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消えた治癒士への執着は棄てて下さい  作者: みん


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44 丑三つ時

*セオドリク視点*




『お前に、七菜香(ななか)を救うチャンスをあげるわ』


そう言って、私の目の前に現れたのは、茶髪に金色の瞳の女性だった。

頭に獣人特有の耳があるが、何故か尻尾は3本もある。

そんな初めて見る女性から、ナナカを救うチャンスをあげると言われる理由が分からない。そもそも、救いたいなどと願った事もない。ナナカが苦しんでいるのは、自業自得なのだから。


『勘違いしては駄目だと言われなかった?ジルダを棄てて七菜香を選んだのは、お前の意思。ならば、最後まで七菜香を護りなさい。本来なら、こんな救済処置は不要なのだけど、ジルダが気にしているようだから……』

「ジルダが?」


彼女は、どこまで優しいのか。どうして、そんな優しい彼女を裏切ってしまったのか。もし、私がジルダを選んでいたら、今頃私は王太子のままで皆に祝福され幸せな時間を過ごしていただろう。


『ここは、“妖の路”と呼ばれる、私達妖の世界の出入り口である路なの』


この3尾の獣人曰く、この路は妖と呼ばれる種族のみが、“丑三つ時”と呼ばれる時間のみ通れる路なんだそうだ。その妖の路に、黒色のビー玉と呼ばれるガラス玉を3つ落としてしまったそうで、その3つのビー玉を全て拾う事ができれば、ナナカの苦痛が取り払われるという事だった。


『ただし、拾って良いのは黒色のビー玉で、3つだけ。黒色以外は拾ってはいけないし、3つ以上拾うのも駄目よ。もし、これを破ればナナカもお前も無事では済まないわ』


そう言われれば、それに従うしかない。


『それと、この路は妖しか通れない路で、人間が居れば()()()()()の。文字通りに』

「食べ……られる?」

『だから、お前が人間だと分からないようにしてあげるのだけど、お前が一言でも声を出すとその妖術が解けてしまうから、何があっても声は出さないように。最後に、妖の路は30分程で閉じてしまうから、それ迄にビー玉3つ見付けて、ここまで戻って来ること。でなければ、お前は永遠にここで彷徨う事になるわ』

「なっ!?30分!?それは無理───」

『行ってらっしゃい』


その女性がパチンッと指を鳴らすと、あたり一面が暗闇となった。






その暗闇の中、足元だけは薄っすらと白く光っている。その光る路だけを見ていなければ、暗闇に囚われてしまいそうになる。

路は一本道だから、ビー玉さえ見付ければ簡単に戻る事ができるだろう。ただ───


『───で、またあの駄犬が──』

『あぁ、だから主様が───』


『そういえば、土蜘蛛が──』


「……………………」


時々対面からやって来る者達が、今迄見た事もない容姿をしていて、気が緩んでいると、驚きのあまり思わず声が出そうになってしまう。

目が一つしかない者。口が耳の辺りまである者。顔から足が生えている者。


ー早く見付けて戻ろうー


幸いな事に、ビー玉2つはすぐに見付ける事ができた。残るはあと1つ。


ーあった!ー


すぐさま拾おうと手を伸ばすと、その少し離れた所に緑と水色がグラデーションになったビー玉が転がっている。


ージルダの色だー


ジルダの緑色の髪と水色の瞳は、太陽の光を受けると、より一層綺麗に輝いていた。このビー玉もこんな暗闇よりも、太陽の元にあれば、もっと綺麗に輝くだろうに──


「…………」


ーこれで3つだ。元の場所に戻ろうー


『そこのお前さん、このビー玉、お前さんの落とし物か?』


ーえ?ー


声をかけられ、振り返ると──


顔だけではなく、体中に目がある化け物がビー玉を持って立っていた。


「ひ─────っ!!」

『お前!人間か!久し振りの人間だ!!』


ーヤバい!!ー


そう思った瞬間、私はもと来た路を走り出した。


それからはとにかく必死に走った。


『人間だ!』

『アレは俺のモノだ!』

『皆で()()()()


はじめは1人だったのに、2人3人と増えていく化け物達。捕まれば食べられてしまう。

必死で走って走って───


『戻って来たのね』

「早くあの化け物達を何とかしてくれ!」


あの女性の元に戻って来られた。これで助かるんだと───


『お前はルールを破ったわ。お前が手にしているのは、黒色のビー玉2つと、違う色のビー玉1つ』

「あ…………」


思わず手にしていた最後のビー玉は、ジルダの色のビー玉だった。


『残念ね……』

「うわぁっ!!いっ!!」


女性がそう呟いたのと同時に、私の左足が誰かに掴まれてその場に倒れ込んだ。


『俺は硬い手足が良い』

『俺は柔らかいお腹が良い』

『あたしは……目が良い』


それぞれの化け物が、私の体に手を伸ばす。


「やめて…くれ!!痛いっっ!!」


凄まじい痛みに気を失いかけた時、遠くでパチンッという音が聞こえたのを最後に、私の意識はそこで途絶えた。





『お前が触れて良いのはナナカ(黒色)だけよ』





******



「──────くはっ!!」


目を覚ますと、そこは療養地の邸の私の寝室のベッドの上だった。


「ゆ……め?」


汗でグッショリとなった寝夜着が気持ち悪いが、手足は千切れていない。


「良かっ───」


夢で良かったとホッとしかけた時、私の手から黒色のビー玉2つが転がり落ちた。





それから2日後。ナナカが精神を病んだ末に亡くなった。この邸に来てから会話をする事も、まともに会う事もしなかったから、亡くなったと聞いても何も感じなかった。


気が付けば、私やナナカの行いの噂が広まっていたようで、私の元に来る者は誰一人居なかった。私の元に残ったのは、黒色のビー玉2つと、化け物に掴まれた左足首に残る黒色の痣だけだった。






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