表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ブラックバイトから解放されたら、女神の負債(ブラック)を背負わされた件」  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/19

EP 7

月兎族の女騎士と、女神の不正利用(横領)発覚

小判最中という名の「袖の下」が見事に機能し、バルガスの『鉄骨フレイル特訓』はすっかり形だけのものとなっていた。

村の広場の隅で、拓哉が適当にフレイルを素振りし、バルガスが木陰でそれを眺めて頷くという、完全に腐敗した部活動のような光景が展開されている。

「うむ、良いスイングだ拓哉! 今日はもう上がっていいぞ!」

「あざっす教官! いやぁ、厳しい特訓でしたね!」

そんな茶番を繰り広げていた時だった。

「たいへんだ! 人が、人が倒れてるぞ!!」

森の入り口の方から、血相を変えた村の男が駆け込んで来た。

「なに!?」

バルガスが顔つきを「悪代官」から「自警団の若頭」へと一瞬で切り替え、走り出す。拓哉と、木陰で休んでいたルルア、リリスも慌ててその後を追った。

村人が指さした草むらに横たわっていたのは、目を疑うほど美しい女性だった。

年齢は拓哉と同じ20歳くらいだろうか。色素の薄い銀色の髪に、ピンと立った長い兎の耳。上質な革鎧を身に纏い、手には美しい装飾の片手剣と小盾を握りしめている。

月兎族ムーンラビットか……! この辺りじゃ珍しい」

バルガスが驚きの声を上げる。だが、見惚れている場合ではなかった。

「これは酷い……重傷だ! 素人目でも分かる、急いで止血しないとヤバいぞ!」

女騎士の腹部や肩からは大量の血が流れ、銀色の髪は赤く染まっていた。息も絶え絶えで、今にも命の灯火が消えそうだ。

「すぐに私の家に運びます! 拓哉さん、手伝って!」

「分かった! バルガスさん、上着貸して! 丈夫な枝を二本通して……即席の担架を作る!」

拓哉はコンビニのバックヤードで培った(?)段ボール運びの要領と、テレビで見たサバイバル知識をフル稼働させ、脱いだ上着と木の枝で即席の担架を組み上げた。

無闇に抱き抱えて傷口を開かせないための、現代人らしい的確な判断だった。

「運びますよ! せーのっ!」

「オラァッ!!」

拓哉とバルガスの男二人がかりで担架を持ち上げ、ルルアの家へと全速力で駆け込んだ。

ルルアの家のベッドに女騎士を寝かせると、ルルアはすぐさま傷口の確認に入った。その表情が、険しいものに変わる。

「……この傷は、魔物の爪や牙で付けられたものじゃありません。鋭利な刃物……人間の武器による『斬り傷』です」

「人間同士(あるいは獣人と人間)の争いってことか……」

拓哉がゴクリと喉を鳴らす。

その横で、リリスが『エンジェルすまーとふぉん』の画面をスワイプしながら声を上げた。

「私のアプリを使えば完全回復できますけどぉ? 拓哉さんの残高、残り89万Gですよ。使っちゃいますか?」

「人命には代えられない! 頼む、リリス!」

「分かりました! お任せ下さい!」

リリスはスマホを掲げると、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「でも拓哉さんの借金が増えるのは可哀想なのでぇ……足りない分はアカウントを別にして、『ルチアナ先輩に請求がいく設定』にしちゃいます! 先輩へのささやかな復讐ですぅ!」

「お前、それ完全にクレカの不正利用じゃねえか……」

拓哉のツッコミを無視し、リリスは謎の呪文を唱え始めた。

「ポポイのポポイ! シャッキンダー!!」

「私も補佐します! 『パーフェクト・ヒール』!!」

リリスのスマホから溢れ出した黄金の光と、ルルアの杖から放たれた優しい緑色の光が混ざり合い、女騎士の体を包み込む。

致命傷だったはずの深い斬り傷が、まるでビデオの早戻しのように塞がり、血色が戻っていった。

「……う、ここは……?」

ゆっくりと、ルビーのような赤い瞳が開かれた。

「良かった! 目が覚めた!」

「ここはポポロ村です。貴女は近くの森で倒れていたんですよ」

ルルアが優しく声をかけると、女騎士は状況を察したのか、ベッドの上で居住まいを正し、静かに頭を下げた。

「そうか……命を救われたようだな。感謝する。私はラビーナ。レオンハート獣人王国・近衛騎士隊長だった者だ」

「近衛騎士隊長!? しかも『だった』って……」

拓哉がその肩書きの重さと不穏な響きに驚いていると、脳内にあの小気味よいシステム音が鳴り響いた。

『――ピンポーン♪ 人助けの善行を確認しました。』

『対象が希少種である【月兎族】のため、レアリティボーナスが適用され、30,000Gが加算されます。残り借金は860,000Gです。』

「SSR確定ガチャみたいなボーナスついた!?」

拓哉が歓喜の声を上げる一方で、リリスはスマホの画面を見つめて首を傾げていた。

「あれぇ? ルチアナ先輩のアカウントへの請求(横領)処理はどうなりましたかぁ?」

システム音声が、どこまでも冷徹な、事務的なトーンで答える。

『先ほどのご利用は、名義人ルチアナの同意を得ていない【不正利用】と判定されました。つきましては、不足分の治療費は、実行犯であるリリスの給料から毎月天引きする形となりました。ご利用は計画的に。』

「……そんなあああああっ!?」

リリスの絶望の叫びが、ポポロ村の空に響き渡る。

「神聖なる女神の私が、ペナルティで給料天引き!? これじゃあ毎日三食もやし炒め生活確定じゃないですかあああ!! ルチアナ先輩のケチぃぃぃ!」

床に突っ伏して泣き喚くジャージ姿の女神と、困惑したようにウサギ耳をピクピクと動かす元・近衛騎士隊長のラビーナ。

拓哉の借金返済ライフは、新たなヒロイン(訳あり)の加入によって、さらなるカオスの渦へと巻き込まれていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ