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ちょうど、私が応接間に着いた時、お祖父さまの先導で入ってきた3人がいた。

一歩下がって通路を譲ると、お祖父さまが足を止めた。

「おう、シンディ。こいつが俺の長男のジョセフだ。……ジョセフ、スージーさん、マシュー。レイチェルの娘のシンディだよ」

すると、お祖父さまと談笑していた、お母さまとよく似た緑眼の男の人が、私を見て破顔する。

「大きくなったね!君が生まれた時っきりだから、私のことは知らないだろう? 君のお母さんの兄だよ。ジョセフ・サンディだ。よろしくね」

「こんにちは、シンディちゃん。ジョセフの妻のスージーですわ」

「初めまして……かな、シンディちゃん、会えて嬉しいよ! 僕はマシュー、19歳だよ、よろしくね」

「お目にかかれて嬉しいですわ。わたくしは、シンディ・カスターです」

私が微笑むと、伯父一家は揃って幸せそうに笑った。この顔知ってる。小さくてかわいいものを愛でる顔である。

……そういえば、『シンディちゃん』なんて呼ばれるのは、うんと小さな頃以来である。


「あら! 来たわね。さあ、お入りなさいな。シンディも、さあ」

タイミングよく、お祖母さまがドアを開けてくれる。

中には、既にアレクサンダーもいた。

私と目が合うが、そっと伏せられてしまう。


4人に先を譲って私が入ると、今度は執事の人が閉めてくれた。


□■□


みんなで席に着き、ほんの少しだけ早めの昼食になる。

鶏肉と野菜が煮込まれたスープが最初に運ばれてきて、みんなで念入りに感謝を捧げる。


「さあ、食べるか」

「そうね、頂きましょう」

祖父母が食べ始めるのを見て、私たちもスプーンを手に取る。

今回も、お祖母さまはみんなに話を振るが、それ以上にジョセフ伯父さまが私に興味津々だった。


「シンディちゃんは12歳……だよね? レイチェルの小さい頃にそっくりだね!」

「好きな勉強は? 歌? いいねえ、僕は音痴だったから大変でね」

「そのドレス、よく似合っているよね、ね、エリック君。かわいいお嬢さんだよね、まったく……」


などと、怒涛の勢いで話しかけてくるのである。

マシュー様やお祖母さま、お母さまが時々窘めてくれるのだが、どうやら伯父さまはお母さまをいたく可愛がっていたらしい。そのお母さまに似ているという私も、同じように可愛くてたまらないようなのである。

最愛が被っているお父さまに『あとはお任せしてしまいたい』と視線を送るが、言うまでもなく盛り上がっていたので……私はフェードアウトさせて頂いた。



□■□



私は、ちらりとアレクサンダーを見やる。

お祖父さまと談笑しているその様子におかしなところはない。

よく似た、俺様な孫と翁である。

しかし、私は気づいている。彼は私に決して視線を向けてこないのだ。

捨て台詞を吐いたのは確かに私だったが……場の中心が私になっても、視線は必ず私以外の誰かに向いていた。


別に、いいけど。


だって、されたことを思い出すと、腹が立つのは事実だから。


――だから、これでいいのよ。反省なさいな。



僅かに揺れる心を制せば、私は、いとも簡単に昼食を楽しめた。




□■□



最後に出てきたデザートまで、美味しくお腹に収めた。

ケーキに添えられていたコンポートを見て思い出したようで、

「そういえば、今年のローティは、特にいい出来になりそうなのよ。また送るわね」

紅茶を飲みながら、お祖母さまがにっこり笑う。それにいち早く反応したのは、伯父さまだ。

「本当ですか!ありがとうございます、クロークス産のローティは抜群に美味しいですからね」

「そうですね、義兄上。初めて食べた時には驚きました」

お父さまが続き、お祖父さまはニヤリと笑った。

つられてみんなが一様に笑顔になり、お礼を述べる。

食後の感謝を捧げ、解散となった。




□■□



マシュー様と伯父さま、伯母さまも私と話したそうにじーーーっと見つめてきていたが……マシュー様はアレクサンダーに誘われ、アレクサンダーの部屋で話すらしい。

伯父さまが私に話しかけてこようとするが、

「あら、あら、お兄さま!かわいい妹には見向きもして下さいませんの?」

と、兄妹お揃いの緑眼を細めたお母さまに妨害されていた(お母さまと私もお揃いの瞳の色だが)。

そのまま、お祖父さまの居室に、両親と伯父さま、4人で向かうようだ。

私がふと視線をやると、目が合った伯母さまが深い青の瞳を輝かせる。

はっきりと顔に「かわいい!」と書いてあり、何だか恥ずかしい。

「シンディ、私とスージーさんと話しましょ」

ふわり、とお祖母さまが笑顔で私を隣に座らせる。


中年の侍女と若いメイド(先程私をアレクサンダーの部屋に連れて行ってくれた子だった)が、お昼の直後にも関わらずお茶を用意してくれる。

「お菓子もお持ち致しましょうか?」

侍女が尋ねると、お祖母さまは少し考えた風だった。

「……そうね、メレンゲはあったかしら?」

「はい、ございますよ」

「ではそれをお願いするわ」

「かしこまりました、奥様」

確かに、メレンゲなら食後でもいける。前世で食べた、さくさくふわとろなメレンゲを思い出すと、頰が緩んでしまう。

「あら、シンディちゃんはメレンゲが好きなの?」

伯母さまが、弾んだ声で尋ねてくる。

「わたくしもよ。美味しいわよね」

私が頷くと、お祖母さまと伯母さまの顔がぱっと明るくなる。義親子なのに、何だかそっくりだ。


思わず、くすくすと笑ってしまうと、


「……あ、あの?」


2人とも、ふと真顔になり、私を凝視している。すごい目力。圧。なになに。

紺青と深緑の瞳に見つめられ、だらだら冷や汗が出そうだ。


「……かわいいわあ」


汗が噴き出しかけた……ところで、2人が異口同音に言う。

「かわいい……こんなかわいい孫娘がいるなんて……素晴らしい人生ですわね、お義母さま……」

「ええ、女孫は初めてなの……かわいいわあ。長生きし甲斐があるわあ」

口々に褒められてタジタジの私だが、

「そりゃあ社交界でも噂になるわ、このかわいさ……」

という伯母さまの言葉が飛び込んできた。

「社交界でも……?」

と首を傾げる。アレクサンダーもそんなことを言っていなかったか……。


「私たちは、最近はあまりクロークスから出ていないから……もう社交はジョセフやあなたに任せきりで、よく知らないのよ。アレックスもそんなことを言っていたけれど……やっぱりそうなのね」

とお祖母さまも肩をすくめた。

「……もしかして、レスリー様のつながりで?」

恐る恐る伯母さまに聞くと、こくりと頷く。

「あの、それは……どんな噂なのでしょうか」

悪い噂……だろうか。


不安になる私とは真逆に、伯母さまの目が嬉しげに細められる。


「あなたたちがかわいすぎる、って噂よ!」


□■□


なんですか、それは。


驚きすぎて、しまったと思ったときには、私は手に取ったメレンゲを齧っていた。さくさく、と軽やかな音がして、控えめで素朴な甘みがじゅわりと広がる。

「……わ、わたくしたち、ですの?」

「そうよ」

多分、私は、相当に間抜けな顔をしているはずである。サラに怒られちゃう。

「レスリーさんは、もちろん社交界でも有名でしょう。ジェラルディン嬢も1人でファルパスに留学した話は有名で……ダルリンプル候は顔が広い方だしね」

「そうよねえ」

お祖母さまも、ゆったりと相槌を打つ。

「それで、シンディちゃんとポーリン嬢は、その2人と仲良しでしょう?だから自ずと注目を集めてしまうのよ。ポーリン嬢も、大変美しい令嬢だと聞いているわ。シンディちゃんも噂でしか知らなかったけれど……噂以上ね!」

伯母さまが、私の手をガシッと握る。

「何でも、4人のことを四季に喩えている男の子までいるみたいよ。

『豪奢、そして冴え渡る冬のごとき麗人――レスリー・ハンナ・ゴードン』

『温かく、芽吹きを見守る春のごとき笑顔――シンディ・カスター』

『美貌と天質、月と太陽を兼ね人々を照らす――ポーリン・スローン』

『実りをもたらし、包み込む秋のごとき知性――ジェラルディン・ダルリンプル』

だそうよ。何でも、親戚の誕生日会で慣れないお酒を飲まされて口走ったとかいう話なの。若い方でしょうね。お気の毒に、まだ当分言われるでしょうね……」


誰だ、その気の毒すぎる人は。

厨二病なのだろうか。


「どなたか存じませんが、随分と、まあ…………」

「それは……恥ずかしいわね……しばらくどころか一生言われそうね」


私とお祖母さまがため息をつく。


「……ま、まあ、とにかくね。誰か殿方の詩(?)の心をくすぐるくらい、あなたたちの素晴らしさは轟いているのよ」


その可哀想な誰かをフォローするように、伯母さまは噂をあれこれ教えてくれた。

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