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今にも落ちてきそうな月の下で  作者: 秋辺野扉
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エピソード9

「面白い人達だったね、あの人達」


「そうだね」


目の前には大きな巨きな満月。


足元には遠く離れた地面。


ミニチュアの車、家、信号機。道路。


涼しい、と言うより少し冷たい風が頬を凪ぐ。


ここはビルの屋上。


辺り一面を見渡せる場所。


辺りでは一番高い場所。


だからこそ、誰かが来たら逃げられないような状況で僕としては不安なんだけど。


「見晴らしがいいトコで食べたい!」


と言う望の希望によりここに来た。


「大地君の焼きそば、ちょっとちょうだい」


「いいよ」


そう言って僕の器から焼きそばをとっていく。


それを一口食べて。


「うん、美味しい」


と言ってからシーフードラーメンの器に入れた。


そのまま焼きそばをすすって。


「うん、美味しい♪ 大地君も食べる?」


「……いや、遠慮しとくよ」


望はこういうところがある。


美味しいものと美味しいものを合わせればもっと美味しいものが出来る、と思っている。


カレーライスとカツを合わせてカツカレーとか、イチゴと大福を合わせてイチゴ大福にしたり。そういう感じ。


カツカレーはともかく、イチゴ大福はそんなに美味しいと思わないけど。


ちなみにお湯は持参のコンロで沸かした。


アウトドア用品は必需品だ。


お湯だけで美味しいインスタント食品が食べられるし。


そうじゃなくてもこういうのって持っておきたい。


一応僕も男だしね。


テントとか寝袋とか、テンションが上がったりする、


やっぱりというか、女の子の望はあんまり興味がなさそうだけど。


「んーっ。ごちそうさま。おいしかったー」


そう言いながら勢いよく立つ。


ひらりとスカートが舞い上がる、めくれる。


……だからそういうのはやめてほしいんだけど。


何も言わず、考えず。


食べるのに集中して、すぐさま食べ終えた。


「…………」


「…………」


風が吹く。


髪を揺らす。


頬を流れる。


波が揺れる。


星が輝く。


とても静かな時間。


「…………」


「…………」


二人、何も言わずに月を見る。


水平線に沈み込もうとしてる月を。


「………………」


月に見つめられる。


大きな月の瞳に見つめられる。


月は魔力を持っている。


そのまま。


飲み込まれそうになる。


呑み込まれそうになる。


望み込まれそうになる。


心が引かれる。惹かれる。魅かれる。


そのうち、身体も引かれそうになって。


「ねぇ、大地君」


唐突に。


そう言いながら望は振り返って。


月を指差しながら、僕を見ながら。


「わかる? あれが私の想い」


「私の愛が、世界を壊すの」


彼女はそう呟く。


爛々と、朗々と、煌々と輝く瞳で。


爛々と、朗々と、煌々と輝く月を見ながら。


大きく、巨きく。


美しくも恐ろしい。


けれど美しい月を見ながら。


今にもぶつかりそうな月を見ながら。


空の窓を突き破ってきそうな月を見ながら。


「こんな私でも、大地君は好きになってくれる?」


真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。


僕を見る。


僕の瞳を見る。


僕の瞳の中に映る月を見る。


僕の瞳の中に映る月に映る自分を見る。


まるでその中に答えでもあるかのように。


応えでもあるかのように覗き込む。


望み、込む。


そして僕は。


僕は。


「………………無理だ」


告白した。


「僕は君を好きになれない」


「僕は君を好きになっちゃいけないんだ」


そう告白した。


自分の罪を告白した。


濃く、吐くように。


「………………」


「………………」


「……ごめん、困らせちゃったね」


「私が月だから……」


悲しそうに言う。


「……違う」


僕はそれを跳ねつける。


「そうだよね、地球を壊しちゃう私の事なんか、好きになれないよね」


寂しそうに言う。


「……違う」


僕はそれを踏みつける。


「でも、私は」


「それでも私は……」


「違う!」


疲れたように言う彼女の言葉を。


僕は叩きつけた。


「……違う」


これは告白。


「君は何も悪くない……」


全く白くない告白。


そして独白だ。


「僕は君を…………」


彼女に言うわけじゃない。


ただ自分に対する懺悔。


「僕は君を……っ」


彼女を見る。


爛々と、朗々と、煌々と輝く月を背にする。


爛々と、朗々と、煌々と輝く彼女を。


小さく、細く。


美しくも恐ろしい彼女を。


とても恐ろしい彼女を。


彼女を見る。


彼女の瞳を見る。


彼女の瞳の中に映る夜を見る。


彼女の瞳の中に映る夜に映る僕を見る。


まるでその中に答えでもあるかのように。


応えでもあるかのように覗き込む。


望み、込む。


「……っ……」


そう。


彼女の瞳の中に。


僕の瞳の中に。


月の中に。


夜の中に。


「……僕は君を」


真実はある。


「……………………」


真っ赤に染まった世界の中に。


真っ赤に染まった瞳の中に。


現実はあった。


僕が見る全ては赤くなる。


身体中を循環する血液は月の引力によって頭へと溜まって行く。


血流疾患性脳障害。


通称兎病。


「壊したんだ」


僕は、兎病だった。

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