8 生きていたら
「いや、正しく言うと、ナナカが着けていたネックレスの石からジルダの魔力を感じたんだ」
「おかしくはないだろう?ジルダはナナカの世話役であり指導もしていたから、お守りを兼ねて魔力を込めた物をナナカに渡していたんだろう」
ジルダ=イデリアルは、水と風の二つの属性持ちで、かなりの魔力持ちだった。攻撃もできるが、どちらかと言うと護りの魔法が得意で、治癒の力は突出していた。
聖女の持つ光属性は、怪我でも病気でも治せる事ができるが、水の魔法で治せるのは怪我のみ。俺がジルダと初めて会ったのは、魔獣討伐のメンバーにジルダが初めて同行した時だった。
『治癒をするのに階級は関係ありません。怪我の具合が酷い人から行います』
魔獣討伐に同行していたジルダが、かすり傷程度で喚き散らしていた候爵家のバカ子息に言い放った言葉。そのバカの横で男爵家の次男の治癒を行っていた。その次もバカではなく、子爵家の三男を治療して……キレたバカがジルダに殴りかかろうとしたところ、防御の魔法を展開させてバカを弾き飛ばしていた。
ジルダは愉快な治癒士だった。
公爵である俺でも、優遇された事は一度も無い。
そんなジルダも聖女ナナカにだけは甘かった。何よりも一番に優先していた。2人は本当の姉妹のように仲が良かった。
「俺もアーニーも勘違いか?と思って、もう一度確認しようと思ったんだけど、確認できなかったんだ。ナナカが、そのネックレスを着けていたのは結婚式とパレードと晩餐会の時だけ。翌日に招待されたお茶の時もそれ以降も、ナナカはそのネックレスを着けていなかった。“お守り”と言うなら、常に身に着けておくものじゃないか?そもそもの話、あのネックレスが“お守り”の様な感じはなかったんだよね」
赤狼獣人のラドルファスと鷹獣人のアーニーは、魔力に敏感で勘も鋭い。そんな2人が感じたもの。
「ジルダの失踪に、ナナカが絡んでいる─と言うのか?」
「………」
ラドルファスは答えないが、沈黙は肯定と同義だ。ただ、相手が聖女なだけに疑いたくないと言う気持ちもあるんだろう。でも、俺は、もともと聖女ナナカに気を許してはいない──というよりも、召喚された聖女でなければ関わりたくないタイプの女だ。
『可愛らしい』『純真無垢だ』
なんて言われているけど、俺には計算されたもののように見えて、どうしても受け入れる事ができなかった。それを姉上も感じていたんだろう。魔道士団の団長の俺が旅のメンバーに加わる事はなかった。
その上でのジルダの失踪とセオドリクとの結婚だ。
「そう言えば、マサトも結婚式に参列していなかったよ」
「あぁ……マサトは生真面目だから、納得できなかったんだろう」
マサトの世界では、重婚どころか妾や第二夫人を容認する習慣がないそうで、2人の結婚と言うよりナナカが信じられないという感じで、早々に王都から去って行ってしまった。ひょっとしたら、マサトは今でもジルダを探しているのかもしれない。
「一度、マサトに連絡を取ってみるか」
「流石、ルベールは話が早いね。俺も、もう一度あのネックレスを探ってみるよ」
ノーザンディア王国の魔道士団長の俺の目の前で、笑顔で軽く発言をするバズラス王国の王子ラドルファス。
ー王城内にある王太子妃の私物を、一体どう探ると言うのか?ー
と突っ込みたいところだが、敢えてその言葉は飲み込んだ。魔道士団の団長の俺の目の前での発言なのだから、そういう事なんだろう。
「アーニーも苦労するな」
「ご理解いただけて、嬉しい限りです」
「もし、ジルダが生きていたら、ルベールはどうする?」
「………」
ジルダが生きていたら──
ジルダは既に、ノーザンディアでは“亡き者”となっている。そうしたのは国王だ。生きていたとして『良かった』と、またノーザンディアで過ごしていく事は簡単ではないだろう。なら、ラドルファスと共にバズラスで過ごす方が良いのか?
ーそれはそれで……気に食わないなー
「取り敢えずは、国がどう動くか分からないうちは、囲っておくのが良いだろうな」
「なるほど……ルベールらしい考えだな。それじゃあ……俺はもう暫くの間、ノーザンディアに滞在するよ。アーニー、手配を頼むよ」
「もう済んでます。レックスさんが手配してくれました。ルベール様、ありがとうございます。もうし暫くの間、よろしくお願いします」
「すぐに部屋に案内させよう。今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、ルベール」
と、ラドルファスは礼を言うと、アーニーと一緒に部屋から出て行った。
『ジルダが生きていたら──』
ー少しは、面白い時間を過ごせるかもしれないなー
この感情が何と言うのかは……ジルダに本当に会えた時に分かるのだろうか?




