EP 2
FX奴隷戦士の脅迫と、ポポロ村からの旅立ち
爽やかな朝の風が、ポポロ村の広場を吹き抜けていく。
リュックを背負い、鉄骨フレイルを腰に下げた拓哉は、静かな決意を胸に村の入り口に立っていた。隣には、昨日から覚悟を決めているルルアが、大きな荷物を抱えてピタリと寄り添っている。
「そうか。拓哉、いよいよ旅立つのだな」
声のした方を振り向くと、トラベラーズマントを羽織り、剣を携えたラビーナが立っていた。銀色の髪と兎耳が朝陽に輝いている。
「ああ。ここからタナントシティへ向かうよ」
「分かった。私はお前に剣を預けた身だ。無論、共に行こう」
「ありがとう、ラビーナ。すっげえ心強いよ」
騎士の頼もしい誓いに拓哉が笑顔を見せると、その足元からシャシャッ!と猫耳の商人が滑り込んできた。
「ニャーニャも一緒に行くニャ! 都会のタナントシティに行くなら、商人の私が居たほうが絶対に有利ですニャ!」
「お、そうだな。頼りにしてるよ」
「旦那様の生み出す財産は、ぜーんぶニャーニャのものに……ニャへへへ♡」
「おい、思い切り邪な本音が漏れてるぞ。まぁいいか、ありがとうな、ニャーニャ」
頼もしい(一部、金銭的欲望にまみれた)仲間たちが揃った。
拓哉は一つ大きく深呼吸をし、村の門を見据えた。
「よし! それじゃあ、出発しよう!」
拓哉が力強く第一歩を踏み出そうとした、その時だった。
「ちょぉぉぉっと待ったああああああっ!!!」
背後から、凄まじい砂煙を上げてジャージ姿の女神が猛ダッシュで突っ込んできた。
「ハァッ、ハァッ……! わ、私! 私の事を忘れてませんかあああ!?」
「あ、気づいた?」
「あぁ〜っ!? ひどい! 傷ついた! 主神に見捨てられた見習い女神の心が、バッキバキに砕け散りましたぅ!」
わざとらしく胸を押さえて泣き真似をするリリスに、拓哉は意地悪くニヤリと笑った。
「お前は村に残って、神社で銅粒(1円)でも拾ってろよ」
「えっ、本気で置いていく気ですか!? ……分かりました。そこまで言うなら、私はお留守番しながら、拓哉さんのクレジットカードの枠(残り100万G)を全額突っ込んで、ハイレバFX奴隷戦士でもしよっかな〜〜!」
「やめて!! やめて!!」
『異世界でのFX全力レバレッジ』という、想像しただけでマグローザ漁船どころか海底開拓に送られそうな地獄のワードに、拓哉は顔面を蒼白にしてリリスの肩を掴んだ。
「分かった! 分かったから! 頼むからクレカはしまえ! リリス、お前も一緒に行こう!」
「まったくぅ、仕方ないですねぇ。拓哉さんがどうしてもって言うなら、ついて行ってあげますぅ。ぐへへ」
「やれやれ……」
完全に主導権を握られた拓哉がため息をついていると、わははっ!と豪快な笑い声が広場に響いた。
「おぅ、拓哉! ついに元気に出発だな!」
朝からすでに顔を赤くしたバルガスが、ゴン爺や多くの村人たちを引き連れて見送りに来てくれたのだ。
「でっかくなって帰ってこいよ! 次に会う時は、俺よりも強くなれや! ヒック!」
「バルガスさん、お元気で。朝から酒の飲みすぎは控えた方がいいっすよ。自警団の若頭なんだから」
苦笑しながら注意する拓哉に、今度はゴン爺が進み出て、優しく目を細めた。
「ふぉっふぉっふぉ……寂しくなるのぉ、拓哉。お主が来てから、この村は本当に面白かった。だが、これもお前の決めた道じゃ。疲れたら、いつでもここへ帰ってくればええ」
「ありがとうございます、ゴン爺。……もんどりでピラダイ釣ったこと、忘れませんよ」
拓哉が深く頭を下げると、集まった村人たちからも次々と温かい声援が飛んできた。
「拓哉! 元気でなー!」
「たまには手紙くらいよこせよ!」
「道中、魔物に気ぃつけろよ!」
「ルルアちゃんを泣かしたら承知しねぇぞー!」
その一つ一つの声が、拓哉の胸に熱く染み込んでいく。
コンビニのワンオペでボロボロになり、トラックに轢かれて(?)異世界に来た自分。右も左も分からず、理不尽な借金を背負わされたが……この村で過ごした時間は、間違いなく拓哉にとっての「青春」だった。
「拓哉さん。そろそろ行きましょうか?」
ルルアが、少し寂しそうに、けれど未来を見据えた明るい笑顔で拓哉の袖を引いた。
「あぁ。ありがとう、みんな! ポポロ村、またな〜!!」
拓哉は大きく手を振り返し、前を向いた。
ルナミス帝国、タナントシティ。
そこは、建国王・佐藤太郎の遺産が眠り、摩天楼がそびえ立つ魔導パンクの超巨大都市。
頼もしいヒロインたちと共に、型落ちのリュックを背負った青年は、己の『旗』を立てるための次なる舞台へと、元気よく歩み出したのだった。




