18 左足の模様
私が目を覚ましたのは、イチコさんに眠らされてから4日後、朔の日の翌日だった。
4日も眠り続けていたにも拘わらず、体力が落ちている事も空腹過ぎる事もなく、体感的には普通に一晩寝ていた時と変わらない。
「リヴィ様に時間“状態維持”の魔法をかけていたからです」
と、サラッと凄い事を宣うイチコさん。ミツが目をキラキラさせて見つめている。
「朔の日は過ぎましたけど、左足の痛みはどうですか?」
「んー……少し痛みはあるけど、いつもより痛みは小さいかな。ありがとう」
「それなら良かったです。ただ、痛みが増した原因ですが──」
「うん。何となく分かってる」
あの4人が“ジルダを探している”と知った時から、ある程度予想して気持ちだけは構えていた。
「“ジルダの存在が知られると模様が濃くなる”だよね?そして、知られると……囚われてしまう」
「そうです」
亀裂の後の浄化の時に現れた魔法陣。あの魔法陣から現れた何かは、何の迷いもなく私を捕らえた。そうして、私の水の魔力を奪っていった。魔力を奪われるという事は、命を奪われるのと同等で、かなりの痛みを伴った。あの苦痛をまた味わうの?また囚われて、残りの魔力を奪われたら、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。
「でも、あの4人には理解してもらえましたから、大丈夫です。ただ、正直に言いますが、時間稼ぎにしかなりません。繋がりを断ち切らない限り」
「……」
勿論、それも理解している。
「なので、私もここに滞在して動きます。必ず断ち切ります」
「ありがとう……」
一体誰が私を狙っているのか?
何故私が狙われているのか?
私には誰も何も言わないけど、ミツもアウラもイチコさんも知っているのかもしれない。
否。私も薄々気付いているけど、認めたくないだけなのかもしれない。
ナナカ=クリハラ
今は、この世界のこの国での名前を与えられ
ベルティーナ=ナナカ=ノーザンディア
この国の王太子妃となった。勿論、結婚した相手は王太子セオドリク様。私の元婚約者だ。
『王太子殿下と聖女様の距離、近過ぎないか?』
旅の間、よく耳に入ってきた言葉だ。
それは仕方ない事だと思っていた。王太子が聖女を護るのは当たり前の事だったから。それに、そんな事を言われていても、私に対するセオドリク様の態度は変わらず優しいものだったし、ナナカも私とセオドリク様の時間を邪魔するような事はしなかった。
でも、本当は2人が想い合っていたというなら───
ー私から魔力を奪うほど恨まれていたの?ー
「取り敢えず、朝食を準備しますね。このまま寝室で摂りますか?」
「ううん。体は元気だから、いつも通りダイニングで食べるわ」
そう言うと、ミツとイチコさんは部屋から出て行った。
ーそろそろ、ちゃんと向き合わないとねー
少しの戸惑いはありつつ、気持ちを固めた私は、私が眠っていた間の話を聞く事にした。
すると、アウラがとんでもない事を口にした。
『ヴァルナは王太子宮に捕らえられていたわ』
“ヴァルナ”とは、私と契約を交わしていた水の精霊だ。力が弱くなったとはいえ、アウラがヴァルナを間違えるはずがない。2人はずっと一緒に居たし、2人ともが私と契約を交わしているから。
『でも、今の私の力では助けるどころか近付く事もできなかったわ』
「でも、ある意味助けられなくて良かったです。助けていたら、それは“ジルダが生きている証明”になって、その存在を知られることになっていたでしょうから」
『色々厄介ね……』
王太子宮に捕らえられているという事は、ナナカが関与している可能性が高い。
「これで、一つの可能性が出てきましたね」
「可能性?」
「聖女ナナカの治癒の力が光属性ではなく、水属性によるものかもしれないという可能性です」
確かに、水属性だと病気は無理だけど怪我の治療はできる。
『でも、あの女からリヴィどころか水の魔力は感じられなかったわ』
もし、私の魔力を奪って手に入れているのなら、契約を交わしているアウラなら、ナナカから私の魔力が感じられるはず。それが感じられないどころか、魔力自体を感じられないとは?
「そもそも、他人の魔力を自分のものにするような力や魔法を、異世界から来た者ができるはずがないんです」
「なら、ナナカは魔法を使って治癒をしているのではなく、水の精霊であるヴァルナの力で治癒をしているという事ですね?」
ミツの言葉にイチコさんが頷いた。
「それが事実なら、奪われた私の魔力は一体……」
「もう少し調べる必要がありますね。それに適任の者に心当たりがあるので、その者にお願いしてみます」
イチコさんはそう言うと、すぐに部屋から出て行った。
「イチコさん、ここに来たばかりなのに、もう知り合いができたんだね」
『ネズミね』
「ネズミですね」
と、アウラとミツの声が重なった。




