第九話『覗き見の世界にゃん!』のその③
第九話『覗き見の世界にゃん!』のその③
気まずいようにゃ雰囲気を少しでも和らげようとしてのことかもしれにゃい。こんにゃ言葉を締め括りとするレミロにゃんの声が朗々と辺りに響き渡ったのにゃん。
「ですが、こんな風にたいした能力がないからこそ、『数を増やしやすい』『姿かたちを自由自在に造れる』『異能力を付加しやすい』などといった柔軟性に富む妖体となれたのです。『ミロネ』は事態に即した観測・監視体制を敷く上で欠くことの出来ない存在です。彼もまた然り。必要とされたからこそ生まれた妖体なのです。それだけは決して間違いではありません」
ウチは、『必要とされたからこそ生まれた』の言葉に、正直、ほっ、とした気分にゃ。
(たいした能力がにゃい……かぁ。そういえばそんにゃことをいってたにゃあ)
ミロネにゃんと初めて会ったのは遊びの広場にゃ。沼の縁辺りで小石を飛ばしていた。話を聞いてみたところにゃ。どうやら、水面を滑らして向こう岸まで辿り着かせる、といったひとり遊びに興じていたらしいのにゃん。ちょうどその頃、ウチとミーにゃんは友にゃち同士のサークル『ミーにゃん同盟』を造ろうと仲間を集め始めたばかりにゃった。見れば綺麗にゃ顔立ちにゃし、どことにゃく魅かれるものもある。にゃもんで誘ってみたらにゃ。『オレは力もないし、頭も良くない。それでもいいというなら』との答え。まさにウチらが捜していた相手と大喜びにゃん。ところがにゃ。『本当にいいのにゃん?』と念を押して尋ねてみれば、『本気だったとはなぁ』にゃどと、どうしてか、ためらう様子にゃん。こうにゃるとますます仲間にしたくにゃる。そこでにゃ。ミーにゃんともども、『三顧の礼』をもって、やっとこさ友にゃちとにゃった次第にゃん。
ぽやっ、と考えごとをしていたウチの耳にレミロにゃんの声が。
「これをお受け取り下さい」
そういって差し出したのは紛れもにゃく青色の宝玉。
「むやみやたらと持ち出すわけにはいかない代物ですから、どなたかがここへお越し頂けるのを心待ちにしておりました。
まぁミアンさん辺りがお見えになるのでは、ぐらいの予想は立てていましたが」
「いいのにゃん?」
あまりの気前の良さに、ウチはちょっと不安にゃ。
「是非とも見て頂きたいものがあるのですよ」
ががぁぁん。
奇妙にゃ音色とともにレミロにゃんの眼下には……ボタンにゃろうか……細長いものがずらりと並ぶ。白光りするものの間に挟む形で、黒光りするものもところどころ見受けられるのにゃ。
「にゃんにゃの? これって」
「鍵盤、ともいうのらしいですが……、わたくし自身は呼びやすいほうの名前を使っています。これら一つ一つは『キー』、全体は『キーボード』と呼んでいます。
当然のことですが、マザーの操作はマザーとの会話に依って進められます。そして会話は全てメロディを介して行なわれます。わたくしがキーボードを弾いて問いかけの意を含んだ音色を奏でれば、マザーは答えの意を含んだ音色を奏で返してきます」
そういって両手の指で叩き始めたのにゃ。
♪ ぱらりらぱらりら…………。
レミロにゃんのメロディが流れてから、ちょっとの間を置いて、応答らしきものが返ってきたのにゃ。
♪ りろりれりろりれ…………。
「にゃ、にゃんと!」
空間全体に反響している、みたいに聴こえるメロディとともに、大きにゃ四角形の画面が宙に浮かぶ姿で現われたのにゃん。
しかもにゃ。その中に映し出されているものは。
「これは……『天空の村』じゃにゃいの」
孤島全体の姿が一つの画面に、すっぽり、と収められているのにゃ。
「そうです。パネルに表示されたこの映像に基準線のグリッドを加えてみるとぉ……」
再び両手の指を使うレミロにゃん。締めは中指で、ぽん、と。メロディのやり取りのあと、緑色をした格子状の線が映像と重にゃる。
「どう思いますか? ミアンさん」
「傾いている……みたいにゃのにゃけれども」
「その通りです。『天空の村』は今、わずかながら傾いています。いや、傾き続けているといったほうが正確かもしれません」
「そんにゃあ」
レミロにゃんの指がキーを連打。忙しげに続くキーの音色に合わせるが如く、画像や文字を映し出しているパネルが複数、現われては消え、消えては現われる、を繰り返しているのにゃん。
「ちっ」
舌打ちらしき音が耳に届いたのにゃ。にゃもんで、お隣さんの顔を覗いてみたらにゃ。にゃんかとぉっても悔しそうにゃん。
「わたくしとしたことがうかつでした。『少しずつ、ゆっくり』の変化ではあったにせよ、天空の村が傾いているのに気がつかなかったなんて。急いで過去の記録を調べてみたら、数日前から起きているのが判りました。
……ふぅ。やれやれ。保守空間を預かる者として、とんだ失態をやらかしたようです」
すっかり、しょげた感じのレミロにゃん。ウチは『保守空間を預かる者』というキーワードがにゃんとにゃく気にかかっているのにゃ。
「レミロにゃんはどうして『観測』にゃんてやっているのにゃん?」
「知りたいですか?」
「教えてくれるのにゃら」
「そうですか……。おやおや。気がつきませんで申しわけありませんでした。
立ち話もなんですから、椅子にでも座って下さい」
レミロにゃんがかざした手の先には、おんにゃじ形の椅子二つが浮かび上がってきたのにゃ。見た目にはミクリにゃんら地中ネコが使う『霊糸』で描かれた透明な立体像。枠線部分だけが白く光っているのにゃん。
「これってただの立体画像じゃあ……」
「座ってみれば判りますよ」
あらためて椅子を眺めてみるのにゃ。床から、にょきっ、と生えたようにゃ真っ直ぐに伸びたぶっとい一本足の上には、肘かけと背もたれ、そして足もたれまで備えているのにゃん。幅の広い座面も含めて、ふんわりとした形。実体の色つきにゃらば、さぞかし贅沢感を覚えるのに違いにゃい代物にゃ。
(でもにゃ。どうせ、見た目にゃけにゃん)
そう思うものの、『どうぞ』といわんばかりに右手を椅子のほうへと差し出されては、応じにゃいわけにもいかにゃい。
「にゃら」
ウチは椅子の上に乗ろうとして困ってしまった。座面近くまで来たものの、床のほうが少し高いのにゃ。にゃもんで、そのことを告げようと口を開きかかったその時にゃ。床の部分が少し低くにゃって、歩いて座面の上へと立つことが出来たのにゃ。
「大丈夫ですよ、保守空間はもうミアン殿を受け入れています。漠然とでも意識的でも、あなたがここを床にしたいと思えば、そこが床になります」
「そうにゃの? ふぅぅん」
「ですから、まかり間違っても、『ここは底なし沼』なんて夢にも思わないで下さい。
実際、どこまでも墜ちていきますから。どぉぉっ、と勢い良く、しかも無限に」
「にゃんと!」
急に悪寒がしてきたのにゃ。
「もし仮に、そうにゃったとしたら……」
「元の高さに戻りたい。そう思えばいいのですよ。それだけのことです」
「それにゃけって……」
ウチはミストにゃんのコースターを想い出したのにゃ。
(アレよりも怖いのかもにゃあ)
身震いを覚えずにはいられにゃい。
「物騒にゃところにゃん」
「楽しいところですよ。要は考え方一つです」
こともにゃげにいうレミロにゃん。実際、顔の表情も楽しそうにゃ。
「あのにゃあ」
ここでは床はあってにゃいようにゃもの。『にゃんとも、でたらめにゃ空間にゃ』と思いつつ、ふと気がつけば、足先が温もりみたいにゃ感触を得ていたのにゃん。
(にゃら)
蹲ってみるのにゃ。今度は全身に温かみが、ふんわり感とともに伝わってきたのにゃ。
「ずいぶんと不思議にゃ椅子にゃ。でも座り心地はにゃかにゃかのものにゃん」
「でしょ? こんなことも出来るのですよ」
レミロにゃんは二枚翅を背中の奥へと仕舞い込み、椅子に座ったのにゃん。『にゃにをする気にゃ?』と目をこらしていたらにゃ。背もたれを後ろに倒し、足もたれを前に起こす。でもって頭の後ろに両手を絡ませたのにゃ。ほとんど寝姿、のリラックスした格好。ちょっと自慢げにゃのも顔色から伺えるのにゃん。
「この空間はなんでも出せます。椅子も机もキーボードも。食べ物だって。残念なのはどれもがこの椅子と同じ、視覚的につまらないものばかりだってことです。ミアン殿だってそう思われますでしょう?」
「視覚的にいうのにゃら、『つまらにゃい』よりもむしろ、『落ち着きにくい』のほうが、ぴん、と来るのにゃけれども」
「きっと、周りの景色を成しているまだら模様のせいでしょう。色が変わっているだけですが、見た目には空間全体が絶えず動いている感じを受けますよね。落ち着かないのも無理はありません。わたくしだって慣れるまでにはずいぶんとかかりましたから」
「やっぱりにゃん」
「まったり、としたいのであれば、目を瞑ることですよ。
ここは静かだし、直ぐに眠れます」
「そうかもしれにゃいにゃあ。……にしても」
「どうしました?」
「見たところ、ここにはレミロにゃんしか居にゃいみたいにゃのにゃけれども」
「そうですね。オペレーターはわたくししかおりません」
「さみしくはにゃいのにゃん?」
「それも慣れました。時間だけはたっぷりありますから。それに」
「それに?」
「ふふっ。直ぐに判りますよ」
にゃんとも謎めいた言葉にゃ。まっ、それはそれとしてにゃ。レミロにゃんと話をするのがにゃんとにゃく楽しくにゃってきたのにゃ。にゃもんで、ウチはさっきの質問を繰り返してみたのにゃ。
「レミロにゃんが『観測』をやっている理由を教えて欲しいのにゃけれども?」
「まだ答えていませんでしたか。……そうですね。まっ、簡単にいえば」
続けて思いがけにゃい言葉を口にしたのにゃん。
「つかにゅことを聴きたいのにゃけれども」
「なんなの? ミアン。あらたまって」
「こんにゃことを聴いていいのかどうか……迷うのにゃけれども」
「ためらうことなんてないわん。アタシとミアンは親友同士。さっさというがいいわん」
「ミアンちゃん。ワタシたちは家族なのよ。ほらほら。遠慮なく喋ってごらんなさい」
「にゃら、お言葉に甘えて聴くのにゃけれども。
みんにゃは音楽をたしにゃむのにゃん? キーボードとかは弾けるのにゃん?」
「……さぁてと。アタシはそろそろ遊びに行かなくっちゃ」
「……さぁてと。ワタシはそろそろ森のパトロールに行かなくっちゃ」
ぱたぱたぱた。
ひゅうぅっ。
「にゃと思ったのにゃん」




