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「ブラックバイトから解放されたら、女神の負債(ブラック)を背負わされた件」  作者: 月神世一


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EP 2

地球の不法投棄物ゴミ、異世界にて最強の鈍器となる

「それで、俺たちはいきなりどこに飛ばされたんだ? リリス」

ジャージ姿の泥だらけ女神を引き連れ、拓哉は鬱蒼とした森の中を歩いていた。

リリスはピンク色のハードケースに入った『エンジェルすまーとふぉん』の画面をスワイプしながら、得意げに胸を張る。

「えっとですねぇ、ここはルナミス帝国(人間)、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国のちょうど国境の緩衝地帯……『ポポロ村』の近くの森ですぅ!」

「なんだそりゃ。いきなりスケールのデカい国名が3つも出てきたな」

情報量が多すぎて頭が痛い。経済学部生としては、各国の通貨価値や為替レートが気になるところだが、今はそれどころではない。

「あ、拓哉さん! この先に人の反応が! 魔物も居ますね、戦ってますぅ!」

リリスがスマホの画面を指さした。

拓哉が茂みを掻き分けて身を潜めると、少し開けた獣道で、血みどろの死闘が繰り広げられていた。

「おおい! こっちに一匹増えたぞ!!」

革鎧を着た屈強な村の青年、バルガスが剣を振り回しながら叫ぶ。

「ちぃっ、畜生め! 次から次へと湧いて出やがって!」

筋骨隆々の老人、ゴン爺が雄叫びと共に無骨な石斧を叩きつける。

彼らが相手にしているのは、巨大な蟻だった。ただの蟻ではない。外殻のあちこちに機械のパーツが融合したような、不気味で無機質なバケモノ――『死蟲機しちゅうき・死蟻型』だ。カチカチと金属音を鳴らしながら、強酸の唾液を撒き散らして村人たちを包囲している。

「ルルア! 後ろに下がってな!」

「う、うん……っ!」

バルガスに庇われながら、後方で杖を構えているのは、村の少女ルルアだった。回復魔法のタイミングを必死に伺っているようだが、顔は恐怖で青ざめている。

(……これが、異世界の戦い)

遠くから観察していた拓哉は、思わず息を呑んだ。

映画やゲームではない、本物の命のやり取り。死蟻型の吐き出した酸が木の幹をドロドロに溶かすのを見て、背筋に冷たい汗が流れる。

しかし、戦況は明白だった。

村人たちの必死の抵抗とは裏腹に、統率の取れた死蟻型の連携によって、バルガスとゴン爺は徐々にジリ貧になり、後退を余儀なくされていく。

「キャアアアアッ!」

ついに防御陣が崩れ、横合いから飛び出した一匹の死蟻型がルルアに迫った。鋭い大顎が、彼女の華奢な肩に食い込もうと開かれる。

「――っ! あのままじゃ、あの娘がやられちまう!」

考えるより先に、拓哉は茂みを飛び出していた。

武器はない。戦い方も知らない。だが、拓哉の右腕にはルチアナ名義の『魔導クレジットカード』の力が宿っている。

「えっと……発動しろ、ユニークスキル! 【リサイクルマスター】!!」

「拓哉さん!?」

リリスの制止も聞かず、拓哉は走りながら空中に現れたステータス画面を乱暴に操作した。

『地球のゴミ(中古品・廃棄物)』を召喚するスキル。どんな役に立たないゴミが出るか分からないが、手ぶらで突っ込むよりはマシだ!

ピローン♪

脳内に響く軽快な電子音と共に、空中に文字が浮かぶ。

【召喚:コンクリート詰め鉄パイプ(粗大ゴミ)】

【決済額:150G】

「……は?」

拓哉の目の前の空間が歪み、ドサッ! と重たい音を立てて**『それ』**が落ちてきた。

錆びついた太い鉄パイプ。そしてその先端には、バケツ一杯分ほどの『コンクリートの塊』がガッツリと固着している。おそらく、地球のどこかの工事現場で不法投棄された産業廃棄物だ。

「ハハッ! マジで本当の『ゴミ』じゃねぇか!」

だが。

「――武器(鈍器)としては、最高に殺意が高いぜ!!」

拓哉は走り込みの勢いを殺さず、そのコンクリート付き鉄パイプを両手でガシリと握りしめた。

ズシリと腕に伝わる、地球の重力と人工物の圧倒的な質量。

「おい! 蟲共! お前らの相手は俺だ!!」

ルルアに襲いかかろうとしていた死蟻型が、声に反応してギギッと振り向く。

拓哉は72時間ワンオペ労働で蓄積されたすべてのストレス、女神に借金を押し付けられた理不尽への怒りを、その両腕の筋肉に叩き込んだ。

「深夜のレジ打ちの苦しみ……舐めるな!!」

遠心力を乗せた、ヤンキーも裸足で逃げ出すフルスイング。

コンクリート塊が空気を裂き、唸りを上げる。

「行くぜ! オラァァァァッ!!」

グッシャアアアアアンッ!!!

森の中に、異界の昆虫の外殻がひしゃげる凄惨な音が響き渡った。

魔法も闘気も一切ない、ただの物理法則。

地球の強固なコンクリート塊と鉄パイプの質量攻撃をモロに顔面に食らった死蟻型は、断末魔を上げる暇もなく、その頭部を完全にミンチにして吹き飛ばされた。

緑色の体液を撒き散らしながら、動かなくなる死蟲機の残骸。

静まり返る森。

血に濡れた鉄パイプを肩に担ぎ、荒い息を吐くジャージ姿の青年の後ろ姿。

「す、凄い……」

腰を抜かしたルルアが、震える声で呟いた。

原始人顔負けの、洗練の欠片もない暴力的な一撃。だが、その一撃が戦場の空気を完全に変えた。

「よく分かんねぇが……すげえ加勢が来たぞ!!」

「おうさ! 今だ! 押し返せえええっ!!」

バルガスとゴン爺が、驚愕から一転、顔を真っ赤にして闘志を爆発させる。

「「「オオオオオオッ!!!」」」

拓哉の放った地球のゴミの一撃が起爆剤となり、ポポロ村の村人たちの猛反撃が始まった。

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