第23話 ギャルゲー帰りの元モブは平凡な恋愛を夢にみる
「健くん、おはよー!」
朝、玄関を開けるとピンク色にエンドカラーが黒という派手な髪に、制服を着崩したギャル。
チャラくて遊んでいるような見た目から七人の大罪、【暴食】と呼ばれる美少女泉里香がいた。
「どうしてここにいるんだ」
「えー、恋人だったら迎えに行くのは普通じゃないかな?」
「『恋人ごっこ』な?」
俺のツッコミを無視して里香は俺の腕を組む。
ここは人目がないから良いけどさ。
学校に近づくにつれ人気が多くなり里香は離れた。ある程度弁えてくれるみたいだ。
そして友達を見つけると、ばいばい、と名残惜しそうに去っていった。
俺のことを考えて学校内では大人しくするそうだ。、
いつ暴走するか分からないけど。
下駄箱で靴を履き替えていると、耳元で声がした。
「くんくん、にいにから発情猫の匂いがする。ちっ、あの女……」
「レナ、ここ学校だぞ」
振り返ると銀髪にウルフカット、切れ長の青くて綺麗な瞳をもつ美少女。
七人の大罪【憤怒】と呼ばれる桐山・フォーリン・レナがいた。
「おはよ、にいに。挨拶くらいいいでしょ?」
妹のミイナちゃんとの『おにいちゃん契約』のはずがいつしか俺のことをにいにと呼んで慕うようになっていた。
「随分な挨拶だったと思うけどな……」
俺はため息をついて、周りに聞こえないように声をひそめる。
「あとで家に行くから、また今度な」
うん、ミイナも待ってるよ、とレナは一年の教室へと向かった。
レナは気は使ってくれるけど、こうして話しかけてくることがある。
周囲の視線が痛いぜ。
昼休み、屋上で寝転びながら空を見上げて一息ついているとずっしりとした感触と共に視界が埋まる。
「どーん」
「壇ノ浦、変なもんのせるな」
「うちのおっぱい乗せられてその反応って枯れてんなあ」
体を起こすと、そこには切り揃えられたショートボブ、制服の上からもわかる抜群のプロポーションを持つ妖艶な雰囲気を醸し出す京美人。
七人の大罪のうちの【色欲】と呼ばれる壇ノ浦潤がいた。
学年は一個上で先輩だけど『友達練習』のために気安い関係を築いている。
先ほど俺の顔にのってきたのはこいつの胸だ。
呼吸もしずらいってどれだけでかいんだよ。
「寝るならうちに太ももの上で寝る?」
壇ノ浦はスカートをひらひらとさせてからかうようなにやけ面を浮かべる。
「そうさせてもらおうかな」
「え、ええ、ええええ、ほんまにいうてる?」
壇ノ浦が焦りながら、俺の顔を伺う。
「ま、まあええけど? ど、どうぞ」
「冗談だ」
「なんやの、もー!」
ぷんぷんと怒る壇ノ浦。先にそっちが仕掛けてきたんだこれくらいいいだろう。
色欲といわれてるのに感情が豊かで大人っぽいという感情を抱いたことがない。
色気のある人ってもっと落ち着いてるもんじゃないのか。
放課後、俺は喫茶店に足を運んだ。
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、制服の上からエプロンをつけたそれ以外は平凡な見た目の女の子。山田さんだ。
席に案内されて俺は注文をする。
「ナポリタンひとつ」
「また?」
「俺は一途なんだよ」
堅物だなあ、と呟いて山田さんは注文を通した。
でき上がったナポリタンを持ってきた山田さんはそのまま俺の隣に座る。
お客さんがいない時はいつもこうだ。
「今日も君は色んな女の子に囲まれて大変そうだったねー」
頬杖をついて山田さんは楽しそうに笑みを浮かべる。
俺はナポリタンを頬張りながら返す。
「見てたんだな」
山田さんは存在感がない。
だから見られていたことに気づかなかった。
「もちろんだよ。あんなショーを見逃せるわけないじゃん」
あはは、と山田さんは笑う。
肩を震わせて、目尻には涙を溜めていた。その姿にある日の光景と重なった。
「フードフェスの時もそんな風だったんだろうな」
「うん、面白すぎてあのままじゃ笑い出しそうだったから逃げちゃった」
悲しくて泣いたわけじゃなかったのか。
「最近気づいたんだけど、女の子に振り回されて大変な思いをしてる高橋くんを見てるのも好きだって」
「これ以上、厄介な嗜好を身につけないでくれよ」
山田さんはギャルゲー『君のためのハーレム』という世界からきた転生者だ。
そこで彼女は諸星凪というメインヒロインだった。
そして、多くの人に好かれている人が好きという変な思考を持つ。
そのせいで俺は『君のためのハーレム』を作る約束をした。
『恋人ごっこ』『おにいちゃん契約』『友達練習』そして、『君のためのハーレム』、ラブコメが大渋滞だ。
「というか山田さん。初めて俺の名前を呼んだね」
「あ、気づいてた? 私にとって君は普通くんだったから、これまで名前を呼べなかったの」
こうして名前を呼んでくれたってことは自分のことを明かして、何か心境の変化があったということか。
「これからよろしくね高橋健くん」
「ああ、山田多恵さん」
名前を呼んでもらえたことに喜びつつも、少し落胆する。
里香やレナ、壇ノ浦はイケメンかつ経験豊富になった俺をみている、そして山田さんは前の世界の俺を知っていた。
どれもギャルゲー世界に転生した影響だ。
モブである俺、高橋健を本当の意味で見てくれていた人はいなかったのか。
◆
「こうして健と遊ぶのは久々だね。えい」
「そうだな、最近朝陽が忙しそうにしてたし予定も合わなかったもんな。っとと」
ある日の休日、朝陽を俺の家に呼んでテレビゲームをしていた。
1対1で対戦するアクションゲームをプレイしながら近況を話していた。
王子様系イケメンである朝陽とこうして部屋で遊ぶなかというのも、クラスの奴らからしたらあり得ないと思われるのだろう。
だけど昔はこんな感じで遊んでたし、高校生になって再会した今もこうして普通に遊ぶのだ。
「フェスだったからね。実績を積むためには必要なんだよ」
朝陽は音楽で食っていきたいと考えている。だから真剣そのものだ。
高校生から組んだバンドがそのままデビューするということもあるしな。
それは険しい道だけど0じゃない。
「あれだけ騒がれてたら良い実績になったんじゃないか」
ルックスという話題性もありながら、演奏や歌唱技術もあってみんな楽しそうにしていたしな。
「え。健、みに来てくれてたのかい?」
朝陽がゲームをしていた手を止めてこっちを向く。
キラキラとしたイケメンがこちらを見るので眩しくて目を細めてしまう。
「お、おう。堂々としててかっこよかったぜ。やっぱ歌うめーな」
そして俺も手を止めていうと「ありがとう」と朝陽ははにかんでいた。
おお、その笑顔は俺にじゃなくてバンドメンバーに見せてやったら喜ぶと思うぜ。
お互いに手を止めたせいでタイムアップになり引き分けになった。
「ところでさ、教えてくれないかい泉さんとの関係について」
ああ、そうだった。
教室で里香のフォローをしてくれたときに「いつか本当のこと教えてもらうからね」といわれたんだった。
「話すタイミング逃してていってなかったな」
朝陽には、ある程度打ち明けても良いだろう。
その方がこれからもフォローしてくれたりするかもしれないしな。
「実は俺は……」
話をする前に目でわかる変化を伝えた方が飲み込みが早いだろう。
意を決して俺はメガネをゆっくりと外し、前髪を上げる。
打ち明けると決めたものの反応が少し怖いな、と朝陽を伺うもなにも驚く様子がなかった。
唖然として言葉がないのかもしれない。
「ギャルゲー世界に行って帰ってきたらイケメンになってたんだ」
「ん、健はもともとかっこいいじゃないか」
こいつはもう、優しいというかなんというか。
人を傷つけないようにつくづく人間が出来てるよな。
山田さんみたいに実は俺もイケメンでした、なんてことは絶対にない。
生徒手帳の写真と顔が違うし、両親だって変化したといってるんだから。
朝陽には俺がどう見えてるんだか。
出だしからつまづいたけど、俺は続けた。
ギャルゲー世界に行ったこと。
帰ってきてから里香やレナの妹のミイナちゃん、壇ノ浦を救ったこと。
そのせいでそれぞれに呼び出されて『恋人ごっこ』や『おにいちゃん契約』『友達練習』なんて厄介なことになっていること。
それはこの首輪のせいで逃げられないということ。
山田さんのことを話そうとすると頭に警報が鳴っていえなかった。
山田さんの情報は他の人に伝えられない類のものかもしれない……。
朝陽は俺の話を止めることなく耳を傾けてくれた。
そして全てを話し終えてからゆっくりと口を開いた。
「なるほど、合点がいったよ。だから、これまで女の子に興味のなかった健がこの三人の情報に食いついていたんだね」
「自分でいっててなんだけど、信じてくれるのか?」
飲み込みが早く戸惑う俺に、朝陽はなにをいってるんだい、と笑った。
「健のいうことだろ? 信じるよ」
さすが親友だ。頼もしいぜ。
「あー、良かった。健が三人に告白したわけじゃなかったんだ」
朝陽は胸をなでおろしていた。
俺の汚名を心配していたなんてつくづく良いやつだ。
「そうなんだよ。信じてくれてありがとな。それでさ、これからも首輪のこともあって彼女たちとの関係を続けなくちゃいけない」
「それはどうかな……」
「え」
意外にも朝陽は渋っていた。
快く引き受けてくれると思っていたのに。
「僕がバンドの練習で忙しかったのに女の子と遊んでいたなんてね」
「それは、そうだけどさ……」
朝陽はなにかに怒っているように見えた。
モテない男だったら僻んだりするだろうけど、朝陽はそんなことをするような奴じゃない。
「あー、あー。健に変な虫がつかないように一緒にいたのに。女の子の情報を伝えて、健が女の子になびいていないか確認したりもしてたのにさ。無駄だったか」
キラキラとしている朝陽が髪をわしゃわしゃ乱れさせて、気だるげな声を出す。
カーテンから差し込む西陽が逆光となって朝陽の表情に陰を落とした。
「これは僕が目を離したせいだな」
「……朝陽?」
「あの日、悩んでいた君が教室からどこかに行って僕は寂しかったんだよ?」
「それはごめん。相談に乗ってくれたのに勝手に出て行ってさ」
朝陽の助言を受けて山田さんを探しに飛び出してしまった、置き去りにしたのはたしかに悪かった。
「健は僕のもとにいてくれるって思ってたのに」
おいおい、なにふざけたこといってんだ、と口に出そうとしたその時。
――――ビービー、ビービー。
突如、頭の中で警報が鳴る。
は、どうしてこんな時に?
「健ってギャルゲー世界から帰ってきて女の子に耐性ができたんだよね?」
「ああ、そうだけど」
それがどうしたんだ、と頭に疑問が浮かぶ。
朝陽はいいながら、ぷつっ、ぷつっとシャツのボタンを外していた。
はだけたシャツの下にはタンクトップ。そこにわずかな膨らみがあった。
俺は先ほどの警報が鳴った意味を思い出す。
この首輪はヒロインを攻略する手助けだ、間違ったことを言おうとすると警報で知らせてくれる。
ヒロイン……? まさか……。
「……女?」
「ああ、そうさ。ようやく気づいてくれてんだ。小さい頃から健は僕のことを男って思ってたよね。だから、男して健の友達のままで側に誰よりも近くにいるのも悪くなかった。でも今日君の話を聞いたら我慢できなくなったんだ、ダメじゃないか僕以外の女と仲良くするなんて」
ねえ、健。朝陽の心地の良い声が鼓膜を揺らす。
「同性としての楽しい空気を壊したくないのに、異性としても発展したいなって思う僕は、【強欲】だろうか?」
朝陽の甘いフェイスがギラギラとした雰囲気に変わる。
いつもは涼しげに優しい目を獰猛に光らせて、舌なめずりをしていた。
やれやれ、どうやら俺の周りは普通の人がいないらしい……。
平凡な恋愛は夢のまた夢のようだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
これにて一区切りとさせていただきます。
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