67.リン
翌日、昼の営業を始めようとドアを開くと、そこにリンが立っていた。
リンはかごを俺に見せて言った。
「こんにちは。これ、大翔さんに差し入れです。大翔さんはいますか?」
俺は食堂の方に向かって呼びかけた。
「大翔、お客さん」
「はーい」
大翔がパタパタと駆け寄ってきた。
「あれ? こんにちは、リンちゃん」
「こ、こんにちはっ」
リンは耳まで真っ赤になってかごを大翔に差し出した。
「これ、よかったらどうぞ。新鮮な卵と牛乳です」
「え? もらっちゃっていいの? なんで?」
「あの、母さんが、大翔さんがいつも頑張ってるから持って行けって」
「? ありがとう。エイダさんにお礼言わなくちゃ」
大翔はかごを受け取って、ニコッと笑った。リンはそれをみて両手を振りながら俯いた。
「いえ、あの、お礼なんて。大丈夫です」
大翔は俺にかごを渡すと食堂の中に戻って言った。
「リンちゃん、食事していくよね? 今日のおすすめはドリアだよ」
「はい!」
リンは目を輝かせて頷いた。俺はリンを空いている席に案内しようとした。
「あの、大翔さん……いえ、キッチンが見える席が良いです」
「了解」
俺はリンをキッチンわきのカウンター席に案内した。
「ありがとうございます」
リンの目は、キッチンの中でせわしなく動く大翔に釘付けだった。
「注文は?」
「ドリアをお願いします」
リンは大翔から目をそらさずに言った。
他のお客さんも来たので、俺は次々に席に案内したり注文を聞いたりした。
「健、料理出来たよ」
「おう」
俺は出来たてのドリアをリンの前に置いた。
「ドリアだ」
「美味しそう。大翔さんの手作り・・・・・・」
リンは両手を組んでドリアを見つめた。
「熱いから火傷しないよう気をつけてね」
大翔がキッチンからリンに声をかける。
「はい!」
リンがスプーンを動かす。
「おーい、こっちも注文いいか?」
「はい」
俺は他のテーブルに注文をとりに行った。
しばらくして、リンが立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
「銅貨20枚だ」
会計をしようとしたら、大翔が慌てて出てきた。
「あ、健、リンちゃんの代金は貰わなくて良いよ。差し入れのお礼」
「そうか?」
「いえ、ちゃんと払います! だって、奢って貰ったら次、来にくくなっちゃうので!」
「えっと、じゃあ、ちょっと待って」
大翔はキッチンからリンの持ってきたかごに何か入れて戻ってきた。
「はい。プリンが入ってるから、帰ったらエイダさんと食べてね」
「ありがとうございます」
リンは何度も振り返りながら、町に帰っていった。
「リンちゃん、可愛いね」
「お前、リンのこと好きなのか?」
「うん。蒼空のこと思い出しちゃった」
「……妹か。仲いいもんな」
「うん」
無邪気に微笑む大翔を見てホッとした。反面大翔はリンの気持ちに気付いてないのか、とため息が出てしまった。




