4.不思議な少女
ぶかぶかのパーカーに帽子、どちらも黒。それが今の藍の服装だった。
藍は近くのファミレス…『ガス・イゼリア』の前に立っていた。
彼女は妙なこだわりを持っていた。
…飲食店に入る時は、店に入る前に注文を決めておく…というこだわりである。
スマホで『ガス・イゼリア』のメニューを開く。
数分ほど、毅然と佇み、ファミレスの前で陣取ってスマホを弄っていた彼女は、誰も近寄らせない雰囲気を纏っていた。
……やっぱり、グラタンとポテトと…ドリンクバーが良いかな。
そう思い、スマホから顔を上げる。
それとほぼ同時だった。
「ね、お姉さん1人?」
…ナンパか?
いや違う。声が幼い少女のソレである。
藍が声の方へ振り返る前に、声の主の方が藍の顔を覗き込んできた。
地毛っぽい銀髪に、碧眼、人形みたいに白い肌に、黒いゴスロリ。
…明らかに藍が嫌いな『非現実』に生きているタイプの人間である。
銀髪は藍の顔を見上げる。
身長差は30cmほど。藍の身長が179.2cmであることから考えて150ほどだろう。
「…誰?」
藍は露骨に嫌そうな顔で銀髪にそう聞いた。
銀髪は不思議そうな顔をした。
「ひぃはひぃだよ?」
藍は悟った。
あ…これめんどくさいタイプだ。
「あ、これ証明」
そう言って『ひぃ』?が取り出したのはマイナンバーカードだった。
藍はそれをちらっと見る。
名前は雨崎緋依、年齢は…藍と同じ17歳。
怪訝な顔でマイナンバーカードを見る藍に、緋依は小首を傾げた。
「信じられないなら、保険証とかも出すけど」
「いや…いい。で、何?私に何の用?」
「…?用事がなかったら話しかけちゃダメなの?」
…もしかしてコイツ…頭がイってる?
藍は本気でそう思った。
彼女は理解を諦めて、無視することにした。
現実に浸りきって擦れた女には、緋依のような不思議ちゃんは到底理解できないのである。
藍は『ガス・イゼリア』に入った。
「いらっしゃいませ」
受付カウンターで店員はニコリと笑い、藍を迎えた。
「お二人様でしょうか?」
店員は藍と…その後ろに付いてきていた緋依を見てそう言った。
「いや…」
「はい。二人で」
緋依は声を重ね、藍の言葉を遮った。
「わかりました。空いている席にお座り下さい」
店員がそう言い、ニコッと笑う。
藍は訂正が面倒になって、口を閉ざし、近くのテーブル席にドサッと腰掛けた。
緋依は向かい側に座る。
藍は店員に聞かれないよう口を閉ざしながら、ジト目で緋依を見た。
緋依はニコッと笑い返してきた。
「ね、お姉ちゃん。何食べよっか?今日は奢ってくれるんだよね?」
…この女…かなりしたたからしい。




