表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/23

距離

夜中の3時を回ったころに、僕は大量の汗を掻いて起きた。

部屋の空気は冷たくて少し肌寒い。

とりあえず風邪をひかないようにタオルで流れる汗を拭いて、箪笥から新しいジャージを取り出し、それに着替える。

少し湿ったジャージを洗濯かごに投げ入れた。

そして、目が覚めてしまったのか再び布団の中に潜り込んでも寝付けない自分がいた。

先程掻いた寝汗の原因を布団の中で考えた。

答えはすぐに分かった。


夢の中で、僕は海に囲まれた一つの島の上にいた。

しばらく砂浜を歩いているとリンやナツ、サル、鈴本さん、しまいには管理人の老夫婦2人も登場し出くわす。

僕はこの誰もいないであろうと思った島で人を見つけられたので、嬉しくなり会話がしたかった。

でも、彼らは次々と自分の周りから・・・いやこの島から出ようと落ちている木のまるたや草木に絡まっているつるなどを採取し、脱出を試みようとしている。

おそらく僕と違って彼らは喜びに浸っているつもりはないらしい。

そして一人が海の上に立ち、どんどん小さくなっていくのを見ていると周りはその脱出した方法を真似て、一人また一人と海の波に流れて行った。

そして、あっという間に自分の周りからいなくなった。

その時、突然流れた涙が汗へと変わっていった。


布団に入っている僕は、堪えながらも涙を流した。

翌日、大学で講義を受けていると鈴本さんとサルが来て何やらニヤついている。

どうやら今日も寒さしのぎで鍋パーティーをするみたいだが、その前に3人でカラオケに行こうと誘われた。

レパートリーの少ない僕は一度断ったが、サルの眉毛が下がるのを見ると断れなくなってしまう。

彼らを見ていると、寒い冬は毎日鍋で金銭面が不安になる。

今日の講義を終えると三人で電車に乗り、街中の有名なカラオケ店に向かった。

まだ夕方4時頃なのに、高校生や中学生で溢れかえっていた。

とりあえず2時間歌うことにし、店員に各部屋から歌声が漏れて聞こえる廊下を歩いて、小さな部屋に案内された。

到着するなり、サルはテーブルの上に置いてあるメニューを手に取り、ドリンクをどれにするか尋ねてくる。

とりあえずコーラをサルに頼むと、壁にかかっている電話に手を伸ばし、一言も噛まずにスラスラと注文した。

その後、誰から歌うのか相談した結果、サルがデンモクを使い一曲目をテレビの下にある機器に送信する。

どうやら一曲目はロックで激しい歌を歌うらしい。

隣に目をやると鈴本さんはサルから奪ったデンモクで曲を探している。

とりあえず頭を上下に動かしているが、曲と頭の動作のリズムが合っていない。

しばらくそれを見つめていると突然、僕の前にデンモクと鈴本さんの腕が伸びて来た。

それを受け取ると鈴本さんは画面に出ている歌詞をチラ見してテーブルの料理の絵が載っているメニューを手に取り、唾を飲み込んでいる。

その時、サルの声が聞こえなくなったので画面を見ると画面からは歌詞も消えていた。

しばらくすると先程と曲調が違うゆっくりとした曲が流れてくる。

サルを見ると携帯をいじっている。

サルも鈴本さんと同じように頭を上下に動かしているが、これまたリズムが合っていない。

その時、昨夜見た夢を思い出した。


僕は少ない時間を少しでも長く一緒に居れるように心がけていた。

それはおそらく他の皆も同じだろう。

でも、距離が縮まれば縮まるほどに別れが悲しくなるのを知っているから今までと同じように接しているのかもしれない。

昔、お父さんに言われた言葉を同時に思い出した。

それは、小学生の時に親友だと思っていた友達が遠くに引っ越すのを知った時だ。

何かを感じ取った父は、僕にそっと声をかけてくれた。

その瞬間、小さな体の底から涙が瞳に向かって流れてきた。

小学生ながら必死に説明すると、父は僕の肩に手を置き「出会いだけがすべてじゃない、別れがあってこそ人は大人に成長し、人の大切さが分かるんだ」と言った。


今更ながら父の言葉を思い出すとは、自分が大人にもなれておらず人の大切さも分からないとなると少し萎える。

何も起きない非凡な毎日に嫌気をさしていた。

皆とは嫌だ、皆と自分は違うんだとどこかで誰にも見えない白い線を引いていた。

幼稚園生よりもわがままな自分に腹が立つ時もあった。

でも、毎日が波乱万丈でみんなと違う日々を送るとなると自分が特別な存在というよりも、皆に置いて行かれている気分になり、それはそれで嫌になる。

特別な日もあるが、それが突如終わると今までの非凡な毎日が愛おしくなり、俗に言う心に大きな穴が開いた気分だろう。


部屋のドアをコンッコンッとノックする音で我に返った。

店員が申し訳なさそうに入り、トレイの上にある飲み物3つをテーブルの端に置き、ストローも置いて静かに去って行った。

この時、鈴本さんは流れる歌詞を見るだけで歌わなかった。

恥ずかしいのか分からないが、少しだけ鈴本さんの羞恥心というものを見れた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ