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血と恋  作者: 大窟凱人


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7/10

向こう側

 ドアの向こうに、怪しい奴がいる。  


 ドアスコープを覗き込んで外の様子を見てみると、うろうろと挙動不審な男。誰? ストーカー? 変質者? 春だからおかしな奴が涌いてきたのかも……。


 もう30分も部屋の前に張り付いてる。もう夜だし、このアパートの廊下を歩いてる人もいない。


 ドン!


「――っ」


 声が出そうになり、手で口を押さえる。 こいつ、ついにドアを叩き始めた。


「しーちゃん。いるんでしょ? わかってるよ。開けてよ」


 気持ち悪い声で話しかけてきた。 ストーカーじゃん……。


 ああもう、めんどくさい……せっかくいい時間だったのに台無しだ。でも黙ってやり過ごすしかないな。さっさと諦めて帰ってよ。


「ねえ! しーちゃん! 開けて! ぼくは、き、君のファンなんだ。変な奴じゃない」


 執拗に声をかけてくる。次第に語気も荒くなり、何度もドンドンとドアを叩いてくる。


「しーちゃんは今、危険な状態なんだ。ぼくが、しーちゃんを守ってあげる。だから、お願い。開けて」


「……」


 私は沈黙を決め込んだ。


「わかった。じゃあ、開けなくてもいい。ぼくは外で見張っておくから。少しでもおかしなことがあったら、遠慮なくぼくを呼んで。一晩中でもここにいる」


 一晩中だって? だあーもう。ふざけんなよこいつ。


 そんなに居座られたら迷惑だ。こうなったら強硬手段だ。


 私は部屋に戻って、カバンから防犯のために持っていた催涙スプレーを取り出した。


 そして、再びドアの前に立ち、ドアチェーンがきっちり繋がれているか確認してから、ゆっくりと鍵を開けた。閉ざされた扉が開き、隙間が生まれる。


「え? しーちゃん?」


 ストーカーは歓喜と驚きが混じった声を出し、恐る恐るドアに手をかけた。おそらく、中を覗き込んでいるだろう。


「しーちゃん、いるの? 大丈夫?」


 今だ。


 私は隙間からストーカーの顔の位置を瞬時に確認し、催涙スプレーを目に向けて吹きかけた。


「――いっ!? ぎゃああああああ!!!」


 ストーカーは目を押さえ、苦しみながら後ずさりした。 


 もがき苦しんでいる。


 少しして、姿が見えなくなったと思ったら、階段を駆け下りていく音が聞こえた。


 ……なんとか消えたか。


 しーちゃんと私の二人きりの時間を邪魔するなんて、不届きな男だ。


 私は、しーちゃんのいる部屋に戻り、彼女の冷たくなった柔らかな手を握った。 

 ああ、なんて愛おしいの。

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