第31話 厄介ですね
「ボアの突進が来るぞ! 下にも注意しろ!」
ジェットの警告によってシオンたちはすばやく視線を上下に走らせた。
ここははじまりの迷宮五階層。五階層なのになぜボアがいるのかと思うかもしれないが、これが意外にも厄介極まりない。
なぜなら、五階層にはもう一種のポイロウというモンスターがいるからだ。
ポイロウは蝙蝠に似たモンスターで、常に天井から鋭い爪で狙ってくる。爪には毒があり、僧侶の解毒魔法か毒消しを用意しておかなければ危険だ。
しかし冒険者は上ばかりを気にしていられない。直線的とはいえ、ボアが地上を走りまわっており、上下に気を配らなければならないという仕様になっている。
五階層にきて最初の戦闘はシオンが弓でポイロウを全滅させ、残ったボアを全員で倒して戦闘は終了した。
「一階層よりもボアの体力が多くて厄介ですね。ボアが二匹以上いる場合はポイロウを先に倒した方が良さそうです――クラスチェンジ、≪魔術師≫」
シオンは弓でポイロウを倒すのに手間取ったからか、クラスを魔術師へとチェンジした。
シオンの狙いは正確であったが、短弓から繰り出される矢の威力・速度には限界がある。ポイロウの回避力や爪で防がれ、思ったよりも時間がかかってしまったのだ。
シオンはレベルが五に達し、力が上がっているのでそろそろ強い弓に持ち替えるべきだろう。
シオンとルリは現在、それぞれ違った感じのメイド服を着ている。
ルリは黒と白を基調としたゴスロリっぽい服で、本来なら胸を強調する仕立てなのだが、全く強調する部分が無いのが涙を誘う。背中には翼を出す穴があり、ぱたぱたと可愛らしい。
シオンは和製の給仕服っぽいが、下が短パンのようになっており、代わりに太ももまであるブーツを履いている。
両方ともオーダーメイドだ。
ルリは魔術師のローブと防御的に変わらないため、戦闘中もこの服装である。
そしてシオンも、騎士や戦士をやる時はさすがにアーマーに換装するが、狩人や魔術師をやる時はこのメイド姿であった。
シオンたちは二週間で五階層へと到達した。それは破格のスピードである。残念ながら、前代未聞のスピードというわけではなかったが。
二階層ボスのドットラットは鋭い前歯の攻撃を受けると出血のバッドステータスを受けてしまう敵だが、僧侶の回復魔法があれば問題ない。薬草から作る軟膏も止血・回復効果があるので役に立つが、即効で傷まで治る回復魔法の方が良い。
というか、僧侶のいないパーティはさすがに未来がないだろう。
三階層はトカゲとカエルの合わさったようなモンスター、ベルロンが出現する。
天井は無理だが、地面だけでなく壁を自由に動きまわりながら、舌を高速で伸ばして打撃してくる。
冒険者にとっては初の遠距離攻撃を体験することになるだろう。
ボスのベロルベロンは尻尾も頭になっており、前後の区別がない。
舌を巻き付けバインドも狙ってくるモンスターで、捕まるともう一つの舌で打たれるか、引き寄せられて爪でやられる。前後がダメなら横から攻めようとしても、体を曲げて横にも対処してくるので一見隙がない。
攻略法は三人以上で対処すること。ソロ冒険者はどれだけがんばってもここが限界であろう。
四階層は狼型のモンスター、ガウルだ。
こいつは純粋に能力が高い。
素早いスピード、鋭い牙、小回りの利く回避力に攻撃を防ぐ毛皮、と単純に器用貧乏とは言い難い、高いレベルでまとまっている。しかも、鼻が利くので先制攻撃を仕掛ける前に気づかれる。というよりも向こうから先制攻撃をしてくることすらある。
弱点らしい弱点がない、厄介な敵であった。
何度も戦って行動のパターンを見極め、レベルを上げ、純粋に戦闘力を上げることが正攻法であろう。
もちろん、こういったものには裏技があるというのが付き物なのだが……。
シオンたちはまずジェットとサツキのレベルが最初から高いこと、シオンのレベルが上がったことによる理不尽なまでの強化によって撃破した。ルリは魔術師であり、魔術師の魔術は誰が撃っても同じ威力なのだから、MPが続く限りにおいて活躍は間違いない。
強いだけあって経験値もいいので、シオンたちはここで十日間稼いだ。
ジェットとサツキはレベル七、シオンとルリはレベル五にまでアップした。
四階層ボスは双頭の狼、ラルガウルだ。
三階層ボスのベロルベロンとは違い、お尻に頭がもう一つあるわけではない。
双頭の狼といえばギリシャ神話のオルトロスを思い浮かべるかもしれないが、そこまで大層なものではない。
とはいえ、この双頭から繰り出される噛みつきは、いかに優秀な騎士でも一人では防ぎようがないであろう。
いや、左右の手に盾を持てばあるいは可能か。
普通に攻略するなら攻撃を防ぐ騎士か戦士が二人と、ダメージ源となるもう一人が必要だろう。
シオンたちは当然、ジェットとシオンの騎士を二枚用意できるし、四階層にてデュエリストに覚醒したサツキがいるので危なげなくクリアした。
デュエリストは騎士と戦士のクラスの特性を持ち、攻守に優れたクラスである。
防御なら騎士、攻撃なら戦士でいいではないか、と疑問を持つ者もいるだろうが、中間職は基本職とは異なるスキルを発揮できるため、完全にそうとばかりは言えない。
デュエリストには相手の攻撃を防ぎつつ攻撃をする≪カウンタースラッシュ≫や、高い防御力があるからこそ繰り出せる相手の攻撃を無視した攻撃≪ラッシュアサルト≫など、戦士よりもダメージを出せる場面が出てくるのだ。
こうしてシオンたちは五階層へと到達したのであった。
先週末から忙しく、更新が少なくて申しわけありません。
代わりに四年前に私が初めて書いた短編小説を発掘したので投稿しております。
恋愛ものですが、5600字程度ですのですぐに読めるかと思います。
良ければご覧ください。




