第十五話『マロンにゃんを助けるのにゃん!』のその⑦
第十五話『マロンにゃんを助けるのにゃん!』のその⑦
にゃあまん様の右手の拳を振るって、再びレイアにゃんの瞳にパンチを食らわす。
びしびしびしびしびしっ!
真っ赤にゃ瞳にヒビが入った。思い通りにゃ。
「割れ始めたにゃよぉ!」
「ミアン殿。今度は左手の拳だ。トドメは……オレが刺す!」
「うんにゃ。にゃら、やるにゃよぉっ!」
右の拳を引くと、今度は左手の拳を思いっ切り、ヒビ割れている瞳へと突っ込んにゃのにゃん。
ずぼっ!
『ふっふっふっふっ』
レイアにゃんから聞こえてきたのは、『不敵にゃ』という表現がぴったりの笑い声。
『なにをするつもりかは知らんが、いったはずだ。幾ら壊そうが』
「ムダといいたいのか?」
レイアにゃんの自慢げにゃお喋りを遮ったのは、いうまでもにゃく、ウチらのミロネにゃんにゃ。
「こうやって個体内でじかに顔を合わせるのは初めてだな、レイア。
先ほど、『お礼はたっぷりとさせてもらおう』とかいってたと思うが……、
それはこちらのセリフだ。
いつぞや、レミロをうろたえさせてくれたお礼だ。存分に味わってみてくれ」
『貴様……、ま、まさか……、マザーミロネかぁ!』
「そうともいうな。しかし……、
どうせ気にするなら、別なほうにすべきだったと思うが?」
ばがあぁん!
「にゃんと!」
だらりと下がる左腕。瞳の奥へと埋まっていた拳が、突如、爆発を起こしたのにゃん。
『し、しまったぁ! 邪霊子が正霊子に戻っていくぅっ!』
慌てふためいているようにゃレイアにゃんの声。少しずつにゃがら、黒い翼が塵のように消えていくさまを見れば、それも納得にゃ。
『折角手に入れた、しかも、使いでがある個体だったのにぃ……』
聞こえてきたのは、『悔しい』『無念』といった思いが込められた感のある呟きにゃ。
「レイアよ。お前さんは、たくさんの邪霊子に依って生み出された一つの意志だ。そして邪霊子とは、今やゴーストプラネットとなってしまった惑星ウォーレスで亡くなった者たちの怨念が霊力の形を成したものだ。となれば、そこから生まれたお前さんはまさに怨念の集合体といえる存在なのかもしれない。だが、どんなに強い意志であろうと、それだけでおのれを保つことは不可能だ。
天空の村に満ちている正霊子には『強い意志に惹かれる』という特性もあるから、これを利用しない手はない。なのに『死の灰』の毒を含んだモノは別として、それ以外で今の今までそうした形跡が一つも見当たらないのはどうしてか?
『使いものにならなかったから』だ。それ以外、考えられない。
正霊子に頼れないとすれば、残るはお前さんを生み出した邪霊子しかない。そうやってオレたちの前に現われることが出来たのも邪霊子があればこその話だ。いい換えるなら、お前さんにとって邪霊子の全滅は、力の源、手足、そして居場所と、自分を支えてくれる全てものがことごとくなくなることを、『滅び』を迎えることを意味する。
とまぁつまらないごたくを、ぐたぐた、と並べ立てたわけだが……。
この個体の邪霊子は間もなく全てが正霊子へと戻る。このまま個体と一緒に滅びるか、それとも邪霊子から邪霊子へと渡って逃げ延びるか。レイア、どちらを選ぶ?」
『知れたこと。滅びてたまるかぁ。逃げて逃げて逃げ延びて、でもって、いつの日か必ずや強力な個体を手に入れ、再び貴様らの前に現われてみせる』
ミロネにゃんに向かって吐いたと思われる声。『忌々しい』との嘆きが、びんびん、とこちらにも伝わってくるのにゃ。
……に対して、ミロネにゃんからは、『ははっ』と笑い声が。
「どうやら、オレよりも頭が悪いらしいな」
『な……にぃ!』
「恐れ多くも、イオラ殿からお言葉を賜わったはずだが?
忘れたというなら、オレが想い出させてやろう。
レイアよ。何度でも現われてくれ。何度でも滅ぼしてやるから」
『貴ぃ……貴ぃ……様ぁ!』
「ふっ。大好きなお喋りさえも難しくなったか。
残念ながら、楽しい語らいはここまでとみえる。
さらばだ、レイア」
『許……さ……ん……覚え……て……』
消え入るようにゃ声を残して、黒い翼は影も形もにゃくにゃっていたのにゃん。
「いられるかな、オレは」
ぽつり、と聞こえてきたミロネにゃんの呟きには、どうしてにゃのか、さみしげにゃ響きを含んでいたのにゃ。
爆発と同時に不思議にゃことが二つ起きていたのにゃ。
一つは……、お腹に居たはずのミーにゃんが右腕へと移動したのにゃん。ミーにゃん自身が動いて、じゃにゃく、気がついたら、そこに居たとのことにゃ。
で、もう一つは……、にゃあまん様の左肩から真ん丸おモチひと塊りが、押し出されるようにゃ感じで現われたのにゃ。にゃもんで左腕のおモチの塊は欠ける前とおんにゃじ数に。一番下が新たににゃ左手とにゃったのにゃん。
どちらも、ミロネにゃんが居にゃくにゃったことと、にゃにかしらの繋がりがあるように思えてにゃらにゃいウチにゃん。
(『どんにゃ風に?』と尋ねられても返答に困るのにゃけれども)
「さぁミアン殿。みんなと一緒に地上へ戻ってくれ」
ミロネにゃんの声。消えたレイアにゃんが居た辺りから聞こえてくるのにゃ。
「ミロネにゃん。あんたは?」
「オレの身体はなくなった。もうそちらには戻れない」
淡々と喋った返事の内容は衝撃的にゃ。
「そんにゃあ」
「心配するな。あとはレミロが上手くやってくれるはずだ。
ここに残っているオレの『個』、残留思念は、消える前に保守空間へと転送される。具体的にはオリオンに装填されたカプセルに閉じ込められることになる。『個』に異常がなければ新たな身体を与えられて、また君たちのところへ現われることが出来るようになる。
万が一、異常があって廃棄されたとしてもだ。新しいミロネ、シリアルNo.328が現われるはずだ。昨日までの記憶は持っているから、初対面、なんてことにはならない。
もっとも……、どんな性格の奴がなるのかは知らないが」
喋っているミロネにゃんの声が次第にかすれていくのにゃ。
「……だんだん意識が薄れてきた。それじゃあ、これだけはいっておくか。
楽しかった。探検だけじゃない。オニごっこや隠れんぼ。石蹴りや追い駆けっこ。
泳ぐのも、蔓づたいに木から木へと飛び移るのも。草むらに寝転がるのもだ。
貴殿たちと一緒だったからこそだ。想い出を一杯もらえた。有難う」
「ミロネにゃん……」
ウチはにゃんか胸が一杯ににゃって涙目に。言葉を吐き出すのもやっとにゃ。
「ぐすん。……またウチらとやろうにゃあ」
「ああ」
「ミロネにゃん……ぐすん。さよにゃらはいわにゃいにゃよぉ」
「オレもだ」
そして……交信は、ぷつり、と途絶えたのにゃん。
あとでみんにゃに聴いたのにゃけれども、どうやら、『閉じた交信』にゃったらしい。にゃもんで、ミロネにゃんが最後に喋った内容はウチにゃけしか知らにゃい。ウチも話さにゃかった。『また逢える』と固く信じていたからにゃ。
たにゃ……、『レミロにゃんが回収するみたいにゃ』とにゃけはいったのにゃん。
ミロネにゃんを失った。その喪失感に身を委ねることすら、今のウチには許されにゃかった。……というのも、またもや予想外のことが勃発したのにゃん。
知らせてくれたのは、レミロにゃんの霊覚交信にゃ。
「緊急事態です!
ミアン殿。マグマからの霊力が急接近しています!」
「にゃんと!」
ダマラの数が急激に減ったもんで、予定よりも早く勢いを増してしまったそうにゃ。実際、目で見てもにゃ。紫色に輝く光芒が、これまでのようにゃ、『とまっているのか動いているのか、さっぱり』とは、雲泥の差、といっていいくらいに、迫ってきているのが良ぉく判るのにゃん。まにゃ遠くにあるとはいえ、もたもたしている余裕はにゃさそう。
「ああでも……、ウチらはみんにゃ、にゃあまん様の中に居るのにゃよぉ。
たとえ追いつかれたとしてもにゃ。にゃんの被害もにゃいんじゃにゃいの?」
「わたくしもそう思います。ですが、確証はなに一つありません。はるか大昔に、にゃあまん殿の力を分析したことがあるにはあるのですが、現在も、その記憶部分は欠落したままなのです。
ミロネが居なくなったことで、先ほどよりも、にゃあまん殿に供給出来る心の力が落ちていることは否めません。みなさんの安全を保証出来かねるというのが現状なのです」
「にゃら、ウチらは」
「君子危うきに近寄らず。逃げられるのに逃げないという法はありません。もちろん、そのまま居て下さったほうが、こちらとしてはデータを得るのには都合がいいのです。だからといって、わたくしどもの為にわざわざ危険を冒してくださるほど、酔狂なみなさんでもありませんでしょう?」
「それはそうにゃよ」
「ミアン君。レミロ君のいう通りだ。
マロン君は助けたんだ。もうここに用はない。さっさとずらかろうよ」
「うんにゃ。それもそうにゃん」
(ミロネにゃん。ウチら行くにゃよぉ)
後ろ髪の引かれる思いが全くもってにゃい、とはいわにゃい。でもにゃ。
(みんにゃの運命はウチが握っているのにゃ。今こそ、しゃん、としにゃければ)
「にゃら、みんにゃあ! 脱出にゃあ!」
「モワン。ほら、見て。紫の光が直ぐそこまで来ているわん!」
ミーにゃんの焦ったようにゃ声に、『一刻も早く立ち去らねば』との思いが募る。
(にゃあまん様に最後の活躍をしてもらうのにゃん)
翻って、来た道を引き返し始めたのにゃ。
「みんにゃあ!
『必ず突破するのにゃん!』と、
『負けてたまるかにゃん!』と、
心に強く念じるのにゃあ!」
おぉうっ!
気炎を吐くみんにゃ。心が一つとにゃったかの如く、にゃあまん様は急加速にゃん。
ずぼぼぼぼおおぉぉっ!
にゃあまん様とマグマからの霊力。壮絶にゃる追い駆けっこの幕開けにゃん。
「おおっ! 速いのにゃん!」
行きとは段違いの速さにゃ。それでも、『早く早く』と、みんにゃがみんにゃ、大合唱。にゃもんで、ウチもにゃんにゃん熱くにゃってきた。『にゃにがにゃんでも勝ってやるのにゃん!』と闘志メラメラ。もうとまらにゃい。
ちらっ、と後ろを振り返れば、そこには、ぐんぐん、と近づいてくる紫色の光芒が。
(ええい! 負けにゃいにゃよぉっ!
思いの強さが力とにゃるのにゃあ!)
「みんにゃあ! 火口を突破するまでは断じて気をユルめるにゃあっ!」
うおぉっ!
ずぼぼぼぼおおぉぉっ!
上から下へと景色の流れるさまが加速している。急上昇している証拠にゃん。
ウチら、いや、にゃあまん様は深碧に輝く霊力の塊とにゃって突き進む。速さは間違いにゃく、『行き』の数倍。ところがにゃ。迫りくる霊力のほうも、『にゃんでそんにゃにムキににゃっているの?』と首を傾げたくにゃるくらいに、『負けてなるまじ』と意気を高めたかの如くの勢いにゃ。
(これでは、追いつかれてしまうかもにゃん!)
ミロネにゃんの不在がにゃんとも悔やまれる、と、その時にゃ。
ぴかぁっ!
上のほうから射し込んでくる強い光に照らされて、その熱さを感じて、はっ、とするウチ。恥ずかしにゃがら……、マグマの霊力にばかり気をとられて、ずぅっ、と下を見つめたまま上昇していたのにゃ。
見上げた目に映ったものは……、
狭まるぼっこぼっこの岩壁の、突き出た岩と岩の隙間から覗けるものは……、
「出口にゃあ!」
「大変、申しわけにゃい。ウチが下ばっか見ていたもんで」
「ううん。アタシだって下ばっか見ていたわん。とぉっても気になるもの」
「そうね。気になるわよね。
なにか落ちてやしないかって下ばっか向いて……と、これは違うのかしら?」
「なんていうこと!」
ばたん!
「ワタシはね。
『何度でも。
レイア。あなたが頼りとする邪霊子が一粒残らず浄化されるその日まで。
あなた自身が真の安らぎを得られるその日まで』といったの。いわば女神的サービス。
なのにどうして、『何度でも現われてくれ。何度でも滅ぼしてやるから』になるのよ。
まるで、こっちが悪党じゃない。ここは断固、マミちゃんに抗議しなきゃあ!」
がるるるうぅっ!
「レミロにゃん、ウチの交信が届いているのにゃ?」
「はい。いかがされましたか?」
「たった今にゃ。にゃにをトチ狂ったのか、イオラにゃんが頭に二本の角をとんがらせてにゃ。でもって口に牙まで生やした鬼神とにゃって、そちらへと向かったのにゃん」
「鬼神に、ですか。それは一大事ですね」
「保守空間をぶっ潰しかねにゃい剣幕にゃのにゃん。
にゃもんで早急に、回廊と保守空間のリンクを断ち切ったほうがいいと思うのにゃけれども」
「と、口でいうほど、簡単ではないのですが……。
判りました。こうやって教えて頂いたわけですし、出来るかぎりの処置は講じたいと思います」
「うんにゃ。それがいいと思うのにゃん」
「もうとっくに向こうへ着いていてもおかしくはないわん。
ねぇ、ミアン。上手くいくと思う?」
「さぁにゃ。全てはレミロにゃん、いや、マザーミロネにゃん次第……おやっ?」
ひょっこり。
「ただ今ぁ」
「あれっ? 鬼神がなくなってしまったのわん」
「ずいぶんとまぁしょぼくれた翅人型ににゃったにゃあ」
「ねぇ、イオラ。一体どうしたわん?」
「どうしたもこうしたもないわよ。
勢い込んで向こうへ行ったらね。保守空間の入り口に張り紙があったの」
「へぇ、どんな?」
「是非とも教えて欲しいのにゃん」
「それがね」
『ただ今、工事中。
大変申しわけありませんが、どなたも立ち入ることは出来ません』
「ですって。折角、勢い込んで行ったっていうのに全部パーよ。せめて」
『ただ今、工事中。
大変申しわけありませんが、関係者以外は立ち入ることが出来ません』
「だったら、蹴飛ばしてでも乗り込んだのにぃ。くうぅっ。残念無念。
ねぇ、ミーナちゃん、ミアンちゃん。
ぐすん。ワタシはどうすればいいの? ぐすん。
この怒りの矛先を一体どこに向けたら……ぐすん」
「…………」
(張り紙一枚で鬼神大精霊を追っ払うにゃんて)
「…………」
(張り紙一枚で鬼神イオラを追っ払ったなんて)
(イオラにゃんが、根がキマジメにゃのをちゃんと心得ているのにゃ)
(イオラが、根がクソマジメなのをちゃんと知り尽くしているのわん)
(さすがにゃあ、マミにゃん)
(侮れないわぁん、マミん)




