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過去

あれから一睡も出来なかった。俺の前に突如現れた川澄由美子という謎の女。自分の記憶と引


き換えに特殊能力を使う事が出来る唯一の存在。


だが実際に彼女が能力を使う場面を見たわけでもなく、まだ彼女の話の全てを鵜呑みにする事


は出来ない。もしかしたらどこかで俺が命を操る事が出来る話を聞いて、かまをかけているの


かもしれない。


とにかく信用してはいけない、そう俺の直感が告げていた。


「またあの喫茶店に行くのか」


興味はあってもやはり時間が時間という事もありめんどくさい。今はたまたま大学の冬休みだ


から良いものの、普段は深夜に出歩くほど暇人ではない。しかし約束の時間にはまだ余裕があ


る。こういう日はゲームセンターにでも遊びに行って、日頃の疲れをおとした方が良いだろ


う。そう思って部屋を出ようとした直後、ポケットの中の携帯が振動した。


「ったく、気がたってるって言うのに誰からだよ」


電話の主はアドレスに登録されていない番号からだった。


「もしもし」


「もしもし由美子です」


背筋が凍りついた。俺はまだこいつに携帯の電話番号を教えていない。


「いきなりの電話ごめんなさい。驚いたかしら?」


どうすれば良い。多分ここで電話を切ったところでこの女から逃れられない。


「何のようだ。」


精一杯声を振り絞る。


「待ち合わせ明日の午前一時って言ったけど、やっぱり今から会いたくなって」


真意は分からないが、夜会うよりも昼の方が安全のような気がする。仕方なくこの女の要求に


了承し喫茶店へと向かう事になった。




「ごめん健一君。待った?」


大きく手を振りながら俺の席の隣へ腰をおろした。普段から女慣れしてないせいか、こういう


シチュエーションはものすごく恥ずかしい。


「どうしたんだよ、急に」


この子は黙っていれば可愛い子だと思う。毒舌って訳ではないが、冷徹な面が多々見受けられ


るのが難点。それさえなければ他の男は放っておかないだろう。


「健一君、昨日記憶と引き換えに命の長さを操る事が出来るって言ってたわよね?」


「それがどうした」


「やっぱり覚えてないんだね」


川澄は薄気味悪く笑っている。やはりこの女とはどこかで会っているのか。そうすれば俺の記


憶を知っているかのような素振りも納得がいく。俺だけが忘れている過去。


「忘れているようだから教えてあげる。貴方が契約したのは30代の女性じゃないわ。同い年


の10歳の女の子。どう思い出してきた?」


言われてみればそのような気もするが、やはり明確には思い出せない。


「その女の子、私だもの」


瞬時に理解する事が出来なかった。思考回路が停止する。


「え? そんな筈はない。俺は確かに中年の女性に力を貸してあげようか、って。」


「言い切れるの?」


川澄は何かをはかっている様に疑問を投げかける。自信はないがこの女ではない。いや、そう


に違いない。


「悪い、今日は帰る。少し気分が悪くなった。」


ちらりと川澄を見る。無表情で全くよめない。


「別に良いけど、何か知りたくなったらすぐに私の所に来てね」


俺は逃げるように喫茶店を後にした。ただ去り際に


「あなたは人の命を操るために記憶をなくしたわけじゃない。


消したい過去があったために仕方なく命を操っているのよ」


川澄はそのような事を言っていた。


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