食喰総司郎の手記 6
久しぶりに手記を記しておこう。
あれから私は結局どのパーティにも入らず、三人で迷宮を攻略している。
破竹の勢いで攻略をする私たちは有名パーティに誘われもしたが、他のパーティに入る必要性をあまり感じなくなり、断った。
必要性を感じなくなった理由はいくつかある。
まず第一に、迷宮の難易度が想定よりも低かった。
というよりも、このはじまりの迷宮という場所は、冒険者を鍛えるための施設であると結論付けざるを得なかった。
モンスターには行動パターンがあり、弱点がある。それをきちんと理解し、解析すれば攻略難易度ははるかに下がる。そしてここは、それを見つけるための、ひいては戦い方の訓練施設といった感じだからだ。
このことに加えて、自然界に発生する一般の迷宮との違いを考慮すれば、このはじまりの迷宮が自然発生したものではなく、人為的――もちろん人であるとは限らないが――に作られたものであることがわかる。
それはおそらく、次の試練の迷宮もそうだろう。
最後の迷宮については、かなり詳細が異なるそうだし、資料も少ないので実際にこの眼で見るまでは判断を保留するが、とにかく、『試練』というからには最後の迷宮への試練なのだろうし、『はじまり』はそこへたどり着くための『チュートリアル』という意味と捉えて間違いない。
ようするに、はじまりの迷宮はチュートリアルであり、難易度は高くなくて当然なのである。
第二に、ジョシュアとブーカが想定よりも優秀であった。
私を護れ、という命令は単純でわかりやすく、二人は才能もあったのだろうが、すぐに優秀な盾となった。
我がパーティのメイン火力は、私自身の魔術である。その威力を見た彼ら『助手』と『部下』は、自分たちの役割をきちんと理解した。単純な話、私を護っていれば勝てるのだ。
盾としての役割を充分にこなせるようになってからは少しずつ攻撃も覚えてもらったが、それは私の呪力の節約にもなり、攻略のスピードは上がった。
さらに、私もそこから『無詠唱』、『威力調節』を覚え、さらには『スペルマスター』へのクラスチェンジまで可能にしたことで、攻略を磐石にした。地味に、モンスターそれぞれの『裏弱点属性』を知ることも大切だった。
スペルマスターは魔術と回復呪文を扱えるため、助手と部下に回復魔法をかけるのにいちいち僧侶へとクラスチェンジする必要がなく便利である上に、懸念事項であった魔術師の防御力の低さを、僧侶の防御力の高さで中和することができるすばらしいクラスであった。
まあ、かといって私は比較的打たれ弱い方ではあるのだが。
それでもレベルが上がれば基礎体力も上がってくる。
もやしのようであった以前から比べれば、体は軽く、とても充実している。
他にも細かい理由はあるが、そんなわけで、私たちは他のパーティに参加する必要性を感じなくなったのであった。
これを記している現在は、いよいよはじまりの迷宮最奥への到達を目指そうという前夜である。
ギルドで話を聞くには、最奥の転送装置は二つあるらしい。
どちらかを選ぶことができ、それぞれ別の試練の迷宮へと転送される。
特にどちらが良いということはないらしいので、別にどちらでも良いのだが、どうやら右の転送装置からいける場所の特徴はどこか『日本』を思わせる場所なのだそうだ。
まあ転移者のほとんど、もしくは全員が日本人だったらしいので、その影響だと思われる。
どうせならそこを目指してみようと考えている。
そういえば、この前、街で魔人を見た。
このレッテンのはじまりの迷宮は三つの人間国家に囲まれているため、なかなか他の人族を見ることは無いが、それでも少ないながら見かけることはある。
とくに魔人領はこの地からはかなり遠いため、わざわざこの迷宮へと来るものは少ない。
だが、人間国家にも他の人族は暮らしているし、そういう者たちが冒険者になるためにここへ来るのだろう。
そうでなければ、エルフはエルフの森にあるはじまりの迷宮へ行くだろうし、ドワーフはドワーフの、獣人は獣人の、魔人は魔人の、それぞれの領域にあるはじまりの迷宮を攻略するのが自然というものだ。
その他の少数族や亜人族たちの領域にもはじまりの迷宮があるのかは知らないが、どうなのであろうか。
そう、この事実からも、はじまりの迷宮が人為的に作られたものであると判断できる。
これを作った主は、各種族から強い冒険者を広く集めているのだ。
私をこの世界へと連れてきた存在が迷宮製作者とイコールならば、各種族にとどまらず、異世界の種族からすら集めていることになる。
それは一体何のためなのか。
その理由を突き止めることが迷宮製作者の謎へと迫る鍵のような気がしてならない。
元の世界へと帰還するには、今のところそいつの居場所を突き止める以外に道はない。
さて、明日ははじまりの迷宮攻略の最終日だ。
今はここで筆を置くとする。




