銀嶺の令嬢
北の国境を守る銀嶺辺境伯領は、一年の半分近くを雪に閉ざされる痩せた土地だった。
魔物の跋扈する山脈を背に、細々とした鉱山と牧畜だけで生計を立てるこの地の民にとって、王国中央の大貴族であるヴァイスハイト公爵家との縁組みは、まさに命綱と呼べるものだった。
公爵家は代々、氷雪の魔力に長けた一族として知られ、辺境の防衛線に強力な守護魔法と兵を送り続けてきた。
その見返りとして銀嶺の民が差し出せるものは多くない。
ならばせめて、両家の絆を血縁で固めよう――そう決めたのは、まだスカーレットが五つになるかならないかの頃だった。
スカーレット・ラングドンは、物心つく前から「ヴァイスハイト公爵家の次男、セドリック様の婚約者」として育てられた。
会ったことは一度もない。
セドリックは幼い頃から生まれつき魔力の器が弱く、長く床に伏せることが多いという理由で、王都の本邸ではなく、公爵家の飛び地である北の療養地・雪渓領で静養を続けているという話だった。
手紙のやり取りだけは、幼い頃から絶えることなく続いていた。
最初の数年は、たどたどしい文字で他愛のない便りが届いていたが、この数年、届く手紙は次第に短く、判で押したような定型文ばかりになっていった。
スカーレットはそれを、セドリックの病状が悪化しているせいだろうと、寂しく思いながらも納得しようとしていた。
十八になった年の春、その均衡が音を立てて崩れ始める。




