閑話休題 男たちの独り言(アドリアン)
(アドリアン視点の三人称です)
ぐっと手を握ったリルを、複雑な眼でアドリアンは眺める。
王はわざわざ他の廷臣がいる前で学院祭の話題をだし、勝負を持ちかけた。まだ社交界デビューもすませていない〈コスタス家のマリー・ブランシュ嬢〉に声をかけるという念の入れようで。今日中にこの話は都中に広がるだろう。
そして、当然、あの男の耳にも入る。
その背後にいるあの一族にも。
アドリアンは眉をひそめた。リルから眼を逸らせる。
(予定通り、ではあるけど……)
王の顔は、こちらの意想を完全に読んでいる。
(そのうえで協力してやろうと恩をうっておられるわけか。望みを果たして、憂いなく王に仕えよ、と)
自分の望みは結果的に王の益になる。そうふんでの申し出だというのに、貸しをつくるやり方が彼らしい。それに……芝居ではなく、王がリルに興味を持ったように感じたのは自分の嫉妬心ゆえだろうか。
「アドリアン」
心配げな声がして、袖をひかれた。見るとリルがこちらをのぞきこんでいた。
「私、頑張るから」
何も知らないリルのまっすぐな笑みがまぶしかった。
彼女は大嫌いと言った自分のために勝負を受けてくれた。巻きこんだのはこちらなのに、逆にこちらを心配してくれている。
彼女は決して逆境にいる相手に手を差しのべることをやめたりはしない。
そんな彼女とわかっていたから〈マリー・ブランシュ〉に選んだのに。
今さらながらに胸が痛む。
そして全身が熱くなる。王に向かって、公平だと信じているなんて啖呵を切ってみせた彼女がまぶしくて。
(君はどんな時でもかっこいいんだね、リル)
アドリアンはすっと視線を逸らせた。彼女が不審げな眼を向けるとわかっていたけれど、それ以上彼女の顔を見ることができない。
彼女のことが好きだった。大切だった。
でも今の自分はもっと深く、強く、彼女に捕まってしまったのかもしれないーーーー。




