィがにやにやしながら言うと、顔を赤らめて恥ずかしがるマリィさんとベッカーさん。私は何となく、今夜はマリィさんとベッカーさんが、オールナイトなパーリィーをするんじゃないかと思った。

そして、ミリィの念願である妹か弟ができるのも、そう遠くはないのかなとふと思ったのである。

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