あなたへ 1
いきなり、この様な形で、お伝えすることをお許しください。
28年前、あなたと少しの間だけ、時を共有した男です。
私のことを覚えてくれていますか?
良くても、断片的な記憶がある程度でしょう。
偶然でも、この小説を見て、小説の彼女はあなたのことだと気づき、私のことを思い出してくれたら幸いです。
「28年前に、別れた人間が、何の用?」 と思われるでしょう。
私も、最近まで、この様なことをするつもりは、ありませんでした。
あなたと別れてから、別々の人生を歩んできました。
私の話を少しだけします。
3年ほど前に、急激に目の状態が悪化しました。
視神経が、極端に細くなったため、視機能の低下が進みました。
苦渋の決断でしたが、長年勤めていた仕事を、辞めざるを得ませんでした。
今は、あなたと出会った町と同じ県の、県庁所在地で、静かに暮らしています。
そんな中、今年になり、急にあなたのことが、私の心に広がり、苦しい日々が続いています。
例えの表現ですが、あなたと別れた時に、あなたとの関わり、全てが私の心の中に冷凍保存されていた様です。
その冷凍保存されていたものが、28年経って、突然溶けて、心に広がりました。
「そんなドラマみたいなことが、起こるのか?」 そう思うでしょう。
私自身が、過去を振り返り、出てきたものでは無かったです。
このあたりは、小説本編に書いてます。
28年ほど前の出来事、その当時の感情が、私の心に広がりました。
かけがえのない大切な想い出と、同時に、奈落の底に落とされた衝撃の両方が、自分を支配しました。
私は、二度目のショックを受けました。
現在の状況の中で、私の気持ちだけが、28年前の「あの日」 に戻った感じです。
あなたを失った、喪失感、絶望感、孤独感、一気に来ました。
年齢を重ね、しがらみの多い状況の中、気が付けば「一人ぼっち」でした。
あなたと別れた事実を受け入れたことの、自分自身へのどうしようも無い「怒り」、運命を呪いました。
私は、何故あなたをこんなに求めているのか。 理由は分かりません。
はっきりしているのは、今でも、あなたが好きだったということです。
28年ぶりに、そのことを痛感しています。
何もしなくていいから、そばにいてほしい。 そういう人だと、気付きました。
体の結びつきも大事だけど、それよりも、そばにいないと寂しい、そういう存在でした。
あの時、28年前に、汚いものに触るように、私を拒絶したあなたを忘れられません。
言いようのない、裏切られた気持ちでした。
そのことを、私自身が受けているのに、何故あなたを嫌いになれないのか。
何故、あなたが、私の心にいるのか・・・




