表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今にも落ちてきそうな月の下で  作者: 秋辺野扉
11/14

エピソード10

彼女が月だって?


僕に一目惚れしただって?


「っは」


「はははっ」


「ははっ、は、ははは」


笑う。


笑ってしまう。


なんて。


なんて、悪い冗談。


竹から出てきた女の子が月の姫だって言われた方が信じる。


あの話だってどうせ、捨てられてた赤ちゃんってオチなんだろうけど。


全てが陳腐だ。全てが滑稽だ。


この話だってそうだ。


いや、それより酷い。


彼女が月だって? 月が恋したって?


月の彼女が僕に恋したって?


そんな事ある訳がない。


彼女はただの人間で、僕もただの人間で。


彼女と僕はただのクラスメイトで。


一緒の学校に通って、一緒の授業を受けてただけだ。


彼女は人気者で。


僕は遠くから見つめてるだけで。


それだけの関係だった。


なのに。


その日。その夜。


兎病が発症した僕は父親を殺し母親を縊り姉を舐り。


そのまま外へと出た。


それから、偶然彼女に出会った。


想っていた。


焦がれていた。


想い焦がれていた彼女に。


誰もいなかった。


暗がりだった。


静かだった。


そして。


僕の手が、腕が、脚が、口が、歯が、舌が、涎が、喉が、骨が、臓が。


性器が、赤く染まった性器が。


脳が、赤く染まった脳が。


目が、赤く染まった目が。


生々しい全てが欲に従い、彼女を欲した。


暴力欲が、征服欲が、支配欲が。


暴力的に、征服的に、支配的に。


生存欲が生存的に。


彼女を求めた。


だから。


求め、欲し、襲った。


犯した。侵した。冒した。


――、 ――――、 ――――――。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


気付いたのは終わった後。


反芻する呼吸。


起立する性器。


鈍動する思考。


寝転ぶ彼女。


馬乗りの僕。


動かない彼女。


動かない僕。


気付いたのは終わった時。


僕がどれだけ彼女を想っていたか。


僕がどれだけ彼女を焦がれていたか。


求めていたか。欲していたか。


僕がどれだけ彼女を好きだったか。


その時初めてわかった。


「あ」


後から悔いるのが後悔だって言うなら。


あの時ほど後悔した事はなかった。


悔いて、悔いて、悔いた。


「あ」


感情が落ちて行く。


彼女への感情が。


月のように落ちて行く。


僕の中から抜け落ちて行く。


代わりに満たされていく。


重く鋭く突き刺さるような罪悪感が。


どこまでも醜く、汚く、惨く、暗く、悪辣に。


僕の心を満たしていく。


「こんばんわ、大地君」


そんな時。


下から、声が聞こえた。


教室で何度も聞いた、よく通る綺麗な声が。


「やっと会えたね」


乱れた服もそのままに。


「私、望って言うの」


ほつれた髪もそのままに。


「ありがと、私を好きになってくれて」


擦りむいた頬もそのままに。


「私もね、大地君の事、好きだよ」


それは自分を守るための嘘。


穢された自分を肯定するための虚。


散らされた自分を拒否するための偽。


「急に言われても訳わかんないよね」


彼女はその時から壊れた。


「実は私、月なんだ」


彼女はその時から『月』になった。


「……そう、なんだ」


僕はそれに頷く。


それからだ。


僕が彼女と一緒にいる事にしたのは。


償いのために。


罪滅ぼしのために。


自己満足のために。


彼女の嘘を、虚を、偽を。


守るために。


彼女を守るために。


彼女を好きにならないように。


彼女と一緒にいる事にしたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ