1.暇潰しに
藍は暇を潰すために指を動かす。それに合わせてピクリと身体は動いて…やっぱり途中でやめた。
燈崎藍はベッドで寝転がっていた。
…眠たいし、なんだかだるい。
時刻は午前5時頃。
彼女は割と早起きしてしまうタイプである。
バイトの予定もないし…『カンタレラ』にでも行こうかな。
藍はそう考えて、VRゴーグルを付けた。
『中庸武装商会』
カンタレラに入って一番最初に目に入ったのは、そんな看板を引っさげた小さな一軒家だった。
第57商業特別市、第一区、一丁目の一番地。
…そんな市役所か何かがありそうな地に彼女は店を構えていた。
周りには何も無い。
辺りを見渡してみても…相変わらず何も無い。
趣味で飼っている家畜の羊達が、近くにある柵で囚われているくらいである。
カランカラン
そんな音を鳴らしながら彼女は扉を開けた。
「あ、来た!」
彼女を出迎えた声はそんな甲高い声だった。
…客か。
声の聞こえた方を向くと、案の定背の低い『冒険者』達が3人いた。
男子2人に女子1人。年齢は…中学一年か…或いは小学六年生くらいかもしれない。
「は…初めまして…えっと…商人エイさんの武器が欲しくて…」
緊張気味に女子がそう言う。
商人エイとは藍が名乗っている名前で、商人Aが訛って生まれたものである。
エイは冒険者たちを見下ろした。
…冒険者たちから見れば、狐面をした黒いセーラー服の高身長痩身女子である。
かなり雰囲気があって、彼ら彼女らはそこに謎の『すごみ』を感じていた。
「欲しいものは?」
素っ気なくそう聞くエイに、活発そうな男子が言った。
「ヴェンデッタを6つ!」
「ちょ…噂だと…」
もう1人の男子が彼にそんなことを言う。
エイは気にせず、言った。
「6丁で6,000エセンね。払える?」
そう言いながらインベントリから特殊な塗装が施されたマスケット銃を6丁取り出した。
『V』
そう刻まれた黒い銃で、かなり上品な色合いでアクセントが付けられている。
冒険者たちは露骨に興奮した。
「やっぱりあの動画マジだったんだ!」
「すごい!」
「私たちだけの秘密にしよ!」
「「いいね!」」
そしてエセンを支払って、1人2丁ずつ重そうに抱えながら、嬉々として帰っていった。
「これで600円か」
エセンの正式名は『E銭』で、円の十分の一の価値を持つ電子通貨である。
「…何かコンビニでホットスナックでも買おうかな」
エイはカウンターに頬杖をつきながら、そんなことを考え始めた。




