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はじまり

一応15禁設定しましたが、

残酷な描写というよりも残酷な結末、ストーリーになりそうなので警告カテゴリに入れてみました。

考えさせられるような終わり方が苦手の人はあまりお勧めしません。

命の長さを操る事が出来る。


それに気付いたのは母親が肺癌にかかり、余命3ヶ月と医師から診断された時だった。


当時まだ小さかった俺は母が重い病気で入院しているという事ぐらいしかわからなく、いつか


は退院出来るけど今は休んでなければいけないという楽観的な認識しかなかった。


いつものように小学校のホームルームの終わりを告げるチャイムがなった後、一目散に母のい


る病院へと駆けていった。


「ちょっとそこの僕」


突然30代ぐらいの女性から呼び止められた。急いでいた為どうしようかと少し考えたが、耳


を傾ける事にした。


「お姉さん、今急いでるんだけどどうかしたの?」


すると女性は口元を緩ませ、少しずつこちらへと近づいてきた。


「お母さんを助けたいんでしょう?」


俺は返事をする代わりに小さくうなずいた。


「なら取引をしましょう。貴方にお母さんを助ける力を上げるわ。その代わり、記憶をいただ


けないかしら」


これが全ての始まりだった。こうして俺はこの得体の知らない女性から命の長さを操る力とい


うものを得て、母を病気から救う事が出来た。


しかしそれからの人生というのは茨の道だった。記憶を失うということは母親をも忘れてしま


うという事だ。


そしてこの人の命を操る能力を使う度に記憶を失い、大切なものを助けると同時に大切な記憶


や思い出を失った。


そんな俺にひとつの転機が訪れた。取引をしてから10年の歳月が流れたある日のこと。川澄


由美子という女性との出会い。彼女もまた記憶を失うと同時に人の感情を操る事が出来る人間


だった。


意中の相手を好きにする事も出来るし、嫌いな人間を死に追いやるほど悲しませる事も出来る


特殊能力の持ち主だった。


「川澄さんもあの女性から取引を持ちかけられたんですか」


時刻はとうに深夜二時を回っていた。喫茶店には俺と川澄さん以外の客は誰もいない。


「ええ、私も取引を小さい頃に持ちかけられてね。


その時、大きな悩みがあって解決しようとする一心で条件に応じたの。何に悩んでいたかは貴


方と同じでもう思い出せないけど」


コーヒーを一口、口にする。外では雪が舞っていた。


「そうですか、川澄さんはどうやって俺のところまでたどり着いたんですか。確か、もう10


年も前の話ですよね」


すると川澄という少女はばつが悪そうに表情を歪めた後、静かに目を閉じた。


「さあ、覚えてないわ。何せ私も小学生の頃に記憶を失ったんですもの。


それから能力を使う度にずっと。気がついたら貴方の前にいた。ただそれだけよ」


何かが引っかかる。よくわからないがこの川澄という女性どうも信用ならない。能力を使えば


記憶を失うのは事実だが、それは誰に使ったかとかその程度が消えるはず。少なくとも俺はそ


うだ。もしこの川澄という女性も同じように記憶を失うというならば俺に能力を使わない限


り、俺と出会った経緯が不明なんて事は考えられない。


もしそこまで記憶の障害が激しいならば能力を持ったこと、10年前の取引も忘れてしまって


もおかしくない筈だ。この女は嘘を吐いている。直感的にそう感じた。だが、理由がわからな


い。


「えーっと、健一君。川澄さんじゃなく由美子さんで良いから」


健一とは俺のことだ。


「わかりました由美子さん。今日は遅いですし話の続きはまた明日にしましょう」


「そうね、ではまた明日。場所はこの喫茶店で時間は深夜1時で良いかしら」


深夜1時?


「え、ちょっと待って下さい。いくら何でももう少し早い時間の方が」


俺の返事を最後まで聞く前にこの川澄由美子という女性は店を出て行った。去り際に酷く悲し


そうな目をしたように見えたのは気のせいだったのだろうか。

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