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第8話 妹のおにいちゃんは、私のおにいちゃん?


 倉庫を出た後は、警察に通報した。

 奴らがライブ配信をしていたおかげですぐに身柄は拘束されたみたいだった。


 倉庫の窓も救出のためにやむなしのことで俺はお咎めなしだった。

 ふう、助かった。


「おにいちゃんどうしたの?」


 手を繋いだミイナちゃんが僕に問いかけてくる。

 騒ぎから一夜開けた今日は『おにいちゃん契約』の日だった。

 

「ううん、なんでもないよ。公園楽しみだね」


「うんっ!」


 純粋なミイナちゃんと遊ぶのは悪くない。

 むしろ楽しい。


 これまで色々な遊びをした。

 この間のツイスターゲームでは体が小さい分、マスに手が届きづらいというのに楽しそうだった。

 俺の股の間から体を通したりしてたっけ。小さい手足を伸ばしているのがかわいい。


 おままごとでは、俺がこども役でミイナちゃんがお母さん役をするというとんでもない配役だった。

 よしよしーと頭をなでられたり、あーん、とごはんを食べさせてもらうふりをした。

 なにかと年上ぶりたいおませなお年頃なのだろう。

 

 おしめを替えようとズボンを脱がされそうになったときは、流石に桐山さんからのストップが入った。

 

 

 そして、家で遊ぶのにも飽きてきたようで、今日は初めての外遊びだ。

 

 俺たちの後ろには桐山さんがついてきている。

 ミイナちゃんと遊ぶのは良いんだけど、なにかの拍子にお姉さんの桐山さんと仲良くなってしまわないように気をつけなければ。

 

 考えているうちに公園についた。

 

「ミイナあれ乗りたい!」


 到着早々にミイナちゃんが指差したのは滑り台だった。

 よし、行こう、と俺たちは駆け出した。


「ミイナちょと怖い。おにいちゃんまっててくれる?」


「いいよ」

 

 滑り台に登ったミイナちゃんが不安げにいうので、俺は台から降りた先で待つとにした。


「ほら、ミイナちゃんおいでー」


「おにいちゃーん!」


 ミイナちゃんが手をあげて、つるつるーと滑り台を滑ってくる。

 滑り終えても立ち上がろうとせず手をあげたままだ。


 俺が抱えてあげると満足そうに笑った。

 もう一回、もう一回、とはしゃぐミイナちゃんを抱えて俺は台の上にのせる。


 そしてまたつるつるーと滑ってくる。

 おにいちゃーんと言いながらこっちに向かってくるのがたまらなくかわいい。


 そして、滑り終えたミイナちゃんを抱えてあげるときゃーと嬉しそうな声をだす。

 ん、滑り台よりも俺に抱えられて笑ってないか?


 普通は滑るときが一番声が出るはずじゃ……。


 

 まあいいか。

 遊園地のアトラクションも乗り終えたときに興奮することだってあるし。



 桐山さんはベンチに座ってその様子をこみかみを抑えながら見守っていた。


 

 そして滑り台で何度か遊んだあとは砂場に移動した。

 砂場ってなにしたら良いんだろうな。


「ミイナちゃん見ててね」

 

 とりあえず、まず俺は山を作ることにした。

 小高い山ができたところで次のステップへとうつる。


 山を平らにすると大きな土台ができた。

 それ遊び道具として持ってきたバケツやコップ、スコップを器用に使っていく。

 バケツに砂を入れて土台にのせてバケツを外す。

 それをいくつか繰り返して、またその砂の上からお次はコップに砂を入れて積み上げる。


 そうすると砂が建物みたいに形作られていく。

 三角の屋根を作って、壁面にはレンガ模様や窓を描く。


 たちまち砂のお城がお目見えする。

 

「わ〜! おしろだ! おにいちゃんすごーい」

 

 【芸術】のパラメーターがカンストしているから、頭で思い描いていることがするすると生み出されて行くぜ。

 お城を作って喜んでもらえたけど、これだとミイナちゃんは見ているだけで楽しくないだろうと、お城の真ん中を指差してある提案をする。

 



「ミイナお嬢様、こちらに穴を掘ってくださいませんか」


「あな?」


 ミイナちゃんは首を傾げる。そんな仕草もかわいいな。


「そうです。お城の開通式をしましょう」


「うん、やってみる」


 ミイナちゃんが手で穴をほる反対側で俺も穴を掘り進める。

 うんしょ、とミイナちゃんが穴を掘り進めて少し経ち、ほどなくするも思っていた通りにならない。


 そうだ、ミイナちゃんはまだ小さいから手が短いんだ。

 結構なお城を作っちゃったからなあ。


「桐山さん、こっち来てくれないか?」


 突然呼ばれた桐山さんが自身を指差しながらとまどっていた。

 じれったくなり俺はミイナちゃんにお願いをする。

 

「ミイナちゃん、お姉ちゃん呼んできてくれない?」


 うん、っとミイナちゃんは元気よく桐山さんの元へ向かう。

 手を引かれた桐山さんが気まずそうにくる。


「どうしたの」


「桐山さんそこから穴を掘って欲しいんだ」


「私が?」


「桐山さんにしか頼めないんだ、お願いするよ」


「おねえちゃんおねがーい」

 

 俺とミイナちゃんが手を合わせて頼むと、桐山さんはしぶしぶといった様子で袖をまくって掘ってくれた。


 

 たどたどしくも確実に掘り進めてくれる桐山さん。

 突如、砂の感触から、ひんやりとしながらも柔らかい感触へと変わる。


「あ」


 桐山さんが小さく声をあげる。

 俺と桐谷さんが掘り進めていた穴が繋がってお城の大通りが貫通したのだ。

 手が触れたことに気づいた桐山さんが手を引っ込めた。

 

「これでできあがりです」


「やったー!」


 俺の言葉に、ミイナちゃんはにへらーと笑う。

 そして開通した穴からこちらを覗き込む。俺はそれに向かって手を振った。

 うんうん、お城ができて嬉しいね。


 桐山さんは自分の手を見つめながらじっと固まっていた。

 ごめん、俺と手が触れてしまって。

 だけどそんなにも固まるってことは好感度が順調に下がってるようだな。よし。

 

「うわー、すごーい」


「なにこれー」


 いつの間にか、周りには小さい子の人だかりができていた。

 みんなお城をみてキラキラとした目をしている。

 

「ねえねえ、一緒に遊んでもいい?」


 一人の女の子が提案してくる。

 ミイナちゃんが戸惑いながら俺を見つめる。


「このお城の主は、こちらのミイナ姫です。ミイナ姫、いかがされますか?」


 俺はいつまでもいられるわけじゃない。

 『おにいちゃん契約』でミイナちゃんと遊ぶのは楽しいけれど、ミイナちゃんには同世代のお友達が必要だと思う。


 それがこのタイミングかもしれない。


 だから、ここはミイナちゃんに促す。 

 ミイナちゃんは黙りこくり、逡巡したあと小さな口を開いた。

 

「……いいよ!」

  

 ミイナちゃんの一言に、わーい、とみんなが喜ぶ。

 わたしお姫さまの友達ねー、わたしはお母さん、じゃあオレは王様! ぼくは王子だ! え、僕も!


 城を取り囲むようにして次々におままごとが始まる。

 姫様と結ばれる王子役が人気のようだ。


 ミイナちゃんかわいいからなぁ。


 子どものなかにいつまでも高校生がいたら邪魔なので、俺はその場を離れることにした。

 公園にある水道で俺と桐山さんは手を洗って砂を落としたあと、ミイナちゃんを見守るためにベンチへ腰を下ろす。


 砂場に目をやるとミイナちゃんはみんな仲良く遊んでいた。

 男の子たちは開通した穴に水を流したり、女の子たちはお茶会の真似事をしていて楽しそうだ。

 

「ミイナちゃんってほんと無邪気だなあ」


「あの子があんなに笑うのはあなたの前だけ」


 顔を前に向けたまま桐山さんが答える。

 

「そうなの?」

 

「……そう」


 沈黙がこの場を支配する。

 子どもたちのはしゃぐ声が遠くで聞こえる。

 

「実はね、ミイナは親戚の子なの」


 なにやら重い話が始まりそうだぞ。


「それって俺が聞いても良い話?」


「あなたには、聞いて欲しい」


 さりげなく聞きたくないと言ったつもりが、ぽつりぽつりと話が続いていく。


「ミイナのご両親は事故でなくなって、身寄りのなくなったところにお母さんが養子で我が家に引き取った。私のお母さんとミイナのお母さんが姉妹だから見た目は似てるんだけどね。祖母は日本人だけど祖父が北欧の出身だから、私たちはクォーターってわけ」


 二人とも銀髪で青目だから姉妹だと思っていたけど、違ったようだった。

 それにしても重いな。


「あの日、ミイナが迷子になったのは元の家を探していたからなの。急にうちに来て親や家が恋しくなったんだろうね」


 ミイナちゃんが外に一人でいたのはそういう理由があったのか。


「そんなときに出会ったのが、あなた」


 桐山さんは俺の目をみる。


「急に出来た妹に、どう接していいか分からない私はあの子と距離を置いてた。そのせいであの子が家を出たことにも気づかなかった。だから、見つけてくれてありがとう」


 桐山さんが頭を下げた。


「それは家に届けたときにもいってもらったよ」


「そうだけど。両親を亡くした小さい子が不安だっていうのに、目を離してしまった自分自身にずっと怒ってたの。それなのに、『お兄ちゃん契約』とかいってまたあなたに頼ってしまった」


「桐山さん、顔をあげて」

 

 そして、俺は続ける。


「自分ができないことを頼るのは悪いことじゃない。それに前にもいったけどミイナちゃんの願いを叶えてあげた桐山さんはお姉ちゃんしてると思う。それに全部俺に任せても良いのに桐山さんはいつもミイナちゃんを見守ってたでしょ?」


「……ありがとう」


 彼女は目尻に浮かべていた指で拭う。


「あなたって不思議な人。私、あんまり話すのが得意じゃないのにあなたになら話すことができる」


 彼女は、晴れやかな表情となっていた。


「ねえ、小さい子と仲良くする秘訣とかある?」


 桐山さんもミイナちゃんに歩み寄ろうとしているのか。

 ここはひとつアドバイスしてあげよう。

 

「そうだなー、同じ目線で本気で遊ぶことかな」


 ギャルゲー世界で妹ができたときに最初は大変だった。

 俺も小さい子ってなに考えてるかわかんないから得意じゃなかったけど、あるとき小さい子扱いするじゃなくて対等に接するのがいいと分かったんだ。


「だから私を砂場に誘ったの? だってあんなのあなたが反対から掘ればできたでしょ」


「本当だ、気づかなかったよ。あの時は桐山さんが必要だっただけだよ」

 

「私とミイナを仲良くさせるため?」


 どうかな、と俺は肩をすくめる。

 ミイナちゃんと遊ぶのは癒しだけど、『おにいちゃん契約』が終わって解放されたいという気持ちはある。

 だから桐山さんがミイナちゃんと仲良くすればいいんじゃね、とは思っていた。


「まあきっかけにはなったんじゃないかな。手を繋いでくる時、仲の良い姉妹みたいだったよ」


 そういっておだてると桐山さんが大きく目を見張る。

 やっぱり、すごい、と小さく口づさんだ。

 

「あなたは小さい子とは沢山接してきたの?」


「まあね、これまで結構お兄ちゃんしてきたからさ」


「……妹いるの?」


「うん、いたよ」


 前の世界でな。

 転生した俺にとっては妹との記憶はあまりないから、年下の女の子が同じ家にいるって感じだったなー。


「……ごめん」

 

「ん? 別に謝ることじゃない」


 ギャルゲー世界から帰ってきてひとりっ子になった今は清々しているんだ。

 だって、年下の女の子が同じ家にいたら悶々とするだろ!


 てか、なんかこれ良い感じの雰囲気になってないか。

 相手の悩みを聞いて、それを解決した感じ。やばいラブコメに侵食されてしまう!!


「そうだ。ミイナちゃんみたいに、桐山さんも俺の妹になるか?」

 

 俺は突拍子もない提案をする。

 姉として自覚しようとしたときに妹扱いを受けるのはさぞ屈辱だろう。


 年の離れた小さい子ならまだしも、一個下の高校生を妹呼びするって勘違い男みたいで痛いよな。

「あいつ妹みたいな奴だからさー」ってどこの勘違い野郎だよ!

 

 こうして適度に、好感度を下げていかねば。


「……いいけど」


「は?」


「……にいに」


 戸惑いがちに、桐山さんが小さな声で絞り出す。

 なに言っちゃってんの?!


「にいには私のことひとりにしない?」


「あー、お姉ちゃんずるい! ミイナのお兄ちゃんなのに!」


 遊び終えたミイナちゃんがそばまで来ていた。

 

「ずるくない、ミイナのお兄ちゃんってことは、私のお兄ちゃんってことでもあるでしょ?」 


 なんだそれ、友達の友達は友達理論かよ!


「んー、そうかも」


 ちょっとミイナちゃん!?

 否定してくれ!


 桐山さんがぱちりとウインクをする。

 いやいや、同じ目線って言ったけどさ!


 ミイナちゃんはまだしも、桐山さんとも『おにいちゃん契約』ってまじかよ。


 だよねー、と桐谷さんはミイナちゃんの頭を撫でた。

 ミイナちゃんは目を丸くして驚く。


「お姉ちゃん初めて笑った」


「え?」


 そうかな、と桐山さんは頬をかく。


「笑ったおねえちゃんかわいい」  


「そうかな?」


「うんっ」


 桐山さんとミイナちゃん、二人して笑う。

 こうしてみると親戚じゃなくて本当の姉妹のように見えた


「おにいちゃん」


「にいに」


「帰ろ?」とベンチに座る俺にミイナちゃんと桐山さんそれぞれが手を差し伸べてくる。


 帰路につきながら俺は思う、どうして俺が真ん中になっているんだろう。

 普通はミイナちゃんを真ん中にして歩くんじゃないのか?

 

 二人が仲良くし始めたのにそれをいうのは無粋だなと、俺は夕焼けを背に、三つのでこぼこな影を見ながら歩いていた。



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