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第三話『探すのは遊びの広場からにゃん!』のその③

 第三話『探すのは遊びの広場からにゃん!』のその③


 よっぽど、『心の琴線』とやらに触れたのにゃろう。『これほど、冗舌にゃったの?』とウチが驚くくらい、ミクリにゃんはまくしたてているのにゃ。

「今は霊体になりました。糧は手に入ります。だから、やってはいけません。本能を忘れて下さい、かい?

 君のいっていることはね。ボクにしてみれば、お笑い草だ。

 ふざけないで欲しいな。そんなにあっさりと捨てられるはずがないだろう」

「で、でもぉ」

 ミムカにゃんは、たじたじ、にゃん。

「そりゃあね。お魚さんを友だちと思うのは君の勝手さ。彼ら彼女らだって天空の村に生きる命の一つ。そして命の価値に上下はない。だから、奪って欲しくないという気持ちも判らないではない。でもだからといってさ。ミアン君に、いや、ミアン君にかぎらずさ。他の誰かにまで自分の考えを押しつけるのはどうかと思うなぁ。ボクだってごめんだよ。今もいったように、こっちにもこっちなりの事情ってものがあるんだからね。君はボクたちのことも友だちと思っているんだろう? だったら、こっちの立場だって考えてくれても良さそうなもんじゃないか。分け隔てなくさ。

 この世に生まれた以上、実体霊体問わず、なんらかの生存競争に巻き込まれるもんじゃないの? それを生き抜くことが出来るのは、『運』と『実力』のどちらかを持つ者、あるいは両方を兼ね備えた者だけだ。あっ。実力の中には知恵も含まれているからね。

 とにもかくにもさ。この二つがあるかぎり、お魚さんであろうと、なんだろうと生き延び続けられる。それは歴史が証明していると思うけどなぁ」

「…………」

 ミクリにゃんは口を噤んにゃ相手へ、ここぞとばかりにダメ押しともとれる言葉を。

「ここまで話しても、なおミアン君の捕食を非難するというのであれば……、ボクたちネコ型霊体を含め、全てのネコを侮辱しているのに等しい。もし、『お魚さんを食うな』っていう考えに固執するなら、君はもう友だちじゃない。少なくともボクはそう思う。というか、友だちでないほうが君の為だ。良心の呵責かしゃくとやらに悩まされずに済む。大体さ。捕食する側とされる側の両方を友だちに出来るはずがないもの。二者選択。両立し得ない。ボクの頭にある常識をどう捻くり回しても、どう理屈をこねようとしても無理。矛盾を抱えざるを得ない。君だってそうだろう? 違うのかい?」

「それは……」

 言葉が途切れるミムカにゃん。無理もにゃい。ウチにゃって、ここまで詰め寄られたら、もはや、にゃんにもいえにゃいもん。


 惚れ惚れとしてしまうミクリにゃんの物言い。でもにゃ、戸惑いがにゃいでもにゃい。この張り詰めたようにゃ雰囲気を造り出したのが他にゃらにゅ自分自身というのがどうしても納得出来にゃい。理解不能にゃのにゃん。

(でもにゃ。事実は事実にゃ。にゃらば、ここはミクリにゃんにゃけに頼らず、自分の言葉でもはっきりといわにゃければ)

「ミムカにゃん。ミムカにゃんもいったように、ウチは今は化けネコにゃ。

 木の実やお魚にゃんを食べにゃくったって、霊力を手に入れられるのも本当にゃ。

 でもにゃ。にゃからといって、聖にゃる者ににゃったわけじゃにゃい。ウチはウチにゃ。少しも変わらにゃい。

 感情にゃってあるのにゃ。嬉しい時は喜び、悲しい時は泣く。気に入らにゃいことがあれば、不機嫌ににゃって怒ったり、喧嘩にゃってするにゃろう。

 欲にゃって、ちゃんとあるのにゃ。行きたいところがあれば、どこへでも行こうと思うのにゃ。食べたいものがあれば、それをほお張ろうと思うのにゃ。それが高じて、時には良いことも悪いことも、ズルっこにゃってするかもしれにゃい。

 感情も欲も心が生み出すのにゃもん。当然にゃんよ。ましてや、ウチはネコ。本能や習性に導かれるまま行動を起こしたとしてもにゃ、それは仕方のにゃいことにゃん。全部ひっくるめてウチにゃのにゃもん」

 ウチの言葉を耳にしたミムカにゃんの反応は素早かったのにゃん。

「じゃあ、じゃあ、なにをしても許されると?

 たとえば、お魚さんが全滅の危機に瀕したとしても?

 この沼の生態系を壊したとしても、でありますかぁ?」

(あ、あ、あのにゃあ。……考えが飛躍しすぎにゃん!)

 心は興奮気味にゃん。でもにゃ。ミムカにゃんを刺激してもまずいので、外っ面はにゃに食わぬ顔にゃ。ネコでここまで気配りするのは、ウチぐらいではにゃかろうか。

「もし、ウチがそこまでやったとしたにゃら、がつん、というべきにゃ。罰にゃって受けねばにゃらにゃいと思う。

 でもにゃ。これにゃけはいっておくのにゃ。そりゃあ、普通のネコよりは食べるかもしれにゃいのにゃけれども、にゃからといって、『乱獲』とか、生態系がどうのこうのといわれるほど、食い荒らしたことは、今の今まで一度もにゃい」

(それが証拠ににゃ)

「にゃあ、ミクリにゃん、ミムカにゃん。

『志津』に棲むお魚にゃんの数って百年前に較べて減っていると思うのにゃ?」

 にゃい、と確信している。にゃってウチが、ずぅっ、と見てきたのにゃもん。

 先ずはミクリにゃんが口を切ったのにゃ。

「いや。それはないね。むしろ、増えすぎだよ。天敵が居ないから無理もないんだけどさ。泳いでいるお魚さん同士がぶつかるなんて光景、百年前にはなかったもの。ねぇ、ミムカ君。生態系を考えるのであれば、増え続けている現状をなんとかすべきじゃないかなぁ」

「それは……確かに、魚影は濃くなっていますですが……」

 ふたりの見解もおんにゃじようにゃ。しかしにゃがら、にゃんとにゃくミムカにゃんが口にした言葉の歯切れが悪いのにゃ。

(どうしたのにゃろう?)

 答えは直ぐに判ったのにゃ。『ああ、そういうことか』とミクリにゃんが、ひとり合点したように呟いた、そのあとの言葉で。

「ミムカ君。君だってさ。昔より苦情が来ているから、良ぉく判っているんじゃないの?」

 続けて語った話に依ればにゃ。『一番居心地がいいから』との理由から、ミムカにゃんが棲み家としている岩礁の辺りって、お魚にゃんらが好む藻類や微生物が群がる穴場らしいのにゃ。そこをネコ型姿の妖体が、でぇん、と占拠しているものにゃから、不満が噴出するのも当たり前。不満は苦情とにゃって水の妖精や精霊に持ち込まれ、それが元で、ことあるごとに立退きを迫られているらしいのにゃ。

「君が、お魚さんの役に立っている、っていうところを見せれば、追い立てられずに済むかもしれないね。ううん。逆に、ここにずっと居てくれ、なんていってもらえたりして。

 でぇもねぇ。まぁ気持ちは、すっごく判るんだけどさぁ。だからといってさ。必要以上に友だちを責めるのはどうもねぇ」

「ち、違いますです!

 そんなつもりでいっているのではありませぇん。ミムカはただぁ……」

 うつむいて口ごもってしまったところをみると、単にゃる当て推量でもにゃさそう。ミムカにゃんにゃりの事情はありそうにゃ。

(でもにゃ。まずいにゃあ。このままじゃあ)

 ふたりの顔色を見て気がついたのにゃ。今ににゃって、ミクリにゃんとミムカにゃんのどちらもが、『しまったぁ、いいすぎたぁ』と後悔し始めていることを。それでも、あれにゃけのことをいった手前、『引くに引けませんですよぉ』と切羽つまっていることを。そして……、『にゃんでもいい。きっかけが欲しいのにゃけれども』と望んでいることもにゃ。

 普段は仲良くお喋りしている友にゃち同士が非難合戦しているのにゃもん。いずれはこんにゃ幕引きとにゃる、にゃんて踏んではいたのにゃけれども、……案の定にゃん。

(元々の原因はウチにある。ネコとして決して間違った行動ではにゃいものの、こんにゃ気まずい状況をいつまでもほったらかしにしておくわけにはいかにゃい)

 ダメ元でとにもかくにもにゃにか喋ってみようと思ったのにゃ。返って火に油を注ぐ結果とにゃるかもしれにゃい。それでも、にゃにかいわねば、とにゃ。

「ミクリにゃん。もう口喧嘩はそのぐらいにしようにゃん。さっき、ウチがお魚にゃんを捕まえていたことを『しょうがない』って批評したにゃろう? それはミムカにゃんもおんにゃじにゃ。お魚にゃんを友にゃちにするのもウチらを非難するのも、しょうがにゃいのにゃ。にゃんといっても『変態』にゃもん」

 ウチの顔を見ているふたり。どちらも、『なにをいっているんだい?』みたいに、きょとん、とした顔つきにゃん。

(やっぱり、逆に怒らせてしまったのかもにゃ。ミムカにゃんを……ふにゃ?

 まさか、ミクリにゃんも?)

 どちらからも返事が来にゃい。にゃもんで、不安が募るばかりにゃ。

(にゃんでもいいから早く喋って欲しいのにゃけれども)

 そして……、しばらく間を置いたあとに、

「ぷっ!」「あはっ!」

 ミクリにゃんとミムカにゃんは、ほぼ同時に吹き出したのにゃ。

「ふふっ。なぁるほどねぇ、『変態』かぁ。それじゃあしょうがないよねぇ」

 ミクリにゃんがからかい半分の表情で、ミムカにゃんの顔を覗き込む。

「失礼でありますですよ。ちゃんと、『多様型妖体』といってもらいたいでありまぁす」

 ほおを膨らませて口をとがらせている。でもにゃ。目には笑みを浮かばせているのにゃ。ついさっきのまでの刺々しい態度とは雲泥の差にゃ。

『いつもの和やかにゃ雰囲気が戻ってきた』と知ったのにゃん。

(よぉし、あと、ひと押しにゃん)

「ミムカにゃん。ウチにゃって自分の首を絞めるようにゃことはしにゃい。生態系の秩序とやらは守るのにゃよ。それは約束するにゃ。にゃからミムカにゃんもにゃ。ウチの漁を、もちょっと大目に見て欲しいのにゃけれども」

 言葉でも判るように、ウチがにゃにか譲歩した、というわけではにゃい。元々、そんにゃに食べては居にゃいのにゃもん。でもにゃ。こんにゃ風に、『あらためて』みたいにゃ形で自分の気持ちを口にしてみたら、一気に和解へと進むのでは、と期待したのにゃ。きっかけを探っていたのはミムカにゃんもおんにゃじ、と信じてのことにゃ。そして予想は……ぶふっ。モノの見事に的中にゃん。

 しぶしぶ、でもいいから、と思っていたら、あっさりと引き下がってくれたのにゃ。ミムカにゃんは、にっこり、と微笑んで、うなずいたのにゃん。

「判りましたですよ。ミアンがそう約束をしてくれるのであれば」

「だってさ。ミアン君」

 ミクリにゃんは、『やれやれ』と、安堵した様子にゃ。

(良かったにゃあ)

 ウチも、ほっ、と胸を撫で下ろしたのはいうまでもにゃい。

 友にゃちづき合いとは、かように難しいものにゃん。言動一つで、友情に亀裂が走ったり、かと思えば、和解したり、もするのにゃもん。でもにゃ。たとえ、どんにゃに難しくても、『群れたがる』気持ちが沸き起こるのにゃ。不思議といえば、不思議にゃん。


『狩猟本能』についても、思いを馳せてみたのにゃ。

 天空の村は惑星ウォーレスの大地であった時から、ガムラの霊力に満ちていて、霊体はそれを糧にしていたという。本来、能力というものは使わにゃければ、やがては淘汰されるはずにゃ。『狩猟本能』にゃって必要がにゃいのにゃら、とうの昔ににゃくにゃっていてもおかしくはにゃい。にゃにのに、今もってネコ型にはこの本能が残っているのは、どうしてにゃのか。ひょっとすると……、遠い未来に訪れるであろう、霊力の衰退。それが引き起こす『弱肉強食』にゃどと呼ばれるすさまじい生存競争に、実体を持つ者のみにゃらず、霊体でさえもが身を晒され、巻き込まれていく。そんにゃ事態に備えて、にゃのかもしれにゃい。

(でもにゃ。もしそうにゃったとしたら、翅人型の霊体はどうにゃるのにゃん?

 生き残れるのにゃん?)

 今は、『ウチの想像』でしかにゃい。でもにゃ。そんにゃ未来がふと頭をよぎった瞬間、ウチは総身の毛が逆立つようにゃ気分に見舞われたのにゃん。『どうかそんにゃことにはにゃりませんように』と祈らずにはいられにゃかったのにゃん。にゃんにも気にすることにゃく、お魚にゃんらを捕って食べてきた自分が、にゃんとも怖い存在に思えてしまったのにゃん。

(まぁネコにゃから、直ぐに忘れてしまうとは思うのにゃけれども。

 取り敢えずは、お魚にゃんを食べるのを、もちぃっと控えめに……出っ来るかにゃん?)


 そして……遅まきにゃがら探索が始まったのにゃ。『手分けして』までの広さでもにゃいので、三にん一緒の行動にゃん。

「沼の中ってどこもかしくも濁っているところばかり、と思っていたのにゃけれども……、

 ここはにゃかにゃか綺麗にゃん」

 水が予想外に澄んでいるのにゃ。沼底近くににゃればにゃるほど。にゃもんで視界は良好。泳ぎ回るのに障害とにゃるほどの、背が高い岩礁群も見当たらにゃい。にゃもんで、探索は極めて順調。

(順調すぎるのにゃん)

 とどのつまり、『もうこれで終わりかい?』とミクリにゃんが呆れるくらい、あっという間に終わったのにゃん。

 さて結果はといえば……残念至極にゃのにゃけれども、どこにも『宝玉』の『ほ』の字の気配すら感じられにゃかった。

(とにゃればにゃ)

「ミクリにゃん」

「うん、行こう! ボクのナワバリへ」

 うなずいて微笑む友にゃち。口にしたのは地中へといざなううセリフにゃん。


「第三話もこれで終わりにゃあん!」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「ねぇ、ミアンちゃん」

「にゃんにゃ? イオラにゃん」

「ひょっとして、ミクリちゃんに『ほ』の字なの?」

「あのにゃあ。にゃにをどう考えれば、そうにゃるのにゃん?」

「あら。自分を弁護してくれる優しい殿方に好意を持つ。極めて自然なことじゃない。

 そうだ! 思い立ったら、吉日だわ」

 ぺらぺら。ぺらぺら。

「もしもし、イオラにゃん。

 にゃあんで、結婚式場のパンフレットにゃんか見ているのにゃん?」

「だけじゃないわん。ほら、旅行先のパンフレットも。

 うわっ。見てよ。『赤ちゃん、こんにちは』の本まで、ここに溜め込んでいるわん」

「ふぅ。長いこと仕舞い込んでいたけど、やっと、陽の目を見る時が来たわ」

「にゃあ、ミーにゃん。長いことって、誰と誰の為に集めていたのにゃろう?」

「まさかとは思うけど、自分の為じゃ……」

「にゃとしたら、相手は……聴くまでもにゃいにゃあ」

「うん。聴くまでもないわん」


 ぶるっ。

「おっ。どうした? ネイル」

「なんでしょうか。急に悪寒が。

 変ですねぇ。今日は暑いくらいなのに。

 ソラの顔を、ずぅっ、と見続けているわけでもないのに」

「けっ。ぁるかったなぁ。こんなつらでよぉ」


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