19 聖女ナナカ①
「聖女様、お待ちしておりました」
「え?」
私の目の前には、恭しく頭を下げている人達が並んでいる。
ーここはどこ?ー
私が居たのは病室のベッドの上だった。
ずっと入院生活が続いていて、1週間前から体調が悪化して起き上がる事ができなくなった。
「七菜香、しっかりして」
「姉ちゃん!!」
「…………」
私の名前を呼んでいるお母さん。いつも生意気だった弟が、今は泣きながら私を呼んでいる。返事をしたいのに、声を出す事すらできない。
ーあぁ……もうダメ……なんだー
高校生活を楽しみたかったのに、入学前に入院。まだまだこれからだったのに。まさか、親よりも先に逝く事になるなんて思わなかった。
ーごめんなさいー
「「七菜香!」」
「姉ちゃん!」
そうして、私は静かに目を閉じた───
はずなのに、目が覚めると、そこはお城のような綺麗な大きなホールの真ん中にある台の上だった。
それは、まさかのラノベ展開だった。
もともと、私の体が適応するのはこの世界だったらしい。それが、違う世界で生まれてしまった為、身体が適応できずに早逝したと同時にこの世界に召喚された。
「貴方には光属性の魔力があり、ネアン女神様により、聖女として召喚されました」
私はラノベ王道の、女神に選ばれた聖女だった。
それからは、夢のような時間だった。
病気で体が不自由だったのに、体が軽くて自由に歩けて魔法まで使える。魔法は教えてもらうと、特に困ることも無く扱えるようになった。
「流石は聖女様」
と、皆が褒めてくれる。褒めてくれるのが嬉しくて、人を助ける事ができる事が嬉しかった。だから、『この世界の亀裂を浄化して欲しい』と言われた時は、勿論喜んで受け入れた。
そうして、私に魔法の指導とこの世界でのサポート役として紹介されたのが、治癒士のジルダ=イデリアルだった。
ー魔法の指導役なのに、何故治癒士?ー
と疑問だったけど、ジルダさんはただの治癒士ではなかった。勿論、治癒士としても優秀だった。それ以上に、二つの属性の魔力持ちで、魔法の扱いも魔道士並み……以上の実力者だった。おまけに伯爵令嬢で、この国の王太子の婚約者。でも、容姿は……普通。カラフルな緑色の髪には驚いたけど、水色の瞳は綺麗だなと思った。
ジルダさんは優しかった。あまり表情の変化はないけど、私を見る目はいつも優しくて、こんな人がお姉ちゃんだったら良いな──と思っていた。
本当に、そう思っていた。
「聖女ナナカ、ここでの生活は慣れて来た?何か、不便な事や困った事はない?」
「あの……大丈夫です。ありがとうございます」
「困った事があったら、いつでも私やジルダに言ってくれ」
ノーザンディア王国の王太子セオドリク様。私と同じ黒髪だけど、瞳はハチミツみたいな金色。高い身分の王太子なのに、偉ぶったりする事がなく優しい。特に、婚約者のジルダさんを見つめる目が甘い。ラノベだと、王族の婚姻は政略的なものが多いけど、この2人は純粋に思い合ってるという事が分かる。
ー羨ましいー
私も、普通の高校生活をして恋愛もしたかった。
「あ……」
ー『したかった』じゃなくて、『今からできる』んだー
そう思ってからは、色々と早かった。
私はそれなりに可愛い容姿をしているようで、私がにこにこ微笑んでいると、色んな人が私の周りに集まるようになった。聖女というのは特別な存在でもあるから、私に敵意を向けてくる人も殆どいなかった。
恋愛というものが、どんなものかいまいち分からなかったけど、私が憧れているのは王太子様とジルダさん。
ーあの2人みたいに、お互い想い合って優しい時間を過ごしたいなぁー
2人は、私にとって憧れだった。
本当に、憧れだけだった。
「もう少し早く召喚されていたら、殿下の婚約者は聖女様だったかもな」
「まぁ、今のジルダ嬢も能力的には問題無いんだろうけど……冷たいっていうか……」
「それに比べたら、聖女様は可愛いし、何と言っても聖女だから、聖女様が将来王妃にでもなったら、この国は安泰だよな」
「…………」
城内を1人で歩いている時に、偶然耳にした騎士数人の会話だった。休憩中のようで、人気の少ない回廊で、騎士達も気が緩んでいたんだろう。殿下や女官達に聞かれると罰せられるような話をしていた。
ー私が、王太子様の婚約者?王妃?ー
想像した事もなかった。私は、二度目の人生を歩めている事だけでも幸運だと、女神様には感謝していた。
セオドリク様
彼は王太子でジルダさんの婚約者で、でも、私の憧れで───
もし、私がもっと早くこの世界に来ていたら、王太子様の婚約者は私だった?ちゃんとこの世界で生まれていたら、聖女として生まれて、病気で苦しむ事もなかった?
私の生まれる所が間違ったのは、女神様の失敗なのに?
「本当は、私が手に入れるものだった?」
ジルダさんはただ、私が居なかったから、代わりに選ばれただけ……じゃないの?




